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第33話 再会


「んん……」


 グレイは唸りながら重い瞼を開ける。体全体が柔らかい何かに包まれているような感覚を覚え体を起こしてみる。


「あっ! 理事長先生、グレイさんようやく目が覚めました!」


 近くにいた白い服に身を包んだ女性が声を大きくして言い放った。奥からコツコツ、と音を奏でながら理事長が近づいてくるのが分かる。


「グレイさん、おかえりなさい」


 理事長の言葉にどう答えれば良いのか分からずにもじもじしていると、彼は更に話し始めた。


「君の家の支配人であるマロンさんとノアさんが二日前にこの大学病院まで君たちを運んでくれたんだ」


「それで他のみんなは今どこに?」


「ローズさんとジェイミーさんはすぐに退院いたしました。メジロも昨日、無事に退院しましたね。グレイさんが一番傷が深かったようですし、退院するのも一番最後になるのは分かっていましたよ。おっと、そろそろ定期検診の時間ですね。ではまたお会いしましょう」


 理事長と短く言葉を交わすと先ほど来た方向へ戻っていった。何もすることが無くなってしまったグレイは再びベッドに寝転ぶ。


「グレイさん、こんにちは。私、グレイさんの担当医になりましたローラと申します」


 不意に声をかけられ一瞬、驚くもグレイは冷静に対応をした。体を少し起き上がらせて相手を見る。金色の髪をしていて身長もメジロと同じくらいだ。笑顔を絶やさずに真っ直ぐにこちらを向いている。


「あ、よろしく、お願いします」


 前世の時からまだ完全に抜けきれていない人と話す時の癖がまだ残っていたために、独りよがりな返事になってしまった。

 はい、と言ったローラはゆっくりとこちらに近づいてきてベッドの横に座った。そして左腕にぐるぐると巻かれていた包帯を丁寧にほどいていく。


「大分良くなってますね」


 ローラの言った左腕に目を移すと、腕の裏側が真っ青に変色していた。これは確かに重症だな、と心の中で思いつつ定期検診を無事終了した。


グレイが目を覚まして二日後。ようやく退院をすることが許可された。


「グレイさん、短い間でしたけどありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。ローラさんに入院中どれだけ助けられたか……」


 すっかり話せるようになったローラさんと最後の定期検診を終えそんなことを話していた。


「では、私次の仕事があるので」


 頑張ってください、と言おうとした時には既にローラさんはいなかった。


「看護師って忙しいんだな」


 大学病院内での服から普段自分の着ている服に着替え流れのままに退院した。病院の出入り口を出た先でグレイは大きく息を吸ってみる。


「空気がおいしいってこういうことなのか」


 新鮮な気分で家まで帰る。久方ぶりの我が家を見て自然と笑みが溢れた。家の玄関にある大きな扉を押し開けて中へと入る。


「あら、グレイ。お帰りなさい」


「え?」


 目の前にいた人物を見て度肝を抜かれつい変な声を出してしまった。


「メジロがどうしてここに?」


「私がマロンさんとノアさんに住ませてくれないかってお願いしたのよ」


「そうなのか」


 あまりにも自然に話されたのでそう返すしかなかった。グレイが部屋に戻ろうとするとメジロがいつもと違う口調で引き止める。


「後で部屋に行くから待ってて」


「分かりました」


 短く返事をしたグレイは自室へと戻った。


 コンコン、とグレイのある部屋の扉から甲高い音を聞くとすぐに向かっていった。ドアノブを回転させてやや半開きの状態から外を伺った。


「メジロ、どうぞ」


 ドアを大きく開け左手を部屋の奥へと伸ばした。メジロが入ったのを確認するとグレイはゆっくりとドアを閉める。近くのテーブルに腰掛けているメジロの前にグレイも腰を落とした。


「何の話ですか?」


「グレイ、今から言うことは本当に辛い話なのよ。あなたに話す私も辛いぐらいなの。それでも最後まで聞くことができる?」


 一瞬、部屋全体が凍りついたかのような沈黙が訪れた。それも束の間、すぐに部屋にはグレイの言葉が響く。


「大丈夫です」


 メジロはほんの僅かの間グレイの顔色を確かめ話を始めた。


「グレイが寝ている間にね、実は役所の人が来たのよ。それでこんなものを渡してきたの」


 メジロの愛ポケットから手に収まるほどの大きさの長方形の紙が出てきた。それをテーブルに置き、グレイが目を凝らして見てみる。


「これは?」


「自分で手に取って見て」


 グレイの質問に対してメジロは下を俯きながらそう答えた。テーブル上にあるカードを片手で取って目の前に持ってくる。カードを見たグレイは固まってしまい長い沈黙が訪れた。

 そこには、没フィオナ・ジュリエットという文字が書かれていた。


「それは没者カード。この世界には魂の像っていうのがあって、その像が魂を捉えられなくなった時には人は皆死ぬの。今グレイの持っているカードは魂の像の役員から送られてきたもので、的中率は百パーセント。だからそれは紛れもない事実なの」


