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7話 聖女の魔法は万能です。

 今日も朝から湯沸かしポットやトースターが踊っていた。フィリアの魔法でコーヒーとトースト、目玉焼きにサラダまで添えられた。

 俺1人じゃ絶対ここまでやらない。

「勇者様、おはようございます」

 俺が起きていることに気付いて声をかけてくる。フィリアはすでに制服に着替え、髪の毛も結い終わっていて、すぐにでも出られそうだった。

「ん、おはよう」

 起き抜けでまだ思考が定まらない。

「お布団片付けますので、顔洗ってきてください」

 立ち上がると布団は勝手に畳まれ、掃除機が勝手に走り回る。空いた場所に座卓が運ばれ、朝食の準備が整って行った。

「いつ見ても、家事が魔法で完結するってすごい」

 旅の途中は護衛騎士が使い過ぎるなと言っていたのもわかる。これはダメになりそうだ。

「ふふふ、だいぶコツを掴んできました」

 そう言いながら浮かんだ家電にタクトを振って指揮するように指示を飛ばし、朝ごはんが座卓に並べられたていく。

 急いで洗面所で顔を洗い、フィリアと一緒に座卓に着く。

「いただきます」

「はい、いただきます」

 一緒に手を合わせて食べ始める。

 あぐらをかいている俺と違い、フィリアは正座して姿勢正しく背筋も伸びている。来たすぐはつま先を立てて少し違う座り方だったのが、今は足の甲を寝かせて綺麗な座り方をするようになっていた。

「昨日は勉強捗りましたか?」

「ん……ああ、ちゃんとしたよ」

 捗った。とは言い難い。早くに眠くなるフィリアはベットで眠り、座卓で勉強する俺はフィリアの寝息に悩みながら教科書に向かう。無音のヘッドフォンをかぶって集中するが、ふとした時に意識してしまっていた。

「やはり、私が教えましょうか?」

 返事を迷ったのを見抜かれた。

「いや、大丈夫だよ。問題文を反復してるし、苦手なとこだけやり直してるから」

 また教わっても暗記に困らない記憶力の良さを見せ付けられてしまう。

 少しあからさますぎたか、ガッカリと肩を落とす。

「フィリアには他のことで頼るからさ。勉強については任せといてよ。叔母さんに言われないようにするからさ」

「わかりました……」

 それから急いで食べ終わり、後片付けをして出かける準備を始める。歯磨きを済ませる間、片付けた食器を魔法で洗い、お互いの体操着を用意していた。

「ありがとう。洗面空きました」

「はい。では失礼します」

 風呂と一体になってる洗面所をフィリアと入れ替わり、部屋との間にカーテンを引いて着替えを始める。

 気を抜いているとすぐ戻ってくるためサッサと動く。フィリアのおかげで着る服は全部用意され、袖を通して鞄を持つと準備完了だ。前には知らぬ間に減った消しゴムが新しくなることさえあったくらいだ。

 今もチラリと中身を確認しても忘れ物はなさそうだった。

「お待たせしました」

 カーテンが開いてフィリアが戻ってくる。女子たちと買ってきたポーチを持っていて、表情も少し明るくなっていた。

 化粧した……のかな。頬と唇の感じが違う……いや、いつも通りなのかな。

「どうかしました?」

 ジロジロ見過ぎたのか、眉を困ったように寄せさせてしまった。

「いや、何でも。行こっか」

 2人の鞄を持つまで立ち上がる。

 フィリアの鞄を差し出すと、ポーチを鞄に入れてから受け取った。

「はい、ありがとうございます」

 家を出てからもしばらく、化粧をしたのでは?と意識してしまい、フィリアの顔をチラチラ見てしまう。

「勇者様?」

「あ、ごめん」

 見ていることに気付かれて、何となく申し訳なくなる。

「やはり変でしょうか?」

 と言うことはやはり、化粧してるのか。

 日の下に出たからか、そう思うと顔が明るくなっている気がする。

「いや、良いと思うよ」

 本音は言えない。けど周りに合わせて歩み寄るフィリアを妨げてはいけない。

「やっぱり良いですか?」

 フィリアの顔も明るくなる。

「先日教室で教えていただいたのですが、肌ツヤを良くするクリームと、リップを買ってきまして」

 そこからは楽しそうに化粧について語り始める。話はしっかり聞いたものも、残念ながら半分もわからなかった。それでも、頼られてるだけではなく、本当に仲良くなっているのが分かった。

