3話 聖女の常識は通用しません。
「ここがお店!」
スーパーの目の前まで来て何やら驚いていた。
辺りにあるもの全て解析しながら歩いていて都度驚いていたが、ここで一際大きく声を上げていた。
「向こうだと市場だったしね」
彼女の驚きは置いて自動ドアをくぐり先に入る。
「勇者様、ドアが勝手に動くし、建物の中が涼しいです」
「ドアは機械式なんだよ。あと涼しいのは食べ物扱ってるからね。家にあった冷蔵庫の大きいやつに食品並べてるんだよ」
入り口近くにある青果コーナーに目を輝かせていた。
「後で買ってあげるから」
急に動きたくなくなったフィリアを押して2階の服飾売り場へ移動する。
「市場の上に服屋が!」
「そういうところも驚くよね」
向こうにスーパーはないし、2階が違う小売があるなんてこともなんてものもない。
「ずっと解析魔法使ってるけど、疲れない?」
「はい、聖女の魔力は途切れませんので」
そう言いながらずっとキョロキョロしている。
確かに、魔力が無くなったところは見たことない。
「まずは下着かな」
あれ、下着コーナー、女性用の? 俺が入って大丈夫?
自身の提案がどれほど難しいことかと後悔するが、フィリアは構わずどんどん進んでいった。
「フィリア、ちょっと待って……」
「勇者様、見てください。これブラジャーとショーツって言うらしいですよ?」
知ってる。知ってるけどそうこちらに見せないで。
「向こうの下着とは大違いですね。すごく締め付けそうですけど、肌触りは良さそうです」
そう言いながら広げて見せてくる。
「ほら、すごく伸びますよ?」
お願いだから勘弁してください。
目を逸らしても前に回り込もうとしてくる。
「あのーお客様?」
見かねてか、店のお姉さんが話しかけて来た。
俺にとっては救いの女神に見えた。
「あ、申し訳ありません。あまり馴染みがなかったもので」
店員に気づき、広げていたショーツをハンガーに戻す。
「私、事情があって詳しくなくて……少し教えていただけますでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「これなんですけど、かわいいのですが自分に合うかわからなくて」
「それでしたらでは一度お調べましょう」
何やら2人だけで会話して、揃ってフィッティングルームに入っていく。閉じられたカーテンの向こうが気になったが、これ以上は踏み込んではいけない気がして遠くから眺めていた。
その後2、3回ほどお姉さんだけ出入りし、最後には笑いながらそろって出てきた。
つまり、あの中で試着していたのかと、想像しかけて頭を振る。
「勇者様、すごいですよ。安定感が抜群です」
「そうかー、良かったねー」
あえて、何のかは聞かない。
「肩紐の調整でここまで変わるとは思いませんでした」
「そうだねー」
できるだけ心を無にする。
「勇者様、ちゃんと聞いてますか?」
気のない返事がバレて咎められるのも気にしない。あと、フィリアの呼び方に後ろのお姉さんが少し不審そうな顔をしたのも気にしない。
「では次は洗い替えに何着かいかがですか?」
「はい、お願いします。できればこちらのような丈夫なのが欲しいのですが」
「やはりいつまでも使える物が良いですよねー」
フィリアが要望を言って、店員のお姉さんが肯定する。そんなやり取りを繰り返して下着を何セットか選んだ後、服の方にまでついて回ってもらい、一緒に服を選んでいた。
「お姉さん、今日は色々教えていただきありがとうございました」
「いいよいいよー大変なんだろう? またわからないことあったらいつでも聞きにおいで」
支払いが終わり、大きい袋を受け取る頃には2人ともニコニコしていた。いつの間にか布団まで選んでいて、背負えるようにしてもらっている。
荷物を両方受け取って一度帰ることにした。
「え、勇者様、あの」
途中、青果コーナーを素通りしようとして袖を引かれていたようだが、もう一度来ると言って納得してもらう。
「フィリアはすごいな」
帰り道で思わず声に出た。
