表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/12

11話 聖女の魔力は不足しています。

 路地裏でフィリアを抱き上げ、彼女の鞄を拾って家に向かって走った。異世界転移のチートが身体強化だったおかげで、こういう時は疲れ知らずだった。揺らさないように注意して走っても自転車より早く走れる。

 マンションの周りに人がいないのを確認し、外から部屋の階まで飛び上がる。

 手早く玄関を潜ってベットに座らせる。傷口を消毒して大きさを確認する。深くは切れておらず、大きめの絆創膏で手当てした。

「これで良し、かな」

「はい、ありがとうございます」

「それで、どうして1人で戦ったの?」

「えっと……」

 多分聞くまでもなく、見過ごせなかったんだろう。自分でできると言う思いもあったはず、前の旅の途中であれば簡単に倒せる相手だったし。

「いつからだ?」

 言い淀むフィリアに質問を変えた。

「いつから、とは」

「魔法、使えなかったんじゃないか?」

 フィリアは目を見開いて固まる。

「図星かな?」

「どうして」

 問い返してくる彼女の指先を見た。まだ絆創膏が残っている。

「最近魔法を使わない。怪我を魔法で治さない。あと、少し戦った後があったから、ただやられたわけじゃない」

「最近、魔法を使っていなかった。怪我を魔法で治さない。使えたなら、いくら不意を突かれてもフィリアが追い詰められるとは思わない」

 となると、と少しためてフィリアをまっすぐ見た。

「魔力、使わなくしてるのかと思ってたよ」

「それは……」

 フィリアは押し黙り、うつむいてしまう。

 責めてるつもりはなかった。でも怒っていることは伝えないといけない。しかし思ったように言葉は出てこない。

「申し訳ありませんでした」

「責めてるつもりはないけど」

 言葉にしても口調からトゲが出てしまう。

「とりあえず、近くに他はいなかったかな?」

「はい、それは確認できました」

 できました、か。

「探知魔法は使えたのか」

「はい。今も、全く使えないわけではないのです」

 旅の途中に護衛騎士が言ってた言葉が思い出される。

『聖女の魔力は、信仰の力だ。信じる人たちの祈りの多さで魔力を得る。無尽蔵に思えても、あまり無駄にして良いものじゃない』

 と、俺を無知だと罵っては、フィリアに頼るのを止めろと口酸っぱく言われていた。

「ひょっとして、こっちに来てから少しずつ?」

「……はい。私も、すぐには気付きませんでした」

 つまり、いつからと言うよりいつの間にか、と言うことなのかな。

「申し訳ありませんでした。ですが、全くないわけでも、回復しないわけでもないです」

 立ち上がろうとして痛みに顔を歪める。

「フィリア! 大丈夫か?」

 思わずこっちが立ち上がっていた。

「大丈夫です。少し、背中を痛めてまして……」

 そう言ってベットの上で背中を向けてくる。

「見てもらえますか?」

 制服のまま、両脇の裾を持ち上げて背中を見せてくる。

 気持ちはささくれていたはずが、フィリアの白い肌に思わず息を呑む。

 頭を振って邪念を払う。

「ちょっと失礼するよ」

 真っ白な肌の背中は見た限り何もなさそうだった。背骨に沿って軽く押しても痛がるそぶりはなかった。

「勇者様、少しくすぐったいです」

 ドキッと心臓が跳ね上がった。思わず触れていた手を離す。

 見るとフィリアも向こうを向いたまま、耳が赤くなっていた。

「ああ! ごめん! 変な触り方した!?」

「いえ……痛いのはもう少し上です」

「わ、わかった」

 今度はゆっくりと背中の服をまくり上げる。隠れていたブラ紐が見えたけど、そこに広がる青あざに頭が冷えた。

「かなり強くぶつけたな」

「はい、ひどいですか?」

「内出血かな? 打ち身の湿布とかが良いかな」

 救急箱の中を見るが、そんなものは無かった。

「少しお手伝い願えますか?」

 後ろ向きのまま手を差し出してきた。

「私の手を患部に添えてもらえますか?」

「うん? わかった」

