62 ダメ天使の末路4
ダメルシアンはとある街にある川岸で、ひとり途方に暮れていた。
いつもならば姿を見かけるだけで寄ってきて、チヤホヤしてくれる人間は、まるで路傍の石であるかのように気にも止めない。
彼が、石ころから天使に復帰する方法はただひとつ。
人間ども、あっと驚かせ……。
安価でこき使ったことを猛省し、上乗せの神饌を積み上げて土下座し……。
永年に渡って祭り上げてくれるほどの、立派な橋をかけること……!
しかしそれができるのであれば、苦労はしていない。
そもそもダメルシアンは、橋など掛けたことがなかった。
人間どもをアゴでこき使って、丸太ともいえぬ木を横倒しにしたことはあるが……。
それどころか、クラフトひとつ満足にやったことがなかった。
しかし派手な演出や付加価値を考え出すことは得意だったので、その一点でのしあがってきた。
たとえただの木であったとしても、人間たちの憧れであるユグドラシルだとうそぶいてやれば、みんな泣いて感謝してくれた。
そのハッタリも、もう通用しない。
なにせ自分ひとりで何からなにまでやらなくてはならないからだ。
彼はためしに、そのあたりにある適当な木を切り倒して、川に掛けることを思いついた。
ノコギリを調達して、見よう見まねで、川岸にある木をギコギコとやってみたのだが……。
表面に傷をつけたくらいで、5分経たないうちに、へばってしまった……!
無理もない。
木を切り倒すというのは、簡単そうに見えて、かなりの重労働である。
それに彼は天使とはいえ、『創造天使』である。
木を真っ二つにする剣技も、魔力も持ち合わせてはいない。
身体能力については人間よりもあるが、ようはそれだけ……!
彼はとうとうヤケになって、ノコギリを放り出して地団駄を踏み始める。
「もう、なんで僕がこんなことをしなくちゃならないんだっ! こんなことは人間のやることだ! 僕は天使なんだ! こんなことをやらせるなっ! おいっ、そこのお前! 跪けっ! もてはやせっ! 僕は偉大なる天使様なんだぞっ!! うがぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」
酔っ払いのように人間に絡むその姿は、まさに天使の恥さらしであった。
そして実をいうとこの時、彼は堕天までツーアウトの状態に追い込まれていた。
彼は『還りの会』において、主神である『ヘパイストス』の名に誓っておきながら、ウソをついた。
さらに『創造天使』でありながら、橋ひとつ満足に掛けられない醜態を、地上で絶賛公開中……。
事態を重くみた『ヘパイストス派』の天使たちは、主神であるヘパイストスにダメルシアンの除名を提言した。
彼を野放しにしておけば、ヘパイストス様まで笑い物になってしまうと。
ヘパイストスはそれを了承、本来であるならば、ダメルシアンはとっくに堕天をしていなければおかしいのだが……。
その決定に異論を唱えた者がいた。
それは、天候神である『デメテル』。
デメテルはレインコションの主神。
ダメルシアンは、レインコションにまだ40億¥の借金がある。
いま堕天されてしまっては、取りっぱぐれになってしまう。
借金を返さずに逃げようったって、そうはいかない……!
と待ったをかけたのだ。
デメテルにとって、これにはふたつのメリットがあった。
まずひとつめは、40億¥の獲得。
手に入れるのはレインコションだが、『天使のものは神のもの』がこの世界の原則である。
そしてふたつ目に、他の『創造神』に恩を売ることができる。
ダメルシアンが地上で醜態を晒せば晒すほど、ヘパイストスの顔に泥が上塗りされていく。
そうなればライバル神たちは、蹴落とせるチャンスができたと大喜び……!
特にヘパイストスと仲が悪かったダイダロスなどは、全力でデメテルを支持した。
他の神の異論がある以上、そしてその理由が『借金の返済』という正当な事由である以上、堕天を強行するわけにはいかなくなってしまった。
よって、ダメルシアンはツーアウトのまま、放置……!
場合によっては、スリーアウトでも、フォーアウトでも、放置……!
彼は知らず知らずのうちに、地獄のバッターボックスから出られなくさせられていたのだ……!
自力で橋を掛けることを断念したダメルシアンは、他の天使たちに協力を要請した。
しかし巻き込まれてはたまらないと、誰ひとりとして助けてはくれなかった。
彼としてはランクを落として、そのへんに歩いている人間を捕まえて、作業させようとしたのだが……。
逃げられるっ……!
蜘蛛の子のように……!
橋を掛ける作業は、夏休みの宿題ばりに全く進まない。
しかし早くこれを片付けなければ、人間どもを見返すこともできない。
彼は手柄を焦るあまり、とんでもないことをしでかしてしまう。
なんと……!
夜の間に、隣街に架かっている、他の木橋に手をつけ……!
バラバラに解体して、それを盗もうとしたのだ……!
しかし前述のとおり、彼は机と椅子ですら組み立てられなかった。
そんな不器用天使が、橋など組み直せるわけがなく……!
いやそれ以前に、きちんと解体できるはずもなく……!
結果、隣街の橋を破壊してしまっただけという、最悪の結果に終わってしまった……!
これにはとうとう、人間たちもキレてしまった。
「おいっ! ふざけんなよっ!?」
「なんで橋を架けにきといて、橋を壊してんだよっ!?」
「しかも夜中にこっそり盗もうだなんて、天使のすることかっ!?」
「ずっと思ってたんだ! コイツは何にもできねぇ天使だって!」
「もう我慢ならねぇ! お前みたいなヤツ、天使じゃねぇ! 悪魔だっ!」
「たとえ作ったものが呪われてたとしても、それまでは役に立ってたヘルロウのほうが、よっぽどマシだっ!」
「お前なんか誰が敬うかっ! 出てけっ! この街から出てけぇーーーーーっ!!」
人々はダメルシアンに向かって、石を投げつけた。
「うっ!? な、なにをするんだっ!? 僕は天使だぞ!? 天使にこんなことをして、ただですむと思っているのか!? 天罰だ! 天罰が下るぞっ!!」
しかし、そうはならなかった。
天使への暴行というのは本来は大罪であるが……。
本来は後ろ盾であるはずの『ヘパイストス派』の者たちは、すでに彼を見放していたのだ。




