43 大復活
ヘルロウは地面に描いたルシエロ領の見取り図を参考に、ブリッヂメイカーにクラフトを授けた。
「……よし、まず、マホール山脈のこのあたりに、『ダム』を作るんだ」
「ダム、ですか……?」
「ダムというのは、水を溜めておく巨大な池みたいなもんだよ。本来は大掛かりな作業が必要だが、このあたりは盆地になっていたはずだから、その地形を利用すれば工事は最低限ですむ。台形に高く土を盛り上げて、水が外に流れ出ないようにするんだ」
「わかりました。あの、ヘルロウ様。もし書くものなどありましたら、お貸し願えませんか。ワシはもう、物覚えも悪くて……」
「紙や鉛筆は、まだここにはないんだ。どのみち、書いたところで地上には持って行けない。エンマから転生させてもらうときに、地獄のものはすべて置いていくことになるからな。だから、頭に叩き込むんだ。人の生命がかかったクラフトだから、しっかりとな」
「な、なんと……! ううっ、こりゃ、大変ですじゃ……!」
「続けるぞ。ダムを創ったら、そのあとに南側に溜め池を作るんだ。これは、ダムの水を放流するための施設だな。そして、溜め池は領内を流れる本流の川の源になるようにするんだ」
「はい、溜め池はわかりますじゃ! その溜め池から、川が始まるようにすればよいのですな!」
「そうだ。さらにその溜め池には、水門をつけるんだ」
「水門……水をせき止めるための門ということですな」
「ああ。そしてそれは、お前……ブリッヂメイカーの領内を通る、本流の川の流水制限をするための役割をする」
「ほほぉ……」
「創るべきクラフトとしては以上だ。これさえあれば、お前の領地はもう雨に悩まされることはなくなる」
「たしかに大掛かりな工事となりそうですが、本当にこれだけで、洪水が防げるというのですか……!? 天使様が起こしている、洪水を……!」
「そうだ。それに加えて、このあとにオマケで教えるクラフトがあれば、逆にルシエロは栄えるだろう」
「洪水をなんとかできるうえに、領地が栄える……!? そんな夢のような話が、あるわけが……!」
「そんな夢みたいなことを可能にするのが、俺の『クラフト』なんだ。だからこそ、手を抜いた創りにするんじゃないぞ。ダムというのは諸刃の剣なんだ。川に流れる水の量を調整できる素晴らしい施設だが、いったん決壊すると、貯めていた水が一気に押し寄せる。その被害はダムがない時の数倍以上になってしまうからな」
「わ、わかりました……!」
「よし、じゃあ次は簡単に仕組みを説明しておくぞ。山に降った雨水は、基本的にダムの中に溜まる。俺の言う規模のダムがあれば、雨はすべてその中に溜まるだろう」
「えっ!? もしかしてヘルロウ様は、ワシの話だけで、降る雨の量までおわかりになったのですか!?」
「ああ、いまルシエロを襲っている雨は、1週間くらい連続して降って、そのあと3日間は降らなくなるんだろう?」
「そ……! その通りですじゃ! なぜ、なぜにそこまで!?」
「昔取った杵柄ってヤツだ。天使が降らす雨の量くらいなら、お見通しさ。だから1週間分の雨を貯め込めるダムを創るんだ。その間は、水門は閉めておけよ。そうすれば、領内の川は氾濫することはないだろう」
「は、はい……!」
「そして雨が止んだら、水門を開けてダムの水を放流するんだ。必ず、雨が降っていない時を狙ってやるんだぞ。そうすれば川を氾濫させることなく、ダムの水を減らせるはずだ」
「なるほど……!」
「あとはもうわかるよな? それを繰り返していれば、ルシエロに取り憑いた天使は逃げていくはずだ。まあその頃には、もっと雨を降らせてくれって思うようになってるだろうがな」
「あ、あの、ヘルロウ様……!」
「なんだ?」
「このヘルロウ様のクラフトをした場合……。ブリッヂレイカーの……ワシの息子の領地は、どうなるんですじゃ……!?」
「ああ、そんなことか。それはな……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ブリッヂメイカーはヘルロウから教わったクラフトを、何度も復習。
時には実技まで行ない、頭と心に刻み込んでから、『ヘルロウ村』に別れを告げた。
「ああ、せっかくヘルロウ様とお会いできたというのに、お別れしなくてはならないとは……!」
「できたら俺も付いていってやりたいんだがな、そうもいかないんだ。でも、ブリッヂテンダーの代から俺のクラフトを守りつづけてきたお前なら、ひとりでも大丈夫だろ」
「は、はい……! 今回お教えいただいたクラフトも、代々語り継いでいきますじゃ!」
「まぁ、そのへんはボチボチでいいよ。ルシエロの他の子供……いや、今はジジイか。ソイツらにもよろしくな」
「はい……! ヘルロウ様も、お元気で……!」
ブリッヂメイカーは、石畳の道を何度も振り返り、何度も頭を下げながら、ヘルロウのもとから去っていった。
そしてエンマ大王の元へと向かった彼は、ここに来るのは時期尚早であると申し渡され、無事、蘇生を果たす。
それはちょうど、葬式の真っ最中の出来事であった。
「ああ、ブリッヂメイカー様……!」
「なんとも、惜しい方を亡くしてしまったもんじゃ……!」
「まさか丸太にぶつかってお亡くなりになるだなんて……!」
「どうやら、ブリッヂレイカー様のところに交渉に行く途中の事故だったらしいぞ!」
「大雨の中、我々のために、危険をおかしてまで……!」
「ああ、ブリッヂメイカー様! あなた様こそ、本当の領主様だった……!」
「あなた様を失ってしまった今、私たちはどう生きていけばいいんだ……!」
「くそっ……! ブリッヂレイカーに、頭を下げるしかないのか……!」
「元はといえばすべて、あやつが原因だというのに……!」
「悔しい……! 悔しいよぉ……!」
ブリッヂメイカーを失った悲しみに、打ちひしがれる参列者たち。
しかしその悲しみすらも打ち破ったのは、他ならぬ彼であった……!
「皆の衆! いま帰ったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!!」
……ドバァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
死装束の亡骸が、雄叫びとともに棺桶を蹴破って飛び出してきたので、参列者は大パニックに……!
ブリッヂメイカー……!
不死鳥のように、復活っ……!




