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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第2章
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41 非常事態宣言

 倒れてくるゼウス城に立ち向かい、瓦礫に押しつぶされていたヒコスター。

 しかし今になってようやく、復活……!


 城の下敷きになっても平然としていられるあたりは、さすがは神である。

 彼は、城を倒してしまった時点で、すでに敗れ去っているといっていいのだが……。


 まるで勝利を手にしたかのように、高らかに笑っていた。



「ダッハッハッハッ! 悪魔ヘルロウよ! ワシの策略に乗って、まんまと姿を現しおったな! 貴様がゼウス城を狙っている事は、すでにお見通しだったのダッ! どうだ皆の者、このワシの完璧なる作戦はっ!?」



 観客席に向かって喧伝するヒコスター。

 周囲の天使たちは、今までは全肯定だったのだが……。


 さすがにこれに賛同する者はいなかった。



「いや、だったらゼウス城を崩壊するのを、止めてくださいよ……」



「元はといえば、アンタがヘルロウの石を入れ替えたから、ゼウス城は崩れたんでしょ……」



「っていうかアイツ、さっきから何言ってんの?」



 天使たちの間の、ヒコスターへの信頼は風前の灯であった。

 とうとう『アンタ』や『アイツ』呼ばわりする始末。


 ヘルロウの石積みによって、それまでゼウス城が支えられていたことが明らかになった。

 それは、今まで誰も知らなかったことだが、皮肉にも倒壊によって、その偉業が証明されてしまった形である。


 さらにヘルロウは、衆目の前で見事なトイレを創り上げた。

 本物のゼウス城にのしかかられてもびくともしなかったのが、とうとう決定打となった。


 逆にヒコスターはどうだろうか。

 彼の口から飛び出した言葉はすべて大言壮語で、結果がまったく伴っていない。


 大惨事を引き起こしてしまったのに認めようとせず、すべてをヘルロウになすりつけようとする始末……!


 ヘルロウと、ヒコスター。

 真逆の両名を目の当たりにした天使たちが、抱く感情は想像に難くない。


 しかもそれが、『情操教育』で増幅されてしまったら、どうなるかというと……!



「オイッ! ふざけんなよっ! お前のせいでゼウス様の城がメチャクチャになったんじゃねぇーか!」



「それなのにヘルロウのせいにしやがって! どう考えても悪いのはお前だろうが!」



「ヒコスター様……いいえ、ヒコスターって、なんて最低なの!」



 客席の天使たちは一丸となってヒコスターに向かって投石をはじめる。

 もちろん、石程度でダメージを受ける正義のヒーローではない。


 しかし精神的ショックは計り知れないはず……。

 と思われるかもしれないが、そんなことはなかった。


 彼はなにせ、あれだけケージバードに嫌悪されているというのに……。

 いまだにヘルロウが原因によるものだと本気で思い込んでいる、とんでもない勘違い野郎だったからだ……!



「ぬぐううっっ!? 悪魔め! ワシが瓦礫に埋もれている間に、群衆をそそのかすなど……! いつのまにそれだけの力を手にいれたのダッ!? でもワシは負けん! 罪なき者たちを扇動せず、一対一で、正々堂々と勝負するのダッ!」



 粉塵のなかで、ヒコスターの影が、シルエットの影を指さす。

 ヘルロウはシルエットでもわかるくらいに、大きく肩をすくめていた。



「悪いが、また今度な。ケージバードやフローズやフレイル、ドロエを待たせておいて、お前の相手をするのは不公平だろう。今日は、みなに伝えたいことがあったから、ちょっくら顔を出しただけだ」



「伝えたいことだと!? 新たなる罪をほのめかす、犯行声明かっ!?」



「ある意味、そうかもしれねぇな。なんにしても、俺はまだ、生きてる……。今のところはそれだけ覚えておいてくれれば十分だ。じゃあ、俺はそろそろ行くよ」



 砂塵の奥に向かって歩き出すヘルロウ。

 消えゆく姿に、「へ、ヘルロウーーーッ!?」と幾重もの声がすがった。



「この煙幕のような粉塵にまぎれて逃げようなどとは、そうはさせんっ! 正義の力を見せてやるっ! ジャスティス・ハリケェェェェェェェーーーーーンッ!!」



 ヒコスターが両手を天に掲げると、一陣の風が巻き起こる。

 それは旋風から、あっという間に勢いを増し、プチ台風の規模にまで拡大する。



 ……ゴオオオオオオオーーーーーーーーーーーッ!!



