第6話 初めまして!
「……レイ様、グレイ様!」
グレイは体を揺さぶられ、そんな声と共に目を覚ました。瞼を開けてみるとグレイの体の上にはマロンが馬乗りになるような形で座っている。
「やっと起きましたか。グレイ様全然起きないんですから!学校間に合いませんよ」
マロンにそう言われてグレイはぼんやりとしたまま時計を見た。
学校の本鈴が八時二十分。
現在の時刻が八時五分。
「まっずい!」
時計を見た瞬間にグレイの眠気は吹き飛んだ。すぐにベッドから飛び起きてグレイは急いでハンガーにかけてある制服に着替えた。
朝食を口の中に放り込んでカバンの中に今日いる用意を全て入れる。少なくともグレイの家から学校までは三十分はかかってしまう。
「グレイ様、そちらは二階ですよ!」
マロンが後ろから来て眉間にシワを寄せながらグレイに向かって言った。階段を途中で曲がったグレイを見たマロンは体全体を使って大きく声を張り上げた。
「大丈夫だよ、じゃあ練習は済んでいるし実践をするか」
実はこの屋敷には地下があり、大きな空間になっている。グレイはそこでとある魔法の実験をしていた。
入学式の前にグレイたちが乗った馬車は魔力で後ろから押していたが、人間でも出来ないかとグレイは考えたのだ。
「防御結果を張って、目標座標は……」
「グレイ様、何をしようと……?」
マロンがブツブツと独り言を喋っているグレイに向かって聞いてきた。後ろを振り向きグレイはマロンに微笑む。
「帰って来てから説明するよ」
グレイは薄い魔力を出してセツシート大学までの距離を測った。大学までの距離を確認したグレイは体を後ろから思い切り魔力で押し切る。
「おっとっと……」
瞬きをする暇もなく気づけばセツシート大学前に飛んでくる。勢い余ってグレイは前のめりになったがギリギリの所で体制を立て直す。
「この反動は何回もやって慣れていくしか無いな」
身だしなみを整えて俺はセツシート大学の校門を通った。校門に入ってすぐ左側にある塔がグレイたちの学年が通う場所だ。
大学は九年生でそれぞれ三年ごとに進級試験があるとのこと。小学年、中学年、高学年という三つの段階を経て卒業できるらしい。
グレイは入学生に紛れて小学部棟の入り口に向かった。入ってすぐの場所にはクラス分けの掲示板が貼ってある。
「フィオナと一緒のクラスか」
グレイはフィオナと一緒のクラスであるF組へと向かった。扉を開けて中に入ったがみんな緊張しているのか、ピリピリとした空気が伝わってくる。
そして何分か待った後。
「みんな、おはよう。そんな緊張しないでもいいからな」
陽気な男教師が教室の中に入って来た。おそらくグレイたちのクラス担任なんだろうというのが容易に想像できる。常にニコニコと笑顔を浮かべていて、すごくいい人のように見えた。
「色々とする事はあるけどまずは互いの親睦を深める事が大切だ。今から引くくじの人たちと自己紹介をしようか」
「ゲッ……」
グレイは誰にも聞こえないような声で内心に思っていることが出てきてしまった。自己紹介といえば生前、神谷として生きていた際に最も苦手としていた分野の一つだ。
このたったの何文かだけでクラスの中での自分の印象が作られてしまう。これほど苦しく辛いものはグレイは経験していない。
「そこの四人で一つの班でよろしく」
前に立っている担任はクラス全員の班分けを終わらせて、各班の人をすばやく席に座らせた。
「みんな、その班で自己紹介よろしく」
担任が手を叩くとともに、しばしば沈黙の時間が訪れた。だが、どこかの班の人が喋り出したのをきっかけにクラスは賑やかになっていく。
「じゃあ僕から言わせてもらうよ。僕の名前はアルバート・レンターン。剣技部門からの入学だから魔法はあんまりです。これから仲良くしてくれるとうれしいです」
