01 新たなる課題
『天使中学』の落ちこぼれであった少年、ヘルロウ・ヘヴンハンドラー。
彼は所属するクラスの『還りの会』において、クラスメイト総出での弾圧を受け、委員長から『堕天』処分を言い渡される。
それはヘルロウの反論も、弾圧の根拠も示されないまま判決が下されるという、一方的なものであった。
いつもであれば反対してくれる、担任教師のユズリハ先生もおらず、運命の断槌は下されてしまった。
「 天 ・ 国 ・ 追 ・ 放 ……っ !!!! 」
それがヘルロウが耳にした、クラスメイトの最後の言葉であった。
ヘルロウは天使の能力をすべて奪われ、77日間もの間、天国と地上を引き回しにされたあと……。
地獄に墜された。
通常、地獄に堕ちた天使の寿命はセミよりも短いとされているが、ヘルロウは奇跡的に生き延びる。
生命以外は何もかも失ってしまったものの、彼は決してくじけなかった。
ヘルロウは創造天使であった経験と知恵を活かし、地獄での新生活を始める。
こんな不毛の極地ともいえる場所で、どうやって……?
しかしそれは一般論に過ぎなかった。
この少年にかかれば、たとえ地獄であっても……。
物資あふるる、希望の地だったのだ……!
『賽の河原』にあった石や、枯れた木や骨などの素材として、様々なものを創り上げていくヘルロウ。
いつしか地獄の鬼たちをも味方につけ、ついには地獄の総本山の一角である『等活地獄』を密かに手に入れる。
地獄のそばに『ヘルロウ村』を創り上げ、多くの亡者たちに新たなる生活を与えていた。
すべてを失った状態から、ついに村まで創りあげてしまった堕天使ヘルロウ。
神と悪魔の手を持つ少年の手から、次に生み出される『クラフト』とは、いったい……!?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ヘルロウは『ヘルロウ村』にある、石造りの家のなかで、鬼たちを集めて話をしていた。
「この村ができたことで、亡者たちを受け入れて、養うための基盤はおおよそ整った。次は労働力の質の向上を図るぞ」
「ロードーリョクの、シツノコウジョウ?」
ピンクの髪にピンクの肌、一本角にポニーテールのメス鬼、ピンキーが首を傾げながら尋ね返す。
彼女は『賽の河原』を管理していた美少女鬼である。
「異国の言葉ですね。しかも違う国の言葉をふたつ組み合わせたものです。『ロード』は『君主』、『リョク』は『粘性』。指導者として粘り強くありたいという意味ですよ」
隣にいた水色のオス鬼、ミヅルが補足する。
彼もまた、『賽の河原』を管理していたのだが、ヘルロウの軍門にくだった鬼のひとり。
「そういうことなら朝餉前でござる! すでに我らはヘルロウ様のためなら、路傍の石の生命! お望みとあらば、いますぐ腹かっさばいてごらんにいれるでござる!」
ひとり息巻いて切腹の準備を始めるのは、荒武者のようなオス鬼、ゴルバ。
『等活地獄』を管理していた鬼だったのだが、ヘルロウの策略に敗れて配下となった。
「ゴルバはんの言うとおりどすえ。ウチもヘルロウ様のためなら、夜のお勤めも……。女のウチにこんなことを言わせるやなて、ほんまヘルロウ様はいけずやわぁ」
藍色の肌と美しい長髪、いかにも京美人といった雅な顔のつくり。
恥じらうように頬を染めながらも、足をたたんで艶めかしい太ももを見せつけて熱烈アピールしていたのは、メス鬼のアローガ。
彼女も『等活地獄』の鬼だったのだが、今やすっかりヘルロウにベタ惚れである。
鬼とひと口に言っても、彼らは肌の色が違う。
そして性格もバラエティに富んでいた。
そんな彼らをヘルロウは、手をかざして押しとどめる。
突っ込み所が多すぎて対処しきれない場合は、こうやってまとめて処理するのだ。
「『労働力の質の向上』ってのは、亡者ひとりあたりの生産能力……つまりいま持っている力を、さらに引き上げるってことだ。仮にひとりが2倍のパワーで働けるようになれば、創れるものも2倍になるというわけだ」
「そういうことなら朝餉前でござる! 亡者たちを打ち据えて、さらに働かせればよいのでござる!」
「いや、それじゃあ地獄の強制労働と変わりはない。この地獄で働く喜びを教え、地上に送り出すという俺の理念からは大きく外れることだ」
「じゃあ、どうするつもりなんどすか?」
「お前たちは人間というものを、この地獄でしか見たことがないんだろう?」
「当然です。小生たち鬼は、天国の許可がない限りは地上に行けませんからね」
「たまに地上の子供たちの情操教育のために呼ばれることがあるみたいだけど、行くのは偉い鬼たちばっかりだしね」
「俺は地上で、今までいろんな人間たちを見てきた。地獄の亡者たちは、元はといえばその人間たちだ。だが労働力については、地上の人間よりも大きく劣っているんだ」
「そうなんどすか?」
「ああ。その理由としては、食事が与えられていないからだ。亡者は責苦の一貫として、食事が一切与えられない。口に入るものといえば、溶かした鉛くらいのもんだろう」
「だーっ! わたしもお腹が空くと、やる気も力も出なくなるのだ! でもヘルロウのおかげで、サツマイモがいっぱい食べられるようになって、元気になったのだ!」
急に話に割り込んできたのは、鬼たちの車座から少し離れたところにいた幼女鬼、ダーツエヴァー。
彼女は『三途の渡し』の管理人で、ヘルロウにサツマイモを食べさせてもらってすっかり懐いてしまった。
いまは子供らしいアヒル座りで、三途の渡しの船頭であるカカシのストローと、山崩し遊びをしている。
その遊びが妙にハイレベルだったので、鬼たちは勝負の行方に目を奪われてしまったが……。
ふと、ピンキーが振り向いた。
「って、亡者たちもサツマイモをいっぱい食べてるよね? それじゃダメなの?」
「ああ。本来はサツマイモは救荒食といって、非常時以外に常食するものじゃないんだ」
「えっ、あんなにおいしいのに……?」
「もちろん、好みで食べるぶんには問題ない。しかしそればかり食べていると栄養が偏ってしまう。その栄養の偏りをなんとかできれば、亡者でも地上の人間と同じくらいの働きをすることができるはずなんだ」
「エイヨウ……?」
「肯定や、望ましい状態を意味する方言ですよ」
「まあ、意味としては似たようなもんだな。『栄養』は『ええよう』だ。サツマイモ以外の『栄養』をどうやって安定供給できるようにするか……それが今回の俺の『クラフト』だ」
読者様から、ざまぁよりもヘルロウのクラフトが見たいというご意見を頂きましたので、新章を開始いたしました。
本当はダメルシアンのざまぁが終わってからの予定だったのですが、前倒しにした形です。
しかしダルメシアンのざまぁを待っている読者様もおられるかと思いますので、ここからは、
・第2章
・ダメルシアンのざまぁ
を交互に掲載していきたいと思います。
第2章のほうは最新話として掲載されますが、ダメルシアンのざまぁのほうは第1章の差し込みとして掲載させていただきます。
ちょっと読みづらくて申し訳ないのですが、ダメルシアンのざまぁもそんなに長くは続かない予定ですので、少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。




