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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第2章
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38 立派なトイレ

 地獄軍が創りあげたトイレが、ついにお披露目となった。

 それは、当初は誰からも期待されていないモノであった。


 それ以前に、完成すらしないであろうと思われていたモノである。


 しかし、竣工してしまった……!

 そして、何万といる天使たちの目の前で、今まさに、落成……!


 天国における『ものづくり対決』で、亡者側の作業が完成にまで至ったのは、初めてのことである。

 しかしそれでも、観客たちは期待(●●)していた。


 できあがったモノは、きっと見るに堪えないほど酷いモノであるだろうと、誰もが思っていた。

 しかし、実際に彼らが目にしたものは……。


 想像とは、真逆……!



 立派(●●)なトイレ……!



 それが、どれほど立派だったのかというと……。

 亡者の創るトイレなんて、きっとロクでもないモノだから、さっそく石をぶつけてやろうと待ち構えていた、客席の天使たちが……。


 みな、手にしていた石を、ポロリと落としてしまうほどに……!


 いや、ただ『立派』だというだけなら、ここまでのリアクションにはならないだろう。

 加えて言うなら、それはある意味『見るに堪えないモノ』であった。


 特に、デザインが……!

 デザインがありえないほどに、『立派すぎた』のだ……!


 なんと……なんとなんと、なんとっ……!



 ゼウス城っ……!?



 目の前にそびえる、ゼウスの第一居住城を、そっくりそのまま縮めたような……。

 ミニチュアサイズの、トイレだったのだ……!!


 突如現れた『もうひとつのゼウス城』。

 それを目の当たりにした観客たちは、まるで一夜にして、城が現れた敵兵のように……。


 ただただ、立ち尽くすばかり。

 その沈黙を破ったのは、この場の支配者であったはずの、神の怒声であった。



『ぬっ……! ぬぐぐぐぐぐぅぅぅ~っ!! よ、よりにもよって、ゼウス様の居城と同じ見目のトイレを作るなど……! 無礼千万にも、ほどがあるのダッ! そんなトイレを認めるわけにはいかんっ! いいや、ワシどころか、きっとゼウス様もお怒りになっておられるはずだ! すぐに、裁きの雷が落ちるであろう! そしてトイレもろとも、貴様らを灰燼に変えるのダッ!!』



 櫓の上で、本物のゼウス城をバックに、仁王立ちになっているヒコスター。

 彼の言葉に呼応するかのように、



 ……ピシャァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーンッ!!



 鋭い裂音が轟いた。

 ヒコスターは勝ち誇ったように叫ぶ。



『亡者どもよ! 聞いたか!? この神々しく、雄々しい玉音を! さっそくゼウス様が、裁きの雷を降らせたに違いないっ! これは貴様らの罪深さを思い知らせるための、最初の一喝! 次の一喝で、貴様らはそのふざけたトイレとともに、跡形もなく……』



「あっ……あああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 観客たちが急に騒ぎ出した。

 ヒコスターに向かって「後ろ、後ろ!」と指さしている。


 まるで、悪人が後ろから殴りかかってきているかのようなリアクション。

 ヒコスターは、何事かと振り返ってみると……。



 ……ズガァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!?!?



 頭を鈍器でブン殴られたような衝撃に襲われる。



『なっ……なななな……なんで、なんでなんで、なんでっ!?』



 彼が目を奪われていたものは、ゼウス城の城壁であった。


 地上軍の人間たちが積み上げた石が……。

 足組みを外したばかりだというのに……。


 この天国において、悪魔の石が、取り払われたばかりだというのに……。

 新たに積まれた石が、栄えある歴史を刻むのは、これからだというのに……。


 なんと……走っていたのだ……!

 城壁のてっぺんから、地面まで……!


 裁きの雷が下ったかのような、ヒビ割れがっ……!



『なぜダッ!? なぜなのダッ!? ヘルロウの石よりもずっと高級な石を使い、100人もの人間が、神より授かった魔法を用いて積み上げた城壁が、なぜっ……!?』



 青ざめるヒコスター。

 夢なら覚めてくれと、心の底から願った。


 しかしこの『悪夢』のような光景は、現実であった。

 そして、まだ始まったばかりだったのだ……!



 ……ビキビキビキビキビキイッ……!



 なんと、人間たちが積み上げた石に入ったヒビ割れが……。

 伝播するように、他の石にも走りはじめたのだ……!


 まるで、ガラスが割れゆくまでを、スローモーションで再生しているかのように……!


 誰かが叫んだ。



「あ、危ないっ! あのままじゃ、城は崩れるぞっ! しかもこっちの広場側に倒れてくるはずだっ! みんな逃げろっ! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーっ!!」



 その一言で、会場は一瞬にしてパニックに陥る。

 震撼する場内のアオリを受けるように、ゼウス城はさらに揺れ動く。



「ノーッ! させるかっ! ヘルロウの悪の野望を、このワシが食い止めるっ! みなの者、見ているのだ! とーうっ!!」



 ヒコスターは、自分が指揮したはずの石積みが原因で倒壊を招いたというのに、ヘルロウのせいにする気マンマンだった。

 彼は櫓の上から、ゼウス城に向かって挑みかかる。


 しかしいくら正義のヒーローとはいえ、アリが象に向かっていくような体格差は絶望的であった。


 観客は悲鳴とともに逃げ惑う。

 彼らは猿に避難訓練をさせているかのような秩序のなさで、我先に逃げようとして、もつれあっていた。


 その中で、冷静に行動していたのは……。



「神様、天使様! 慌てる必要はござらん! 城と客席は離れているでござる! たとえ城が倒れてきても、客席には被害は及ばないでござる!」



「ステージ付近の方々だけ、避難するどすえ! いちばん安全なのは、亡者たちが作ったトイレの中どす! さぁ、早くっ!」



 ふたりの鬼たちに促され、まず亡者たちが、自分たちの創ったトイレの中に逃げ込んだ。



「オヤジっ! 俺たちも、あのトイレのなかに……!」



 ガンテツは父であるハゲ社長を探したが、彼はキンメダールとともに、娘をおいて真っ先にあさっての方向に逃げだしていた。



「ああっ、オヤジっ!?」



 呼び止めるガンテツの身体を、アローガがひょいとさらう。



「もう間に合わないどすえ! さぁ早く、うちと一緒に!」



「そ……そんなっ!? オヤジっ! オヤジぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!」



 大いなる影が、場内を覆う。


 鬼の美女と人間の少女が、倒れ込むようにして、ゼウス城を模したトイレに飛び込んだのと……。

 本物のゼウス城が倒れ掛かってきたのは、ほぼ同時であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どこから突っ込んでいいのやら(笑) とても楽しくテンポもいいので頑張ってください! [一言] 煽り虫さんw 燃えては復活、死んでも復活って火の〇ですかw 不死身ですねw
[一言] ぷっぷうううーーー!!!!!!wwwwwwww ゼウス城のトイレwwwww!!!!に笑いました!! ざこすたーなんとやらという嫌悪感の塊からゲージバードが逃げられるのですね! 公衆トイレ…
[一言] 「立派なトイレ」 なんとなく笑ってしまった。
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