グレイがアルバートに対してまず思った事と言えばイケメン。一番最初に行動するあたり溢れ出す優等生感だ。
身長はグレイより少し高く肥満気味でも痩せ気味でもない整っている体型。まさに世の中の人が思い描いているイケメンを描いたような男だ。
グレイも生前にこういう人になろうとしていた時期があったが、ある時に無理と感じてからは美には無関心になってしまった。
そんな苦い経験を思い出していると次の人が口を開いた。
「じゃあ次は私。私はジェイミー・ファブリックです。魔法部門から入って来ました。よろしくお願いします」
黒色の髪をしていて外見だけを見てみると大人しい子だ。もじもじしながら顔を赤らめているところを見る限り、緊張をしているのか恥ずかしがり屋なのか。
意外にも話してみると話が合うタイプかもしれないな。
「そんな緊張しなくていいって先生も言ってたでしょ。私はローズ・マリンです! ジェイミーとは幼少期からの友達で今は緊張してるだけだから仲良くしてあげてください。ちなみに私は剣技部門から入学しました」
そう元気よく挨拶をしたのは赤い髪でショートヘアをした人だった。クラスの人気者になりそうなくらいの陽属性だな。身長はグレイと同じくらいでこの歳の女子からしてみれば高い方だ。
さて、これで三人の自己紹介が終わり、残すはグレイとフィオナの二人だ。ここは学校生活を楽しく過ごすため好印象を植え付けなければ。
「えーっと、僕はグレイ・ジュリエットです。一応、魔法部門からの入学で特待生なんだけど普通の人と変わりなく接してくれたら嬉しいです」
上手くやろうと意気込んでいたグレイは緊張のあまり自己紹介を早々に終えてしまった。そんな兄の失敗を見たフィオナはすぐに喋り出した。
「私はフィオナ・ジュリエット。名前から分かるように兄さんの妹で私も魔法部門からの特待生です。仲良くしてください」
グレイたち二人の自己紹介を聞いてアルバートやローズ、ジェイミーは固まっていた。兄妹揃って自己紹介で何か失敗したのだろうか。転生して来てまた前世のようにはなりたくは無いぞ。
「そ……その、グレイくんとフィオナさん。私たちと友達になってくれないかな?」
「全然いいけどなんでそんな畏まってるんだ」
ローズは先ほどとは裏腹に礼儀正しく俺に向けて言って来たのだ。
「お母さんから特待生の人は自分の権力を振り回す人間のクズみたいな存在って言ってたから……」
彼女のお母さん世代の特待生ってどんなイメージだったのか。グレイたちのような特待生への風評被害が尋常じゃないな。
「なるほどね。でもローズ、私たちはそんな事するつもりはないし学校生活を楽しみたいの。だからこれからもよろしくね」
「あ、あの……わ、わ、私とも友達になってくれませんか……?」
ジェイミーはすごく小さな声でグレイたちに向かって言う。
「僕も友達にして欲しいな」
アルバートもジェイミーに次いでグレイに言ってきた。班の三人に向けて今度はフィオナが言い返す。
「私たちからもよろしく」
そうしてグレイたちは初日にして友達を三人も作ったことにかなり満足した。
その後はクラス担任の自己紹介をした後、入学式が執り行われた。ちなみに、グレイたちのクラス担任の名前はヴィオラ先生というようだ。
「起立、礼」
今日決められた級長が言うと全員でさようならと言う。
「じゃあグレイまた明日な」
「フィオナもまた明日ね」
「「バイバイ」」
三人はそう言うと手を振りながら、仲良く寮の方向へと帰って行った。学校が終わっても前世では誰かに呼ばれ、憂鬱なことが待っていたが今は違う。
一緒に帰る人がいて憂鬱な気持ちにもならない。改めてグレイはこの世界に来て良かったと思い、空を見て自分にチャンスをくれたミカエルに感謝をした。
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