第7話 瞬きする間に
「グレイ様! 朝は急に二階に行ったからびっくりしましたよ!」
家に帰るや否やマロンから一番最初に言われた言葉はそれだった。隣にいるノアはマロンを見ながらずっと押し黙っている。
「あぁ、朝のことはちゃんと話さなかったのは悪いと思って……」
「そうですよ、あんなカッコいい技があるのにどうして教えてくれなかったんですか!」
「え?」
グレイはマロンの口から出てきた言葉に衝撃を覚えて思考が止まった。しばらくの間、頭の回転が止まり側から見れば何とも言えない表情になっていただろう。
「私はグレイ様の側近で生活をお助けするために呼ばれたんです。なのに、あんな便利な魔法があれば私の存在意義が無くなるじゃないですか!」
「お、おい……そんなに泣くなって……」
「こんなに小さい子を泣かすなんて。兄さん、とんだくず人間ですね」
マロンは顔を手で覆い隠し泣いていた。その姿を見たフィオナは悪戯な笑い方をしながらグレイを横目に見る。
どうすれば良いのかも分からなくなってしまったグレイは助けを求めるためにノアへと視線を送った。が、ノアはぷいと口を尖らせてそっぽを向いてしまった。
「あ、ぁ……」
口を大きく開けて顔を真っ青にしてグレイはマロンを泣き止ませる方法を必死に考える。三秒ほどの僅かな時間内で脅威の頭の回転力を見せたグレイは一つの結論へと辿り着く。
「マ、マロン分かった。もう全員、後で地下に集まってくれ」
「……分かりました。では夕食後に集まりましょう」
ノアがこれからの予定を見据えて時間を指定した。マロンを説得したグレイはゆっくりと階段を登って自分の部屋に戻る。自分の部屋へ戻ってすぐにベッドに倒れ込んだグレイは一気に疲れが流れ込んできた。
「一難去ってまた一難とはこういうことか……」
腕を目の当たりに起き、これからも困難が続くことを想像して少しだけ眠りについた。
夕食後、五人は屋敷の地下へと集まった。理由は言うまでも無くグレイ直伝の魔法の練習だ。
「じゃあまず、フィオナは出来るんだが魔力を薄く辺りに飛ばせるか」
グレイは魔力と関わりを持ちすぎて魔力の可視化が出来るようになった。日頃、時間があれば魔力を練って遊んでいたのがいつしか形が見えるようになってしまったのだ。
マロンとノアの魔力を確認するが、二人は魔力を薄くすることは出来ていない。
「もうちょっと優しくしてみるんだ。魔力は繊細な物だからな」
すると二人とも上手いことまだ、完全では無いが魔力を薄く広げることが出来た。フィオナが暇を持て余していそうだったので解説を次の段階へ移す。
「まあ範囲は狭いけどだんだん広くなっていくからそこは練習だ。それで次は魔力を広げて行きたい場所の目標、つまり位置を測る。今回はあそこの柱にしようか」
三人の魔力が一斉に柱、目掛けて飛んでいったのを確認すると言葉を続ける。
「座標がわかったら身体を防御結界で包んで後ろから結界に向けて魔力で押す。その魔力は座標を測ってわかった距離分だけ多くするんだ。例えばこんな風に」
先ほど自分が指定した柱の前に瞬間移動をした。今度は朝と違い距離も中々に近かったお陰が勢い余ってこけそうになることはなかった。それを見た三人は口を開けたまま拍手をする。
「んぐっ……」
グレイの後ろからそんな痛々しい声が後ろから聞こえてきたため、後ろを振り返る。すると壁に激突して頭を押さえているフィオナがいた。
「大丈夫か?」
「防御結界のおかげでなんとか……」
グレイの手を借りながらフィオナはゆっくりと立ち上がった。幸い外見の怪我は見られないかったから良かったが、最悪の場合は事故での死もありえる。
実際、瞬間移動の練習を始めた時はグレイもフィオナと同様に壁にぶつかったりしていた。
「ぐへっ……!?」
昔の練習のことを思い出していると背中に激しい痛みが走った。激しい背中を刺すようなズキズキとする痛みにグレイは地面に倒れる。
「グレイ様、大丈夫ですか⁉︎」
ノアが地面に倒れるグレイに向かって言って来た。彼女自身も鼻を押さえながら言った声もほとんど泣きそうだ。
「ああ……全然大丈夫だ」
未だに背中から消えない痛みを我慢し、腰に手を当てながらも俺はそう言った。第一、こうなってしまうのは予測できていた。
瞬間移動というのは文字通り一瞬で移動をする。そのためグレイは誰かが瞬間移動で来たとしても避けることは出来ない。だから、グレイが今できる策は防御結界を常に体につけておくことだ。
「兄さん!これ成功じゃないですか⁉︎」
フィオナがすごく嬉しそうに笑顔を浮かべて手を大きく振りグレイを呼んだ。呼べてすぐにグレイはフィオナの方を見てみた。
確かにフィオナはグレイが指定した柱ギリギリの場所で立っていた。
「確かにな。あとは精度を高めるだけだ」
それからグレイたちは夜通し成功率が九〇%以上になるまで練習し続けた。