 メジロの言葉が痛いほどに胸に刺さり、グレイと目からは自然に涙がこぼれ落ちる。


「……れが………ったから……」


「え?」


 掠れた声で呟くグレイの言葉を聞き取れなかったメジロが聞き直す。


「俺が弱かったからフィオナは死んだ……

うあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 グレイは叫びながら地面に泣き崩れた。


「あああぁぁぁぁぁ!!!」


 自分自身へと怒りが込み上がってくる。感情を抑えることができなくなったグレイは、ついに自分の頭を地面に打ち付けだした。そんなグレイを見てすぐにメジロがグレイの近くに行き慰めようとする。


「大、丈夫!グレイは悪、くない!」


 後ろから肩を持ってグレイを抑えるような形でメジロは止めに入った。が、グレイもすでに成人男性ほどの大きさにまで体が発達している。それ故に、メジロの力ではグレイを止めることが出来なかった。


「俺が、俺がもっと、強かったら!!!」


 頭から血を流してもグレイは自分の頭を地面に打ちつけるのを止まなかった。


「やめてってば!!」


 メジロはそう叫ぶと肩と腹の辺りに手を入れてグレイの背中を地面に着けさせた。


「魔力を使えばこっちの方が力は上なのよ」


そう言ったメジロは地面に大の字になる形で倒れているグレイの上に馬乗りになる形で乗った。両手でグレイの手首を持ちメジロは完全にグレイの自由を奪う。


「ようやく冷静になった?」


「はい……」


グレイは無理やり口角を上げて笑みを作った。立ちあがろうとするグレイだったが、メジロが捕まえていることに気づき口を開こうとした時。


「ねぇ、なんでなの……?」


「え……」


 思わずそんな声が自分の口から漏れる。メジロの目から涙がポロポロと絶えず流れ続けていたからだ。


「どうしていつもいつも! 頼ってくれないの? 海斗……」


 海斗、それはグレイの前世の本名である神谷海斗。前々からずっと気になっていた事が確信へと変わった。


「目、白さん……?」


 コクリとメジロは静かに頷く。グレイは一層冷静になって目白へと質問をする。


「どうしてここに?」


「あの時、雨の中あなたが赤信号で横断歩道を渡っているのを見たの。だから、私も助けに行こうとしたけど結局死んじゃったの」


 なるほど、そうだったのか。トラックに当たった時に聞こえたあの言葉は幻聴じゃなかったのか。


「その後は天使のミカエルっていう人にグレイの転生希望を私に変更してもらったの」


 自分の希望と違うな、と思って水に流していたけどそういうことだったのか。


「いつから気づいてたんですか?」


「大学であなたを見た時からそんな気がしていたわよ。その後、古代の先人に会った時にその疑いが確信に変わったわ」


「そうだったんですか……クレアに何かを言われていた時ですよね?」


 明らかにあの時を境に目白からの態度が一変したということを覚えている。メジロが目白という推測は間違っていなかったのだろう。すると目白は何かを思い出したのかグレイにさらに近づき。


「っ……」


 唇に柔らかい感覚が伝わってきた。


「うわッ……目白、何を!?」


 付き合っている時でもやったことがないキスをされグレイがあたふたしているのを見てメジロが事情を話し始めた。


「グレイはこれからも私と一緒に居てくれる?」


 心細い声を出した目白に対してグレイはすぐに頷く。


「あの時はごめん……これからはもうどこにも行かないから。だから、あの時に俺が犯した罪を許してくれないか?」


「そんなの……そんなの、許すに決まってるじゃない! だって……、だって私は海斗の彼女なんだから!」


 目白は地面に押さえつけていたグレイの腕を放して自由にする。グレイは目白を膝の上に乗せながらゆっくりと腕を回し抱きしめた。


「もう絶対に放さないし傷つけないよ」


 すると目白もグレイの背中に腕を回して抱きしめて言った。


「私も大好き。けど、今回もだけど一人で思い悩まないで。自分の思い通りにならないことだってたくさんある。そんな時こそ私を頼って。海斗くんを支えるのが私の役割なんだから」


「うん、そうだよな。本当にありがとう」


 そんな他の人に見られたら気恥ずかしいやり取りを部屋の扉から盗み見ている者がいた。


「はわわわわ………」


 それはグレイ専属の生活補助をするメイドのマロンだ。手を口に当て目の前で起こる光景に頭が追いつかず思考回路がショートしている。


「ん?」


 目白を抱きしめていたグレイは後ろにある扉から視線を感じた。膝の上に乗っている目白から降りてもらい扉の方へ向かう。


「マロン? どうしたんだ?」


 扉を開けると同時にマロンは驚いてぺたんと足とお尻を地面につけて、グレイの方を見る。いわゆる女の子座りをしていたマロンは目をくるくる回して。


「わ、私は……な、な、何も見てません!!!」


 と叫び瞬間移動でどこかに飛んで行ってしまった。

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