第34話 逃げないで!
避けられる。
逃げられる。
それが最近のグレイの家での悩みだ。最近なぜだか分からないが家でマロンに出会うと小走りで逃げられてしまう。
「目白、どうしてなんだと思う?」
学校からの帰り道、グレイはついに目白に相談をした。すると目白は何秒か沈黙をして考える素振りを見せた後にこう言う。
「直接、話を聞いて見たら?」
「でも逃げられちゃうんですよ……」
途方に暮れため息をついたグレイはため息をつく。
「マロンが逃げる前にあなたが捕まえたら良いじゃない。私がやったみたいに」
目白はそんなことを軽く言ってきた。一週間前、目白に馬乗りにされ手首を床に固定されていたことを思い出す。
「いや、それただの強姦じゃありませんか?」
女性が男性の上になるのは百歩譲って分からないこともない。それでも十分おかしいのだが。ただ、男性が女性の手首を拘束して床に寝転がせたり自由を奪う。それは見方によっては犯罪になってしまう。
「確かにそれもそうね」
あのことを指摘された目白は顔を上げて言う。その様子を見てグレイは苦笑いをしながら目白に対して呟く。
「目白ってこういうとこは抜けてるよな」
「あっ、ほらもう家よ。言うなら今日にしたらどうなの?」
街の奥を指差している目白に指摘されて初めて家の近くということに気付かされる。最近は通学は全て瞬間移動を使っていたから普段の道のりを完全に失念していた。
「じゃあ、やってみるか……」
物は試しというほどだ。何かあればその時々に考えれば良い。家の扉を目白が開くと玄関先には既にマロンとノアの二人が待っていた。
「「お帰りなさいませグレイ様、メジロ様」」
「あの、マロン後で……」
と、グレイが声をかけた瞬間にマロンは仕事があると告げて慌てて逃げていってしまった。その様子を見てノアがグレイたちに向かって、お辞儀をしながら言う。
「マロン、なぜか分からないんですがずっとあの調子で……申し訳ございません」
「全然良いよ。今日俺が理由を聞き出してくるから」
そうですか、と返したノアが何だか申し訳なさそうな顔をして食堂の方へと歩いていった。
「じゃあ、マロンを探すか」
魔力探知を使いグレイはマロンの位置を調べる。すぐに居場所を調べ上げ、瞬間移動を使ってマロンの前に飛ぶ。
「うわっ! グ、グ、グレイ様!?」
いきなり目の前に現れたことに驚いたマロンは大きな声を出して叫んだ。今度こそマロンに逃げられないように手を掴んで捕まえる。
「最近、どうして俺から逃げてるんだ?」
顔を赤くして手を口元へ移動させ、隠す素振りをする。マロンも、もう逃げれないと分かったのかついに口を開く。
「その、見てしまったんです……」
「何を見たんだ?」
「あ、あの……グレイ様と、メジロ様がその………だ、抱き合っているのを……」
あの時か。記憶を辿って思い出したグレイは一度、深呼吸をする。何をどこから話せばいいのか。全く持って見当が付かない。
「じゃあ、今晩そのことについて話そうか。
ノアも混ぜて四人で」
「わ、分かりました」
この件については一度、目白と話し合うほうが良さそうだ。そう考えたグレイはすぐに目白がいる部屋へと飛ぶ。
「あ、海斗くん。マロンさんは見つかった?」
「やっぱり何回言われても慣れませんね」
学校や外では目白にはグレイと呼ぶようにお願いした。が、それ以前からずっとグレイと呼ばれていたことがあって中々慣れることが出来ない。
「こればっかりは慣れるしかないわね」
「そうですよね。あの、さっきマロンを捕まえたので理由を聞いたんです。そしたら、俺と結衣が抱き合っているところを見て……」
「それで逃げてたのね」
はい、とグレイは頷いた。相変わらず目白はいつでも冷静に考えられてすごいと思っていると。
「全部話しましょうか」
「え?」
「だから、全部話すのよ。洗いざらい全てを」
グレイは口を開けたまま固まってしまった。理由は単純明快だ。想定外の答えが返ってきたからである。目白なら何かうまいこと丸め込む方法を思いつくかと思ったがそんなことはなかったからだ。
「グレイ様とメジロ様。夕食の準備が整いました」
「さ、行くわよ」
頭が追いつかず訳の分からないままグレイは食堂へと移動した。
「じゃあグレイ。私が切り出したら良い?」
「よろしくお願いします」
食事も終わり時になった頃、目白はグレイにそう聞いてきた。
「マロンは知ってると思うけど、私たちの関係について話すわね」
「関係……?大学の特待生では?」
問いかけるような形でノアは食事の手を休めて言う。
「それはそうなんだけど、もっと前から関係があるんだ」
ノアの回答に返答するような形でグレイが言うと、マロンとノアの二人は首を少し傾けた。何のことかよく分かっていなかった様子だったのでグレイは続ける。
「詰まるところ、俺と目白はミカエルに呼び出されたんだよ」
「えっ! じゃあ、お二人は大天使様に選ばれた天使様なんですか!」
グレイの言葉が終わるよりも先にマロンは椅子から勢いよく立ち上がり叫ぶ。横に座っているノアが興奮しているマロンの肩を持ち椅子に再び座らせる。対するグレイはというと。
「目白、大天使って何ですか?」
ノアとマロンにバレないように目白へこっそりと手を立てて聞いていた。グレイの様子を察した目白は小声でこっそりと教えてくれた。
「ミカエルみたいな天使のことよ。神と人間を繋ぐ架け橋のような感覚で捉えて良いわよ。それでこの世界では大天使から天界に呼ばれた人は天使になる資格を得られるっていうのが一般論なの」
「そんなのどこで学んだんです?」
「前世の学校で教えられたわよ」
そうだったかな、と自分の記憶を遡ってみたものの自分が忘れてしまっていた事を思い出せるわけもなかった。前世の学校はそういったことを教える場所だったが、グレイは全くもって興味が無かったために授業のほとんどを眠っていたのだ。
「先程はすみませんでした。改めてお聞きしたいのですが、お二人はどういった関係で?」
マロンが平常心を取り戻し二人の方を見て頭を傾ける。
「前世から付き合っていたんだ。まさかここで再開するとは夢にも見てなかったんだけどな」
「そうだったんですか……」
今度は冷静になって聞いてくれて説明をしているグレイもホッと一安心した。まさかこんな風に自分が異世界人であるという事を伝えるとは思わなかったな。第一、この世界で異世界人だと伝える機会すらないと自分の中では思っていたくらいだ。
「私は幸せ者ですね……」
「本当にグレイ様の元で働けてよかったです」
半分泣いている声でか細い腕を胸に当てて、二人はグレイに向かって感謝の意を伝えた。




