49 水車
できあがったのは、木の板と棒を組み合わせた、不思議な輪であった。
といっても円の形はしておらず、等間隔に板が飛び出している。
しかもそれが屋根よりも高いというのだから、創り上げた民衆たちはみな喜びよりも、何だコレ? みたいな顔になっていた。
「言われたとおりに創ってはみたものの……ブリッヂメイカー様、これはいったい何なのですか?」
「これはな……『水車』というものじゃ!」
「水車……ですか?」
「そうじゃ! 今はちょうど雨も止んどるし、説明するよりも、実際に動かしてみようではないか! 皆の衆、これを外に運び出すぞ!」
ここまで来たら付き合うしかないと、できたての『水車』なるものを担ぐ男たち。
女や子供たちは、別で創っておいた軸などのパーツを力をあわせて担ぎ上げた。
「よぉし、それでは行くぞい!」
ブリッヂメイカーに先導され、向かった先は川であった。
先ほどまで降っていた雨で、川はかなり増水している。
しかしヘルロウのダムのおかげで、山からの水はせき止められ、氾濫には至っていない。
「よぉし、この川岸に水車を設置するんじゃ!」
ブリッヂメイカーは手際よく組み立ての指示を出す。
彼は地獄に生えていた枯れ木を使って、何度も何度も水車づくりの練習をしていた。
ヘルロウの指導方針でひとりでやっていたので、小さなミニチュアどまりだったが、水車の創り方は頭と身体にしっかりとたたき込めた。
そしてできあがったものは三途の川で試運転して、創る過程によってどのような結果なるのかも、しっかりと実習済み。
そのため、シミュレーションは完璧であった。
あとは、大型化に際してミスをしていなければ……。
ヘルロウ不在の『ヘル・クラフト』であっても、成功するはずなのだが……。
男たちの手によって組み上げられた水車は、水車自体がフレームのような木枠で覆われており、水車の中心には車軸のようなものがついている。
車軸の先には、杵が付いており、その下には臼が置かれた。
「よぉし、水車のストッパーを外すんじゃ!」
ブリッヂメイカーの合図とともに、水車が動かないように固定していたクサビが外される。
すると、
……ざざざざざざざざざっ!
川の激しい流れを受け、水車が激しくまわりだした……!
車軸の先についた杵は、
……ごんごんごんごんごんごんごんごんごんごん!
ピストンのような速さで、上下に動きはじめた……!
「こ、これは……!」と息を呑む民衆たち。
「これが水車というものじゃ! 水の力を利用して、何かを動かすことができるんじゃ! この場合だと杵を動かして、自動で製粉をさせておるんじゃ!」
「す、すごい……!」
「水の力で、こんなに早く、力強く杵を動かせるだなんて……!」
「これなら確かに、自動で製粉ができるぞっ!」
「重労働だった製粉ができるようになれば、確かにかなり楽になるなぁ!」
唸りをあげて回転するパワフルな水車。
その力強い姿は、不思議と民衆たちを勇気づけた。
しかし、そうでない者もいた。
「待て! 確かにこの水車とやらはすごいが、挽くための穀物はどこから持ってくるんだ!?」
「そうだ! 雨続きで作物が育たねぇってのに!」
「そうだそうだ! 挽くための穀物がなきゃ、こんなの、ただの役立たずじゃねぇか!」
「ヘルロウ様は俺たちのことを考えてくださっているかと思ってたのに、これじゃ、片手落ちじゃねぇか!」
「やっぱりヘルロウ様も、他の天使様といっしょだ! 俺たちのことなんて何にもわかってなかったんだ!」
民衆を、悲嘆とざわめきが支配しはじめる。
しかしブリッヂメイカーは慌てず、まぁまぁ、となだめた。
「落ち着くんじゃ! そのくらいのこと、ヘルロウ様もわかっておられる! 挽くための穀物のことなら、ちゃんと考えておる!」
「じゃあヘルロウ様は、こんな雨でも育つ穀物を知っているんですか?」
「いいや、この雨ではどんな穀物も育たん。じゃから考え方を変えろと、ヘルロウ様はおっしゃった」
「考え方を、変える……?」
「そうじゃ! 穀物が育てられないのであれば、よそから買ってくればいいではないか!」
ヘルロウがブリッヂメイカーに授けたのは、ダムと水車、ふたつのクラフトだけではなかった。
このルシエロ領の住民の生き方を根本から変える……。
いわば『産業革命』級の、アイデアであった……!
「このルシエロは、『育てる』から『加工する』する領地に変わる! よその領地から仕入れたものを、この水車の力で『加工』して、売るようにするんじゃ!」
「えっ……えええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーっ!?!?」
この世界の地上では、人が多く集まる王都などを除き、どこも自給自足が当たり前であった。
よそから買ってくるものといえば、土地の中でまかなえないもの。
たとえば山の集落であれば海のもの、海の集落であれば山のもの、といった具合に。
自分たちの所では何も育てず、加工を専門とする集落など、前代未聞……!
その世界初の試みに、挑もうというのだ……!
これには民衆の意見がまっぷたつに割れた。
「どこも製粉は、自分のところでやっとる! よそに任せたがる所なんてあるもんか!」
「いや、製粉は重労働だ! それから解放されれば、そのぶん他の作業ができる! きっと喜んで任せてくれるはずだ!」
「自分たちのところで何も育てないなんて、なんだか変な気分だ……! 俺は嫌だ!」
「そんな感情に流されてる場合か! この雨がある以上、どのみち、ここでは何も育てられないんだぞ!」
しかし結局、他に選択肢はないということで、賛成派が反対派を押し切った。
そしてブリッヂメイカー領の民たちは、総出で水車の量産にあたる。
水車小屋も創って雨に濡れないようにし、製粉のための作業場としたのだ。
すべてをそっちのけにして、水車づくりいそしんだ彼らは、もはや後には退けなかった。
この革命が失敗したら、すべてが終わる。
あとは飢え死にするか、プライドを捨てて、ブリッヂレイカーに土下座するか、ふたつにひとつ……!
ブリッヂメイカーの領民たちの、行く末やいかに……!?




