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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第1章
48/109

48 さらなるクラフト

 雨の中戻ってきたブリッヂメイカーの、さらなるクラフト宣言。

 クラフトはダムだけだと思っていた領民達は、騒然となった。



「ええっ!? まだなにか、クラフトをするのですか!?」



「そうじゃ! ダムはヘルロウ様が教えてくださったクラフトの半分にすぎん! 残りの半分を、これから始めるぞい!」



「もう川の氾濫はなくなったのでしょう!? これ以上、なにをする必要があるというのですか!?」



「もちろん、ワシらの食い扶持の確保じゃ! このまま雨が降り続いたら、飢え死にしてしまうからのう!」



 ちょうどその問題で盛り上がっていた領民たちは、顔を見合わせる。



「ま、まさか……」



「ヘルロウ様は、そんな事まで……!?」



「そうじゃ! ヘルロウ様はそのくらいのこと、お見通しじゃ! ダムがあれば、川の氾濫がなくなり、短期の命の危機はなくなるじゃろう。しかしそのあとは、長期の命の危機……。新しい食い扶持を確保せねば、ワシらは立ちゆかなくなるじゃろうと! そこで、次のクラフトを授けてくださったのじゃ!」



 ブリッヂメイカーのこの一言に、領民たちの間に衝撃が駆け抜ける。


 まさかヘルロウが、そこまで見越していただなんて……!


 いままでの天使であれば、困っていたひとつの事を解決しただけで、それで多額の神饌(しんせん)をふんだくっていく。

 もちろんそれで解決するなら言うことはないのだが、そのほとんどが完全ではないというか、いまいちというか……。


 ともかく人間にとっては不満が残るものばかりだったのだ。


 例えば、山にモンスターが棲み着いて困っている領地があったとしよう。

 普段であれば、人間の冒険者たちを募って退治してもらうのだが、それができないほどの強力なモンスターの場合、天使たちにすがることになる。


 そうすると、落雷一発で片付けてくれたりするのだが、山火事になってあたりは全焼、なんてことが普通にある。

 天使様のなさることなので、人間にとってはオーバーサイズというか、二次被害を出して終わることは当たり前。


 それでも人間たちは、天使たちの力を有り難がっていた。


 しかしヘルロウはもう天使ではないというのに、アフターケアも万全……!

 これにはいままでヘルロウに懐疑的だった領民たちも、大いに心を動かされる。



「へ……ヘルロウ様は、そこまで俺たちのことを、心配してくださっていただなんて……!」



「ヘルロウ様は悪魔なんかじゃねぇ! そのへんの天使様よりも、よっぽど天使様じゃ!」



「私はもう、ヘルロウ様を疑わないわ! ヘルロウ様についていく!」



「やろう! ヘルロウ様を信じて!」



「どのみちこのままじゃ、俺たちは飢え死にだもんな! だったら、やるしかねぇか!」



「おおーーーーーーっ!!」



 ルシエロの、ブリッヂメイカー領……!

 ここにきて、ついに一致団結……!


 それと同じ頃、ブリッヂレイカー領の、民衆たちはというと……。



「あーあ、本当に雨が強くなりやがった」



「ブリッヂレイカー様の言ったとおりになっちまったなぁ」



「さすがにこれだけ降られると、こっちの川も氾濫しちまうんじゃねぇか?」



「それが全然みたいだぞ。さすがはダメルシアン様のご加護だよな」



「でもダメルシアン様は、なぜ雨を強くされたんだろう?」



「それが、ぜんぶブリッヂメイカー様の領地のせいらしい。ヤツらがぜんぜん反省しないから、ブリッヂレイカー様が、雨を強く降らせるようにダメルシアン様にお願いしたんだと」



