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13話 聖女は魔族と出会います。

 フィリアに居て欲しいと伝えたい翌日の下校道。

 同い年くらいの女子2人組とすれ違った時、

「あれ、聖女ちゃんじゃない?」

 2人組の1人が声をかけてきた。

「え……」

 驚き振り返ろうとして動きが止まる。隣にいたフィリアの顔が固くなり、手は俺の裾を強く掴んでいた。

「フィリアどうし」

 問い掛けようとした言葉を遮って、2人組から手が伸びてきた。

 とっさにフィリアを抱えて飛び退き、距離を取って対峙する。

 2人は対照的な組み合わせだった。

 濃い日焼け肌をした金髪ギャルと、真っ白い肌の黒髪優等生と言った見た目をしている。

「勇者様、彼女はさっき」

「ああ、そうだな」

 フィリアを見て聖女と呼んだ。

 こっちで知ってるのは叔母さんと俺だけのはずだ。

「あらら、残念。逃げられちゃった」

 手を伸ばしてきていたのは金髪ギャルの方だった。伸ばした手が空を抱き、残念そうに項垂れる。

「急に抱き付いてはいけませんよ」

「ええーでもあれだよね? 聖女ちゃんと勇者ちゃん?」

 金髪ギャルが俺を指さし、そう呼んだ。

 フィリアだけじゃない。俺のことまで知っている。間違いない。

「フィリア、下がってて」

 こいつら、向こうの住人だ。

「勇者様、あの2人」

「ああ、わかってる」

 彼女の裾を握る力がぐっと強くなる。

「お前たち、何者だ」

「凄みエグ、カッコいい!」

 何が面白いのか、こっちを指差しテンションを上げている。

 カッコつけたのにやめろよ、恥ずかしい!