 よくわからなかったけど、わかったつもりでフィリアの手を取り、青あざにかぶさるように支えた。

「これで良い?」

「はい、ではこのまま」

 スゥーッと長く息を吸い、背筋を伸ばす。

「ヒール」

 短く呟くと背中に添えた手のひらが光る。しばらくして手のひらを退けると、青あざは消えてわずかに赤くなっているだけとなった。

 やはり旅の時のように跡形もなく治る、と言うわけにはいかないようだった。

 服を整えて立ち上がる。

 足の切り傷はなんともないように振る舞っている。

「これで、もう大丈夫です」

 微笑んで見せるも少し表情が固い。フィリアの両肩を掴んでベットに座り戻させる。

「あ、え、勇者様?」

「いいから、今日は家事禁止だ。大人しくするように」

 人差し指を顔の前に立て、厳しく言いつける。

 次にフィリアの学校後の行動を思い返して行動に移した。

 風呂を洗い、湯を張れる状態にする。次に米を洗って炊飯器にスイッチを入れる。

 おかずは作れないから惣菜かな。あと打ち身用の湿布と絆創膏の替えかな。

 買い物先の順番をシュミレートして財布だけ持って玄関に向かう。

「フィリア、ちゃんと家事禁止だからね。制服着替えるのは良いけど、他はダメだからな?」

「勇者様」

 何やら抗議の声を上げようとしていたが、さっさと玄関を出て扉を閉める。



 それからドラッグストアで湿布、傷テープと絆創膏の予備を、スーパーで惣菜を買って帰ってきた。

「ただいまー」

「おかえりなさい、勇者様」

 出た時と同じようにベットに座っていたが、部屋着のジャージに着替え、百科事典を開いていた。

「ちゃんと良い子にしてたか?」

「そんな子供ではありませんよ?」

 軽口に答えてくれたが、表情は固く苦笑いをしていた。

 そんなフィリアをよそに、晩御飯の用意を進める。炊飯は完了していたので、インスタントの味噌汁を用意する。買ってきた惣菜を2人分に分けて盛り付けて完成した。

 座卓の上に1人で並べてフィリアも座らせる。

「「いただきます」」

 そうして口数少なく食事を始める。

 お互いの食事の音だけが聞こえてきて、なんとも静かな食事になってしまった。

「フィリア」

 耐えきれずに口を開く。

「俺はこうして、ご飯も用意できるし、風呂も掃除できる。買い物にも行ける」

「? はい、そうですね?」

 不思議そうに首を傾げられてしまう。

「旅をして知ってると思うけど、だいたいの魔物は一撃だし、こっちの世界じゃ俺が教えられることがたくさんある」

 フィリアは静かに聞いていた。

「だからさ、何か困ったら頼って欲しい。1人でなんとかしようとしないで」

「ですが」

「俺は頼りないかな?」

「そんなことはありません!」

 フィリアが急に大きな声を上げ、自身も驚いたように口を手で塞ぐ。

「勇者様は今も昔も頼りにしています。だからこそ、あの程度の魔物で手をわずらわせるわけには」

 続けようとするフィリアに向けて首を振った。

「次は上手くやるとか、魔力減ってるならなおさら、自分にできるかを考えて欲しい。無理なら、遠慮せずに頼ってほしい」

「ですが……」

 まだ納得いかないと言った感じだった。

「フィリアは、俺が1人で魔物退治に向かって、怪我をして帰ってきたらどう思う?」

「それは、心配しますし、なぜ連れて行ってくれなかったのかと……」

 そこまで言ってハッとしていた。

「俺もそうだよ。力の少なくなったフィリアが、知らない場所で怪我してるなんて、怖くて仕方ないんだよ」

「はい、わかりました」

「心配したんだからね?」

「……申し訳ありませんでした」

 反省したようにうつむいてしまう。

「謝って欲しいんじゃないんだ」

 どうすればわかってもらえるのだろう。

「なんでも自分でやろうとせずにさ、俺は」

 できるだけの笑顔を作る。

「聖女様の、頼れる勇者なんだぜ?」

 フィリアも何か言おうとする。

 だが口を少し動かしただけで閉じてしまった。

 まだ頼ってくれるか怪しいけど、あとは俺が示すだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