「なんだよ、それっ!? こっちはその巻き添えをくらってるってのかよ!?」



「ああ、でもこの雨ならさすがにヤツらも音をあげるだろう。それまでの辛抱だ」



「でもよぉ、俺たちもう、ずっと畑に出られてないんだぜ!」



「そうだ! いまは蓄えてた作物で、なんとか食いつないでるんだ! こんな雨が続いたら、飢え死にしちまうよ!」



「俺たちはダメルシアン様を信じてるってのに、ダメルシアン様は知らねぇんだ! 雨のせいで、俺たちがこうしてひもじい思いをしてるのを!」



「しょうがねぇだろ、天使様ってのはそういうもんだ。それでも悪魔のヘルロウを信じるより、ずっとマシだ」



 まさか彼らは思いもしなかっただろう。


 天使のダメルシアンこそが、自分たちを苦しめている悪魔であり……。

 悪魔のヘルロウこそが、救いの手を差し伸べている、天使だということを……。


 そして彼らはこれから、痛感することとなる。

 自分たちがどれだけ、間違った選択をしたかということを……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 話はふたたび、ブリッヂメイカー領に戻る。

 彼らは滝のような雨に負けないほどの汗をながしながら、避難所で作業を続けていた。



「よぉし、注文しておった木が届いたぞ! 皆の衆、これを手分けして、木材にするんじゃ!」



「わざわざ木をよその領地から買ったんですか!? 木ならそのへんにいっぱい生えているではないですか!」



「今回のクラフトでは、ヤワモミは使い物にならん! いくら防腐剤を塗ってもじゃ! だから水に強い木を取り寄せたんじゃ!」



「この木は、なんという木なのですか?」



「ヘルロウ様が教えてくださった、『イロコ』という木じゃ! 強度と耐水性に優れとるらしい! しかも育ちやすい木らしく、大木でも安かったわ! 貧乏なワシらにも買えるほどにな!」



「まさか私たちの懐具合まで、考えてくださるなんて……」



「30億もふんだくっていった、どっかの天使様とは大違いだ……!」



「ヘルロウ様はこうもおっしゃっておった! イロコのおがくずに触ると、肌がかぶれる事があるらしいから、注意して作業するようにと! 我々の肌のことまで心配してくださっておるんじゃ!」



「うふふ、ヘルロウ様のことを話してるブリッヂメイカー様って、とっても嬉しそうね!」



「だよなぁ、なんだか憧れのヒーローの話をしてる子供みたいだ!」



「ヘルロウ様って、そんなにすごい天使様だったのかなぁ……」



「当然じゃ! ヘルロウ様がルシエロにおった頃は、ワシら年寄り連中のヒーローじゃったんじゃからな!」



「ふぅん、そんなすごい人なんだったら、いちどお会いしてみたいなぁ……」



 まさか彼らは思いもしなかっただろう。

 地獄にいるある少年が、クシャミを連発していることを。


 そしてそうこうしているうちに、クラフトは完成に近づいていく。

 今回は領民全員力を合わせての作業だったので、最初のソレが出来上がるまでは、あっという間だった。


 しかし出来上がったモノは、いままで誰も見たことのないシロモノ。

 本来は完成に大喜びするはずなのだが、その複雑怪奇な見目には、誰もが首を傾げていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新たな生活クラフト提供と配慮によって 完全にヘルロウ信者たちへとなりましたか!(大喜) そして すぐに完成しましたか! どんな活躍をするのか! 父領地の繁栄と馬鹿息子領地の衰退が楽しみです…
[良い点] 漸くヘルロウ・スピリッツが領民にも浸透し始めて、生産性も向上しますって話で読んでるだけでワクワクします… ̄▽ ̄) 馬鹿なレッテル張りに躍らされて本質を見誤るなよって教訓ですねぇ…(実際に今…
[良い点] ブリッヂメイカー領とブリッヂレイカー領の状況が、1話でまとめられているので、比較しやすかったです。 もし、領民達が、隣の領地の状況を知った時、何を思い、どう行動するか見ものですね(ワクワク…
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