48 さらなるクラフト
雨の中戻ってきたブリッヂメイカーの、さらなるクラフト宣言。
クラフトはダムだけだと思っていた領民達は、騒然となった。
「ええっ!? まだなにか、クラフトをするのですか!?」
「そうじゃ! ダムはヘルロウ様が教えてくださったクラフトの半分にすぎん! 残りの半分を、これから始めるぞい!」
「もう川の氾濫はなくなったのでしょう!? これ以上、なにをする必要があるというのですか!?」
「もちろん、ワシらの食い扶持の確保じゃ! このまま雨が降り続いたら、飢え死にしてしまうからのう!」
ちょうどその問題で盛り上がっていた領民たちは、顔を見合わせる。
「ま、まさか……」
「ヘルロウ様は、そんな事まで……!?」
「そうじゃ! ヘルロウ様はそのくらいのこと、お見通しじゃ! ダムがあれば、川の氾濫がなくなり、短期の命の危機はなくなるじゃろう。しかしそのあとは、長期の命の危機……。新しい食い扶持を確保せねば、ワシらは立ちゆかなくなるじゃろうと! そこで、次のクラフトを授けてくださったのじゃ!」
ブリッヂメイカーのこの一言に、領民たちの間に衝撃が駆け抜ける。
まさかヘルロウが、そこまで見越していただなんて……!
いままでの天使であれば、困っていたひとつの事を解決しただけで、それで多額の神饌をふんだくっていく。
もちろんそれで解決するなら言うことはないのだが、そのほとんどが完全ではないというか、いまいちというか……。
ともかく人間にとっては不満が残るものばかりだったのだ。
例えば、山にモンスターが棲み着いて困っている領地があったとしよう。
普段であれば、人間の冒険者たちを募って退治してもらうのだが、それができないほどの強力なモンスターの場合、天使たちにすがることになる。
そうすると、落雷一発で片付けてくれたりするのだが、山火事になってあたりは全焼、なんてことが普通にある。
天使様のなさることなので、人間にとってはオーバーサイズというか、二次被害を出して終わることは当たり前。
それでも人間たちは、天使たちの力を有り難がっていた。
しかしヘルロウはもう天使ではないというのに、アフターケアも万全……!
これにはいままでヘルロウに懐疑的だった領民たちも、大いに心を動かされる。
「へ……ヘルロウ様は、そこまで俺たちのことを、心配してくださっていただなんて……!」
「ヘルロウ様は悪魔なんかじゃねぇ! そのへんの天使様よりも、よっぽど天使様じゃ!」
「私はもう、ヘルロウ様を疑わないわ! ヘルロウ様についていく!」
「やろう! ヘルロウ様を信じて!」
「どのみちこのままじゃ、俺たちは飢え死にだもんな! だったら、やるしかねぇか!」
「おおーーーーーーっ!!」
ルシエロの、ブリッヂメイカー領……!
ここにきて、ついに一致団結……!
それと同じ頃、ブリッヂレイカー領の、民衆たちはというと……。
「あーあ、本当に雨が強くなりやがった」
「ブリッヂレイカー様の言ったとおりになっちまったなぁ」
「さすがにこれだけ降られると、こっちの川も氾濫しちまうんじゃねぇか?」
「それが全然みたいだぞ。さすがはダメルシアン様のご加護だよな」
「でもダメルシアン様は、なぜ雨を強くされたんだろう?」
「それが、ぜんぶブリッヂメイカー様の領地のせいらしい。ヤツらがぜんぜん反省しないから、ブリッヂレイカー様が、雨を強く降らせるようにダメルシアン様にお願いしたんだと」
「なんだよ、それっ!? こっちはその巻き添えをくらってるってのかよ!?」
「ああ、でもこの雨ならさすがにヤツらも音をあげるだろう。それまでの辛抱だ」
「でもよぉ、俺たちもう、ずっと畑に出られてないんだぜ!」
「そうだ! いまは蓄えてた作物で、なんとか食いつないでるんだ! こんな雨が続いたら、飢え死にしちまうよ!」
「俺たちはダメルシアン様を信じてるってのに、ダメルシアン様は知らねぇんだ! 雨のせいで、俺たちがこうしてひもじい思いをしてるのを!」
「しょうがねぇだろ、天使様ってのはそういうもんだ。それでも悪魔のヘルロウを信じるより、ずっとマシだ」
まさか彼らは思いもしなかっただろう。
天使のダメルシアンこそが、自分たちを苦しめている悪魔であり……。
悪魔のヘルロウこそが、救いの手を差し伸べている、天使だということを……。
そして彼らはこれから、痛感することとなる。
自分たちがどれだけ、間違った選択をしたかということを……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
話はふたたび、ブリッヂメイカー領に戻る。
彼らは滝のような雨に負けないほどの汗をながしながら、避難所で作業を続けていた。
「よぉし、注文しておった木が届いたぞ! 皆の衆、これを手分けして、木材にするんじゃ!」
「わざわざ木をよその領地から買ったんですか!? 木ならそのへんにいっぱい生えているではないですか!」
「今回のクラフトでは、ヤワモミは使い物にならん! いくら防腐剤を塗ってもじゃ! だから水に強い木を取り寄せたんじゃ!」
「この木は、なんという木なのですか?」
「ヘルロウ様が教えてくださった、『イロコ』という木じゃ! 強度と耐水性に優れとるらしい! しかも育ちやすい木らしく、大木でも安かったわ! 貧乏なワシらにも買えるほどにな!」
「まさか私たちの懐具合まで、考えてくださるなんて……」
「30億もふんだくっていった、どっかの天使様とは大違いだ……!」
「ヘルロウ様はこうもおっしゃっておった! イロコのおがくずに触ると、肌がかぶれる事があるらしいから、注意して作業するようにと! 我々の肌のことまで心配してくださっておるんじゃ!」
「うふふ、ヘルロウ様のことを話してるブリッヂメイカー様って、とっても嬉しそうね!」
「だよなぁ、なんだか憧れのヒーローの話をしてる子供みたいだ!」
「ヘルロウ様って、そんなにすごい天使様だったのかなぁ……」
「当然じゃ! ヘルロウ様がルシエロにおった頃は、ワシら年寄り連中のヒーローじゃったんじゃからな!」
「ふぅん、そんなすごい人なんだったら、いちどお会いしてみたいなぁ……」
まさか彼らは思いもしなかっただろう。
地獄にいるある少年が、クシャミを連発していることを。
そしてそうこうしているうちに、クラフトは完成に近づいていく。
今回は領民全員力を合わせての作業だったので、最初のソレが出来上がるまでは、あっという間だった。
しかし出来上がったモノは、いままで誰も見たことのないシロモノ。
本来は完成に大喜びするはずなのだが、その複雑怪奇な見目には、誰もが首を傾げていた。




