第二十三話〜夏目side〜
好きな人を苦しめてまで繋ぎ止めるのは
愛と呼べるのだろか
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とあるカフェ__
夏目「あ、深瀬さん!」
深瀬「ハル君、こっちこっちー」
にこにこしながら、手を振る深瀬さん。
夏目「どうしたんですか?急にカフェで打ち合わせしようなんて」
深瀬「ん?あー、実は展覧会の下準備も一通り済んでるし、予定よりも早く海外に行こうかなー?と思ってさ。だから、本当に急なんだけど金曜日に日本を発つよ」
夏目「え?!そんな本当に急ですね;どちらに行くんですか?」
深瀬「それは内緒。ハル君はもう俺とは関わらない方がいいと思うし、その方が色々と安心できるでしょ?」
夏目「それは…」
確かに、この人がいなくなれば安心する。
そうなれば、もう俺と先輩の関係を脅かす人はいない。きっと、また俺だけを見てくれる。
でも…
夏目「俺、深瀬さんの事、嫌いになれないんです。むしろ、好きかな。だから、もう会えないのは素直に寂しいです」
深瀬「ハル君って本当良い子だわー。俺、キュンキュンした」
”ポンポン”
(夏目の頭を撫でる音)
夏目「か、からかわないで下さい!」
深瀬「ww。そんでさ、展覧会は社員さんに任せて高跳びしちゃから、せめてハル君には事前に報告しようと思ってね。会社じゃ内緒話もしづらいし」
夏目「ありがとうございます」
深瀬「発つ前に、何か追加で欲しい資料とかある?」
夏目「そうですね…あ、学生時代の写真とかありますか?」
深瀬「え?俺の学生時代?そんな写真、需要ある?」
夏目「ありますよー!それに、個人的に見てみたいって願望もあったりして。プロモーションに深瀬さんのメモリアル的な要素を少し取り入れたいなーと思ってるんですが…」
深瀬「ごめん。学生時代を他人に晒すのはさすがに抵抗あるなー。あ、でもハル君に個人的になら見せてあげるけど」
そう言って、カバンからおもむろにスケジュール帳を取り出す深瀬さん。
深瀬「実はこの前、整理してたら丁度何枚か出てきてさ。ほら、これ」
そう言って差し出された写真には学生時代の深瀬さんとその友達らしき人達が映し出されていた。
夏目「…深瀬さん、金髪だったんですね」
深瀬「うん。若気の至りってやつだよ。ヤンチャだろー?」
夏目「でも、凄く綺麗です。似合ってます」
深瀬「あんがと」
夏目「……これ、朔先輩ですか?」
その写真には見覚えの無い暗い髪色の先輩が写っていた。
俺には見せてくれたことのない満面の笑みを浮かべて、とても幸せそうに
深瀬「そうだよ。昔は地味だっただろ?」
思い返される屋上での記憶…
***
(振り返り中)
夏目「好きな色は?」
朔「金色」
夏目「金?!随分派手な色が好きなんですね。意外です。黒とか言うかと…」
朔「なんか手に入れたくなるだろ?」
***
(あぁ…そうか…手に入れたかったのは深瀬さんだったんだ…)
写真の中、金色の髪で笑っている深瀬さんと朔先輩を見て分かってしまった。
夏目「……」
深瀬「ハル君?どうかした?」
夏目「…いや、なんだろ…何か色々と…繋がった気がしちゃって…」
気持ちが沈んでいくのがわかる。
溢れ出そうな涙を必死に堪えた。
深瀬「ハル君、俺ね。守れない約束はしないよ?」
夏目「え…」
深瀬「だから、君から朔を奪ったりしない。
その約束を守ったまま俺は消えるから…」
夏目「深瀬さん…」
深瀬「だから、泣かないで?俺、ハル君を泣かせたくないんだ」
深瀬さんは優しく笑った。