 少しだけ嫉妬が横切るが、努めて顔には出さないようにする。

「そう言えば今日は掃除当番ですね」

「ああ、初めてだっけ」

 フィリアは途中編入扱いで委員や係は任されていない。掃除当番のローテーションからも外れており、ようやく回ってきたと喜んでいる。

「皆様とご一緒している学舎を、ようやくきれいにすることができますね!」

 何ともやる気満々と言った様子だった。

「やるのは教室だけだぞ?」

「え、そうなんですか?」

「それに魔法も使わないでよ。見られたら大変なんだから」

「そう……ですか……」

 目に見えてがっかりする姿に不安を覚える。

 いや、ネタ振りじゃないからね?

 分かってるかな……



 それから放課後になって、待ちに待った掃除の時間です。朝は勇者様に止められましたが、私は諦めていませんでした。

 他の掃除当番の方と掃除を終え、皆様が帰った後、教室には私1人です。図りました。勇者様は下駄箱で待っていらっしゃるのであまり時間はありません。

 床に黒板に天井、窓に一気に清掃魔法をかける。床を掃いただけでは取れない埃やゴミがちりとりに集められる。

 黒板も消し残しが全て消え、チョークの粉が巻き上げられるように空へ舞い、ちりとりのゴミと一緒に押し固められ、小さな塊が出来上がる。ちりとりを拾ってゴミの塊をゴミ箱に捨てて掃除はおしまい。

 黒板消しやチョーク受けにはチョークの粉は残っておらず、床にはチリ一つなく、窓も曇りなくピカピカになっていた。少し埃っぽいカーテンも洗濯したてのようにふわっと風に揺れる。

 最後に探知魔法を使って周囲を伺い、見ている人がいないことを確認する。完全に見られず完了していた。

 満足感に胸を張って大きく息を吸い込む。心なしか息も少し弾んでいた。

 聖女として、教会で過ごしていた頃、身の回りの清掃は祈りと同じく重要なことだった。私は世界に祈りを捧げる。どんな場所であれ、汚れていたのでは祈られても嬉しくないですよね。

 窓から外を眺めると、階下に少し元気のない花壇が見えた。花が咲いてても首を垂れていたり、蕾のまま萎れかけていたりする。

 辺りを伺い、また誰もいないことを確認する。

 よし、今なら……

 魔法で水を引っ張り、花壇に咲いた花の根本を湿らす。花に少しだけ回復魔法をかけた。

 花はまた頭を持ち上げ、萎れた蕾も元気を取り戻す。大きな変化は起こしていないので誰も気付かないかもしれない。それでも明日もきっと元気に咲いてくれるはず。

 気分良く教室を出て勇者様と合流する。

「遅かったね。なんかあった?」

 少し疑われてる気もしたけど、これも聖女としてのお役目ですので。

「なんか、ご機嫌だね?」

「はい、素晴らしい時間を過ごせました」

 やはり掃除は素晴らしいです。気持ちもピカピカになります。

「学校は悪い気が溜まりますので、キレイにするのは気持ちも晴れやかになります」

「え、何、実は怖い話してる?」

 気付かれない程度に浄化魔法を撒いておく。勇者様は見えませんので、できるだけこっそりと。

「日々の埃や汚れのことですよー」

 それから2人で並んで帰る。

「今日はよく寝れそうです」

 まだ夕日は出ていたけど、心地よい疲れを感じていた。

「掃除当番だけだよね?」

「はい! 教会でもしてましたが、やはり掃除は気持ちもキレイになりますから」

 本当に気持ち良い夕日の帰り道だった。

 でも、今日は本当に疲れました。

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