「知らない土地、知らない文化、わからないことだらけでさ。解析魔法使っても意味わからないものいっぱいあるだろ?」
「そうですね。ひとつひとつに驚きがあります」
「俺、使えないからわからないけど、知らない単語も出るんだよね?」
「はい。知らない言葉も出て来ますが、更に深く調べれますので」
やはり無茶苦茶便利だった。
「俺は異世界に行った時、フィリアがいなきゃ何もできなかったけど、フィリアは俺がいなくてもやっていけそうだな」
「そんなことはありません」
食い気味に、きっぱりと否定された。
「先ほども、あのお姉様に教えていただきました。私1人では、勇者様に……」
何か言いかけてフィリアは急に辺りを見渡す。
「どうした?」
「泣き声、聞こえません?」
……うえぇ……おかぁさーん……
子供の泣き声がうっすら聞こえた。
「あっちですね」
そう言うフィリアについて行くと、少し行った先で小さな子が泣いていた。幼稚園児くらいだろうか。
フィリアは子供に駆け寄り、しゃがみ込んで目線を合わせる。
「どうしましたか?」
「ふえ……おかあさん」
「あら、はぐれてしまったのですね」
すでに店からも離れ、住宅地のど真ん中だ。見通しが悪く、辺りを見回しても母親らしき人は見当たらない。
「お家は近くですか?」
わずかに首を振る。
「わかりました」
フィリアは立ち上がると手をかかげようとしていたので袖を掴む。
急に掴まれた袖と俺を不思議そうに見比べている。
「勇者様?」
「ここで使うべきじゃない」
スマホで交番の場所を調べて道を確認する。
「こう言うのは警察、専門の人に任せるべきなんだ。連れて行こう」
「……わかりました」
「きみ、名前は?」
「ふえ……ひっく……」
そばに立って声をかけるが、すぐにまた泣き出しそうだった。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんで、お母さん探す手伝いするよ。ついて来てくれるかな?」
「う、う……」
「大丈夫ですよ。私たちが来ましたからね」
フィリアは子供の手を取って頭を撫でてあげていた。
「私はフィリア。あなたのお名前は?」
「……さな」
「サナちゃん。かわいいお名前ですね」
さなちゃんをフィリアに任せて歩き出す。
交番に着くとちょうどお母さんが来ていたのか、さなちゃんは走り出す。2人で母子の再会を遠くから見守り、そっと離れて家路に着いた。
「サナちゃん、お母さんに会えて良かったですね」
「そうだな」
「勇者様、先程は何故止めたのですか?」
「ああ、それは……」
言葉が思いつかず、言い淀む。
「なんといおうかな。こっちで暮らす間、外では魔法に頼らないで欲しいんだ」
「何故ですか?」
「こっちは魔法がないからさ。誰かに見つかると大変だし、大騒ぎになるから使わずに済むなら使わないで欲しい」
「ですが、魔法がなければ私は何もできません」
うつむくフィリアに向き直って首を振る。
「そんなことないよ? さっきもさなちゃんを助けられた」
「そうでしょうか」
「俺が話しかけても、あの子は泣くだけだった。でもフィリアは違った。名前を聞けたし、困ってることも教えてくれた。君じゃなきゃ、あそこで立ち尽くしていたかもしれない」
静かに聞いてくれていた。だからはっきりと言葉にして伝える。
「フィリアだから助けられた。やっぱり俺の聖女様だよ」
「……はい」
うつむいたまま、顔を赤くしていた。
「早く帰って荷物置いてこよう。もう一度行ってお昼か、それかおやつでも食べようか」
「おやつ!」
ようやく顔が上がった。
「甘いものに目がなかったよね。こっちのクレープ食べに行こう」
「はい! あ、いや、私、そんな食いしん坊みたいな」
「果物もいっぱい入ってるよ」
目を輝かせて早歩きになる。
「勇者様、早くいきましょう!」
「待って、布団背負ってるから走りにくい」
「置いて行きますよ!」
元気な聖女様は楽しそうに走り出していた。
「道知らないのに先行かないで!」