 空にできあがった渦に、小さな瓦礫や砂塵が吸い込まて消えていく。

 ヘルロウが去るのと入れ違いに、トイレから出てきた亡者たちは、飛ばされないように瓦礫にしがみついていた。


 しばらくして、場内を覆っていた霧のような砂塵が晴れる。

 ゼウス城のなくなった広場は、城の向こう側にある広場まで見渡せて、広大な更地となっていた。


 見通しは良くなったが、ヘルロウの姿はどこにもない。



「ぬうっ!? どこに消えおった、ヘルロウ!? 我がガーディアン・エンジェルたちよ、ヘルロウを探すのだっ!」



 ヒコスターの号令とともに、客席からフラフラと出てきたのは、彼の手下の天使である『ガーディアン・エンジェル』。

 普段は忠誠心あふれる彼らであったが、今は『情操教育』の影響で、やる気が感じられない。


 それでも言うことを聞かないとあとでボッコボコにされるので、仕方なくヘルロウ捜索をはじめる。


 ヘルロウは堕天したはずだったが、翼を持っていた。

 天使にとって象徴ともいえる翼は、任意に身体から消したりすることはできない。


 翼は空を飛べるだけあってかなりのサイズがあるので、瓦礫に隠れていたとしてもすぐに見つけることができるはずなのだが……。

 彼の姿はどこにも見当たらなかった。


 亡者たちは会場から追い出され、トイレの中や客席まで含めて、徹底的に探索がなされる。

 それでも見つからなかったので、ヒコスターはある結論に達した。



「イエス! ヘルロウの浅はかな考えなど、このワシはとっくにお見通しダッ! 木を隠すなら森の中という言葉があるように、ヘルロウはこの会場から逃亡したダッ! まわりには天使たちが暮らしているから、身を隠すにはうってつけ……! となれば、さらにあるひとつの結論が導き出される! ヘルロウは堕天などしていなかったのだ! ヤツには翼が生えていたうえに、ヤツが生きていたのは、そもそも地獄に堕ちていないから……! そう考えると、なにもかもが辻褄があうのダッ!」



 ヒコスターは真実を明らかにした名探偵のように、部下たちに向かって叫んだ。



「ガーディアン・エンジェルよ! 非常事態宣言だ! 各地の領主たちに連絡し、周囲200キロに非常線を張るよう要請するのだ! 今ならヤツが網の外に逃げる前に、捕えることができるのダッ!」



 ぱらぱらと散っていくガーディアン・エンジェルたち。

 ヘルロウ包囲網を敷いたヒコスターは、さらにロクでもないことを考える。



「ヤツはもう、追いつめられた袋のネズミ同然なのダッ! そしてワシの手によって、ヘルロウが残したゼウス城の石垣は、この天国から消え去った! しかしヤツは、今回のドサクサにまぎれて、新たな悪しき痕跡を残していったのダッ! 常人なら、ヤツの追跡に気を取られ、見逃してしまう、あるモノを……! それはっ……!!」



 それまで高みにいたヒコスターは、風を切る勢いで急降下する。

 拳を掲げて飛ぶその先に、あったのは……。



「あの、トイレだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 改築のはずがまっ平らになりましたね! 作業責任者には是非心境をお聞きしたいところ [気になる点] しかしプチ台風はヘルロウくん側が計算してなかった方向のチェックメイトの一手になりそうなんで…
[一言] 神や天使に媚びへつらい貢物を贈ることで自分も天使になれるか。 そういう奴らには普通に地獄に堕ちた亡者よりも多くの罪を重ねた者も多いんだろうな。 かつてどれほど罪を犯そうとも教会が発行する免罪…
[一言] 観客があれだけ怒ってるならゼウスは激おこなんじゃね?
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