 それでも意識から緊張は抜かない。

「クーネ、今の見た? 姫を守る騎士みたい」

「ナメア様、聖女を守る勇者ですよ」

 ケタケタ笑う金髪ギャルはナメアと、それを冷ややかに指摘する黒髪優等生はクーネと、それぞれを呼び合っていた。

 背中をじっとりした何かが流れ、なんとも嫌な予感がする。

「でもぉ、あんなに警戒しなくていいのにね?」

「して当然ですよ。お2人は私たちを知りませんから」

 そう言って笑うナメアと澄まし顔のクーネから言い表しようのない圧力を感じる。その感覚とは裏腹に2人からは軽薄な感じがしていた。

「じゃあ、せっかくだし自己紹介」

 そう言ってナメアがゆっくり近づいてきた。

 後ろからフィリアが後ろに袖を引っ張ってくる。

「勇者様!」

 声に緊張感が増す。

「はじめしましてー、勇者ちゃんと聖女ちゃん」

 対照的な明るさでナメアが話しかけてくる。

 フィリアは身を寄せてきて耳元に顔を寄せてきた。

「彼女たち、魔族です」

「え」

 とっさにフィリアの顔を見る。緊張して顔に冷や汗が流れていた。

「うちはナメア。魔王軍幹部、夜魔族のナメア」

 自身の身体を見せ付けるようにクネらせ、最後に投げキッスをすると本当にハートが飛んできた。

「よろしくね」

「魔王軍だと……」

 魔王は確かに倒したはずなのに。

「そう。うちら、勇者ちゃんを探してたんだよねー」

 魔王軍が勇者を探す。

 そんなもの、仇討ちしか考えられない。

 拳を背に隠し、力を込める。敵を倒す意思を込め、固く鋭いイメージを握りしめた。

「魔王様倒されちゃったでしょーあれでうちら大変」

 フィリアの手を払い、話を続けるナメアに向けて一足で飛ぶ。力を込めた拳に勢いを乗せ、彼女の胸に向けて突き出した。

「うわあ!」

 ナメアは気の抜けた悲鳴を上げて仰け反る。勢い殺さず尻餅つく彼女に向けて、拳を斜めに振り下ろし……

「待って待って!」

 両手を出して身を守る彼女に向けて、当たる直前で拳を止めた。

 明らかにやる気がない。

「なんなんだ一体?」

 拳を引くのを見て、あからさまに安心していた。

「うちらバトル向きじゃないんだよー勇者ちゃんこわー」

 そう言うナメアにはまるで緊張感がない。

 クーネに手を借りて立ち上がるとお尻の砂埃を払ってこちらに向き直る。

「それとも、そんなに触りたかった?」

 腕を組んで胸を強調した。

「話聞いてくれたあとならぁ……触っても良いけど?」

「ち、違う!」

 思わず大声で否定して距離を取る。

「アハハ、勇者ちゃんってる初心なんだねー」

「な、なんなんだよ! お前は!」

 からかうナメアに思わず声が荒くなる。

「じゃあ、ちょっと身の上聞いてくれる?」

「……わかった」

 ここは聞くしかないか。

 フィリアの顔を見ないように下がり、2人組と距離を置く。後ろからの視線がなんだか怖く、振り向くことはできなかった。

「魔王様倒されちゃってさーうちら大変だったんだよー」

 すごく軽いノリで始まった。

「追撃やばくてさ、もう爆逃げ」

「ナメア様、もう少し説明した方が……」

「ええーだって、その辺つまんないよ?」

 ふぅーっと息を吐いてクーネが前に出る。

「私から説明させていただきます」

 クーネが語るに、魔族は人間軍の掃討作戦に追いやられ、あっさり魔王軍は崩壊したと言う。

「それから追われる中、何度も何度も逃げているうちに」

「こっちの世界に来ちゃったってわけ」

 悲惨な話のはずなのに、途中入るナメアの合いの手のせいであまり緊張感が感じられなかった。

「いやーほんとギリギリだったよねー」

「そうですね。逃げるはずの転移魔法をナメア様が失敗した、不幸中の幸いです」

 つまり、自発的に来たわけではないということか。

「転移魔法……失敗って、それ戻れるのか?」

「まあ、そのうちらなんとかなるんじゃない?」

「転移魔法で来れたなら恐らく戻れるかと」

「でも、そんなの楽しくないしねー」

「じゃあ、一体なんで俺を探してたんだ?」

「えーそれ聞いちゃう?」

 両頬を押さえて体をクネらせている。

「いやー本人前だとちょい恥ずい」

「ナメア様、初体験じゃないんですから」

 クーネに背を押されてナメアが近付いてくる。

 こんなやり取りをして2人は徐々に距離を詰めてきていた。

「勇者ちゃん、うちらの魔王にならない?」

「はあ?」

 思わず声が出た。

「いや、俺は魔族じゃないぞ?」

「知ってるしー、うちら多種族じゃん?」

「魔王軍は強さだけが正義です」

「勇者様なら、前の魔王様倒したし、誰も文句言わないよー?」

 クーネの顔は真剣そのものだし、おどけたような口調のナメアですら目はまっすぐこちらを見ていた。

「勇者様はそのようなことしません」

 フィリアが急に割ってきた。

「こんなところまで来て何を言うかと思えば、勇者様が魔王になんて有り得ません!」

 珍しく声を荒げていた。

「んんー?」

 言われたナメアは気にも止めず、フィリアの前に歩み寄る。

「そういう聖女ちゃんはさ、なんでこっちにいるのかなー?」

「あなたには、関係ありません」

「本当かなー?」

 俺の前に立ち塞がるフィリアに対し、ナメアも胸が当たる距離までにじり寄る。互いに譲らず、額が付きそうな距離で睨み合う。

「聖女ちゃん、知ってた? いなくなって教会大騒ぎらしいよ?」

「それは……」

 フィリアが少し怯んだ。

 一国の聖女が突然いなくなればそれはそうか。

「んふふー?」

 ナメアはニヤニヤとしたままフィリアの顔を眺めていた。

 唐突にナメアはサッと避けて、こちらに身をひるがえす。

「ねえ、勇者ちゃん」

 腕を絡めて身体を押し付けてくる。

 敵意のなさに避けられず、腕に当たる柔らかな感覚に気を取られて逃げられない。

「うちらぶっちゃけ弱くてさー守ってくれる人を探してるんだよね」

「いや、離せよ」

 腕の形に変わった胸に目が奪われる。腕を絞める力も強く、思ったように振り払えない。

「魔王様になってくれるなら……うちらのこと、好きにして良いよ?」

「いけません!」

 フィリアがナメアを引き剥がす。

「勇者様! 魔族の誘惑に耳を傾けてはいけません! 早く倒しましょう!」

「いやしかし、こっちから手を出すのも」

 フィリアの初めて見る剣幕に、思わずこっちが怯んでしまう。

「ねえ、聖女ちゃん」

 ナメアは今度、フィリアに抱き付いた。

「怒ってるのかなー?」

「怒ってなど……」

 余裕のないフィリアに対し、ナメアの顔は楽しくて仕方ないと語っていた。

「そのイライラは、魔族のせいかな? それとも、勇者ちゃんを取られる嫉妬かな?」

「……!」

 フィリアの顔が真っ赤になる。

 引き剥がそうと手を伸ばすとスルスルと動いて逃げられる。

「あはは!」

 こちらから距離を取るとお腹を抱えて笑っていた。

「あーおっかしい! 涙出る」

 隣にいたクーネからハンカチを受け取り、目尻を押さえて顔を上げた。

「今日はここまで。また勇者ちゃん、聖女ちゃん!」

 いつの間にか、影が深くなっていて、2人は沈むように影に消えていった。

 急に辺りも静かになる。

「なんだったんだ……」

 どっと疲れが吹き出した。

 俺は無意識に、ナメアの胸が当たっていた腕を掴んでいた。

 それをフィリアがジッと見ている。何か言おうと口をパクパクしたり、悩むように目を泳がせていた。そして明らかに俺を疑う、ジットリした目になっていた。

「勇者様も、そう言うのが良いのですか?」

「いや、違うからね?」

 弁明も虚しく、フィリアは自身を見下ろし、ため息を吐いて歩き始めた。

「フィリア! 待って、本当に違うんだって」

 それから何度謝っても口を聞いてくれるまで数時間かかってしまった。

 全く、なんで恐ろしい奴らなんだ。

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