60 ダメ天使の末路2
ダメルシアンの末路について語る前に……。
ここで、天国と地上の関係、そして天使の階級などについて説明しておこう。
この世界を、巨大な牧場に例えるなら、
牧場を経営する重役たちが、『神様』。
牧場で働く従業員たちが、『天使』。
牧場で飼育されている家畜が、『人間』。
天使たちは地上という名の飼育場で、『信心』という名の卵や牛乳、ときには食肉を採取。
経営者はそれらを利益に変えて、配下の者たちに一部還元する……という仕組みで成り立っている。
ちなみに地獄は、天国の子会社といえばわかりやすいだろうか。
地獄というのは簡単に言うと、
『信心』という名の卵や牛乳を生み出さなかった、粗悪な家畜が送られる場所
である。
ご存じのとおり、地獄では辛い責苦が待っているので、人間はそこに行きたくなくて神々を信じる……というわけだ。
地上で暮らしていた人間が死んだ場合、天国か地獄へ行くのだが、それぞれの場所で一定の時間を過ごしたあとに、転生する。
天国にいた人間は、地上に転生して再び人間となって生活するか、天使になって天国の住人になるかの二択。
多くの者は後者を希望するのだが、そう簡単にはいかない。
天使になるためには『天使学校』に入学する必要があるのだが、それがかなりの難関とされている。
そのため天使を希望していても、なることができるのは限られた者たちのみ。
試験に失敗した者たちは前世の記憶をリセットされ、地上に戻され、再び家畜としての人生を歩むのだ。
地獄の場合も同様。
刑期を終えたあとは、転生するか悪魔(鬼)となるかを選べる。
天国と異なるのは、転生しても人間になれるかどうかはわからないこと。
むしろ人間になれる可能性は低く、他の動物や昆虫になることがほとんどである。
天国に住まう小鳥にでもなれれば、ある種の裏アタリであるが、地獄のカラスにでも生まれ変わろうものなら、地獄の延長戦が待っている。
……話を天使に戻そう。
無事、入学試験をパスして『天使学校』に入学した者たちは、天使のいちばん下の『小天級』という階級に属することになる。
入学時にはその階級と同時に、役割も与えられる。
ヘルロウやダメルシアンの『創造天使』や、レインコションの『天候天使』などである。
さらにその役割によって、主神が決定する。
会社で例えるなら、『役割』が所属する部署で、『主神』がその部署のトップのようなものだろうか。
ちなみに『主神』は同じ役割でも複数存在する。
『創造神』であれば、ダメルシアンが所属していた『ヘパイストス』や、『ダイダロス』などが有名だろうか。
ヘルロウがかつて何の主神に属していたかは……いずれ明らかになることであろう。
天使たちには主神から、『天技』という名の、神の力を一部行使できる能力を与えられている。
この力を地上の人間たちに振りかざして、卵や牛乳を搾取するというわけだ。
なおこの能力については、階級があがればあがるほど強力になり、種類も増えていく。
階級については、神様、天使、悪魔(鬼)、それぞれに10段階が存在。
たとえ天国の神様や、地獄の閻魔大王であっても、その階級でランク付けされている。
天使や悪魔については最高階級まで達すると、神や悪魔になるための試験を受けることができる。
入学試験よりもずっと困難なそれをパスすれば、この世界における『経営者』の仲間入りを果たすのだ。
階級の昇格や降格についてだが、昇格については、その天使が属する主神の承認が必要。
なぜかというと、主神は天使に神通力を分け与えている。
その力は無限にあるわけではないので、いわばリソース管理が必要になるからだ。
逆に、降格については主神の承認は不要。
一定条件を満たした格上の天使であれば、いつでも格下の天使を降格や堕天させることができる。
そうなるとライバルを蹴落とすために、手あたり次第に降格させてしまえば良いと思うかもしれないが、そうはいかない。
まず、『一定条件』というのが非常に限定的。
例のひとつとして、『天使中学』においてヘルロウとダメルシアンに対して降格処分が下されていたが、これは『還りの会』において論議が行なわれたうえで、降格が適正とされた場合にのみ可能。
また、最終的な決定権はクラスの担任教師が握っている。
しかしヘルロウとダメルシアンについては特例で、教師が病欠などで不在、または教師が権限委譲をしているケースにあたる。
その場合、クラスの委員長が最終的な議決を下すことができるのだ。
つぎに、降格をした場合には、下した側にも痛手を被ることがあるということ。
ヘルロウやダメルシアンのクラスの場合は、ふたりの天使を降格させたことにより、クラスとしての総合力が下がってしまった。
そしてそんな天使がいるクラスの担任教師や委員長は無能なのではないかと、上層部……。
校長や教頭、生徒会などから思われてしまうリスクがあるのだ。
さらに時には、その上層部から理由の正当性を求められる場合がある。
末端の天使のひとりやふたりが降格したところで大勢には何の影響もないので、主神はよほどお気に入りの天使か、側近クラスの天使でなければ、その処分には口を挟まない。
それどころか、ヘルロウが堕天したことも未だに知らない神々がいるほどである。
しかし経営者である神々とは異なり、上司にあたる天使たちは直接の被害を被ることがあるかもしれないので、話は別。
のべつまくなしに降格処分を下していると、その判断は正当なのかと問われる場合がある。
それがもし適正でないと判断された場合、議決した者が処分されることもありえるのだ。
一応そういった制約によって、処分乱発の抑制はされているものの……。
『昇格』と『降格』の発生バランスは保たれてはいない。
血反吐を吐く思いで家畜たちにエサを食らわせて、ようやく取ったフォアグラで、オーナーのご機嫌を取り……。
それを何度も繰り返して、ようやく得ることのできる、『昇格』と違い……。
『降格』はそのへんにいる店長風情の天使から、アルバイトの足切り感覚で言い渡されてしまう……!
天使たちはもともと人間なだけあって、低きに流れる思考を持っている。
ライバルと切磋琢磨しあって、お互いを高めあい、『昇格』を目指すよりも……。
なんとかライバルの欠点をほじくり出して、『降格』で突き落とすほうが……。
自分が出世するには、『てっとりばやい』と……!
それが天国という会社における、企業病であった。
そんな会社はあっというまに潰れてしまいそうだが、倒産は絶対にありえない。
なぜならば、競合他社がどこにも存在しないから。
この惑星全体が、ひとつの大きな複合企業。
国営企業も真っ青の、『神営企業』だから……!
……さて、少し長くなってしまったが、この世界最大の牧場の仕組みについて、ご理解いただけただろうか。
それでは、元の話に戻るとしよう。
それでは、笑覧いただくとしよう。
崖っぷち天使の、最後の悪あがきを……!
その天使に突きつけられた、非常なる現実を……!




