番外編 20.5話 エピローグのこれから
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タイトル修正しました。
松林の小道を並んで歩いていると急にフィリアが走り出した。
「アルト様、見えましたよ!」
道の向こう、堤防の切れ目に青い景色が見えてきた。
「ふわぁああー」
視界一面に広がるオーシャンブルーと砂浜に感嘆の声が上がる。
海開き前の海水浴場なら人も少なく、近くに港もある。船も観れるだろうと俺が誘って来ていたが、正解だったようだった。
「すごいです、アルト様! 向こう岸がありません」
フィリアは目を輝かせて喜んでいた。無邪気にはしゃぐ姿を見ていると、胸の中が暖かい。
「海は初めてじゃないよね?」
「はい。でもいつも馬車の窓でして少し見たくらいです。本当に湖ではないのですよね?」
「そうだね、この向こうは別の大陸だからさ」
「想像もできません……」
異世界で見た地図は大陸が1つで、周りを海に囲われていた。海路は陸路の難所を避ける回り道しかなかった。
フィリアは堤防に身を乗り出し、浜辺に海にと交互に眺めていた。
「これほど開けているのに、あまり人いませんね」
「ああ、海開き前だからね」
砂浜に降りているのは3〜4組いる程度で、ほとんど人はいなかった。見渡すと海の家も営業していない。
「海開き?」
「ここって海水浴場なんだけど、それはわかる?」
「はい、泳いで浜辺、で合ってますか?」
「そうだね。でも、泳いで良い時期が決まってて、海開きをするとみんなここに泳ぎに来るんだ」
「泳ぐのに許可がいるのですね」
不思議そうな顔をして海を眺めている。
「ああ。夏休みになれば、この海岸を人が埋め尽くすと思うよ」
「埋め尽くす! すごく広いですよ?」
目を見開き驚いている。
「もうほんとすごいよ。いっぱい来る」
手を広げて大きく見せる。
「はあ……すごいです」
そう言って海岸を眺めて、次に海の向こうの水平線を見つめた。地平線もない世界にいて、世界の端っこはどのように見えているのだろう。
麦わら帽子を押さえて、海風にさらわれないようにしている。風に煽られた長い銀髪がひるがえり、思わず見惚れてしまう。
「あ、あれ!」
不意に声を上げて海を指差す。
そっちを見ると、わずかにかすむほど遠くで大型船が港から出てくるところだった。
「あれ、船ですよね!」
「そうだな。大型の客船だな」
「客船……あの中に、またいっぱいの人がいるんですね」
「ああ、今はわからないけど旅行時期にはいっぱいじゃないかな」
「あの船はどこまで行くのでしょう?」
「んー……それはわからないかな」
出るのは知っているが行き先まで調べていなかった。
「別の島か、遠くの国か。とにかく、遠いところまでかな」
「遠いところですか……私」
「ダメだぞ?」
言い出す前に釘を刺す。
「え、まだ言ってませんよ?」
驚いた顔をする。
「前に言ってたからわかるさ」
笑って船を指差す。
「船に乗りたいって言うんだろ?」
「はい、乗りたいです」
負けじと迫ってくる。
「アルト様は乗りたくないのですか?」
「乗りたいけど」
親からの仕送りでは先立つものがない。なんて情けなくて言えない。
「いつか、かな」
「……ふふ、はい、いつか。ですね」
そう言って笑ってくれた。
「海の近くまで行ってみよう」
階段を降りて砂浜に踏み込む。1歩目から砂がサンダルの上に乗ってきて足の指にからむ。
「ほら、フィリアも」
砂浜の手前で止まるフィリアに手を差し出す。
俺の手を取り、ゆっくりと1歩目を踏み出した。
「わ、足が沈みます」
同じようにサンダルが沈んで砂が上がってきた足を引っ込めると、またもう片方の足が沈んでしまっていた。
「むむむ」
諦めて両足で砂地に立つ。
「指の間に砂が入ってしまいました」
「はは、なると思った」
「あ、まさか狙ってサンダルに履かせたのですか?」
責めるような口調でこっちを見る。
「まあまあ、サンダルの理由はこれからさ」
そう言って手を引いて海に近づいて行く。
「アルト様、どこまで」
「良いから」
波打ち際に近づいてフィリアの手が少し固くなる。
「ここで脱いで」
足元を指差し、先にサンダルを脱ぐ。フィリアも合わせて素足になり、砂の上に立つ。
「足の裏が暖かい」
驚いたように何度も足踏みしている。
「さ、こっちだ」
引いて行く波を追うように湿った砂の上を歩く。
フィリアも恐る恐るついてくる。
そこへ白く泡立つ波が帰って来て、2人の足首を優しく撫でていく。
「わ、冷たい」
口を開けてじっと足元を眺めている。
波が満ちて引いて行く間、そのままじっとしていた。2回目の波が満ちてきて、驚いたように顔を上げる。
「水が動くと、足が沈んでいきます!」
「ぷっ」
「水と砂が動いてますよ!」
真剣なフィリアの顔に思わず吹き出した。
「そんなに驚いた?」
「はい!」
元気良い返事をして、スカートを持ち上げて更に深くへ進んでいく。
「あんまり進むと危ないよ?」
「大丈夫ですよー」
そう言ってスネまで波にさらして海を感じにいく。
「すごい……波とは生き物みたいですね」
「はは、確かに」
感心したようにまたまたじっと波を見て、指先を少し波にさらす。その指をなめるとそのなめた舌を口の外にさらす。
「あるとはま、しょはいでふ」
「はは、何やってるの」
情けない顔のフィリアを、つい笑ってしまう。
サッと水のペットボトルを差し出した。フィリアは受け取って少しゆすぐように水を飲む。
「そんな顔初めて見たかも」
「お恥ずかしい。そんなに笑わないでください」
フイとそっぽを向いてむくれてしまった。
「ごめんごめん」
少しこっちをにらんだ後、また足元に視線を戻す。
「不思議ですね。本で読んでも波の感触なんてどこにもありませんでした」
そして波打ち際に戻り、足元の砂を蹴り上げる。
「土と違って、泥でもないですね」
波の方につま先を向け、また白い波にさらしている。
「ふふ、ここだと砂が流れてくすぐったいです」
楽しそうに笑うフィリアをいつまでも見ていたいと思った。
海を楽しんだ後、電車に乗って最寄駅まで帰って来た。
赤い夕焼け空の下、駅を出て2人で家路を歩いていく。
そっとフィリアが手を繋いでくる。
ドキッと胸が高鳴る。
「今日はありがとうございました」
彼女はいつものように笑っていた。日焼けか、夕日か、ほんの少し顔が赤い。
「な、何のこと」
「私が船を見たいと言ったこと、覚えていてくれたんですよね?」
「ああ……」
照れ臭く、返事が素っ気なくなる。
フィリアが少し不思議そうな顔でのぞき込んでくる。
「アルト様はいつも私に知らない景色を見せてくれます」
「そうかな?」
「そうです」
少しとぼけた後、笑ってフィリアを見る。
「フィリアも、色んなことを教えてくれてるよ」
「そんなことありますか?」
「あるんだよ」
2人で顔を見合わせ、一緒になって笑い合う。
「また色んなものを見に行こう」
「はい。約束ですよ、アルト様?」
「ああ、わかってるよ」
「これからもずっとですよ?」
「ああ、これからもずっと」
「2人で色んなものを見に行こう」
「はい、アルト様」
嬉しそうに笑っていた。
これからも、どんなことがあっても。
きっと2人で。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
本作はこれでおしまいとなります。
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