だけど、俺はその笑顔を見ると何故かもっと泣きたくなったんだ。
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オフィス__
ありさ「あー、おかえりー!夏目君も参加しよー!」
なにやら騒がしいオフィス。
夏目「え?なんの話ですか?」
ありさ「どうして、クズ男はカメラマンになったのか?!を当てようクイズー!」
課長「いえーーい!♪」
柏木「あはは」
朔「マジ、だっる」
何故か唐突にクイズ大会が繰り広げられていた。
ありさ「あ、もしかして夏目君は、もう答え知ってたりする?」
夏目「いえ。そういえば、聞いたことないですね」
朔「語るほどの理由ねぇもん」
ありさ「じゃー、1人ずつ予想した答えを言って下さい。課長から!」
課長「モテたいから!」
ありさ「綺麗な人と出会えるから!」
柏木「そうだな…イケてるから?」
夏目「好きなタイミングで休めそうだから!」
朔「なんか、お前らが俺の事どう思ってるかよく分かった気がするわ」
ありさ「じゃあ、クズ男さん!正解を発表して下さい!」
朔「お前、それ普通にコンプライアンスに引っかかるからな?」
ありさ「えー、本当のことじゃん。それで、どうなんですか?」
朔「全部ハズレ」
全員「えー」
朔「お前ら、本当にこの中に正解あると思ったのかよ」
全員「思った(ました)」
朔「……(真顔)」
夏目「じゃあ、正解は何なんですか?」
朔「色んなところに連れて行けるから」
夏目「え?」
朔「俺が撮った写真で、見てる人を色んなところに旅させてやれるだろ?だから、カメラマンになったんだよ」
深瀬さんとの会話を思い出した。
***
(振り返り中)
深瀬「絵の中で沢山旅をしたんだ。絵の中なら、どこにでも行けるだろ?好きな時に好きな人とどこにでも行ける。その時からだよ、俺が絵にのめり込んだのは」
***
夏目「そっかぁ…2人は似てるんだ…」
柏木「どうかした?」
夏目「いえ、ただの独り言です」
ありさ「じゃあ、お次はドキドキ究極の二択コーナー!」
朔「まだ続くのかよ」
ありさ「クズ男の深層心理をどんどんと掘り下げていこうかと思いまーす」
朔「これ、誰得?」
ありさ「海で母親と彼女が溺れています。どっちを助けますかー?」
柏木「あ、ありさちゃん。ちょっと、その質問をアレンジしてもいいかな?」
ありさ「柏木さんの頼みなら全然おっけいでーす」
柏木「あはは。んじゃあ、海で夏目君と…」
夏目「え?俺ですか?」
柏木「うん。夏目君と初恋の人が溺れています。どっちを助けますか?」
朔「……」
夏目「……」
柏木「答えてよ?石川さん」
朔「……夏目」
ありさ「きゃー♡よかったね!夏目君!
ようやく石川君にご主人様の自覚が芽生えたのかしら?」
柏木「…それはどうして?」
朔「別にいーだろ」
夏目「どうして俺なのか、俺も知りたいです」
俺は先輩の目を見つめてそう告げた。
朔「夏目は鈍臭いし、直ぐに溺れそうだから…」
柏木「それって、身体能力的な事だよね?僕が質問している意図は違うんだけど…」
朔「知らねえよ」
夏目「義務感じゃなく、直感で答えて下さい」
ありさ「あれ?なんか、2人ともガチトーン?」
課長「そ、そうだね;」
柏木「もう一度聞くよ。夏目君と初恋の人、
どっちを先に助けたい?」
朔「…俺は夏目を選ぶ」
夏目「………」
先輩はきっと知らない。
何かを我慢しようとする時、必ず下唇を噛む癖がある事を。
(…嘘つき)
いや、違う。
この人に嘘をつかせているのは俺の方だ。
あの人のところへ行かないでと縛り付けているのは俺の方だ。




