第28話 ようこそ
——一九時四〇分、テント前にて
「メジロは大丈夫でしょうか」
「さぁ、どうだろう。多分大丈夫だとは思うけど、やっぱり心配が勝つな」
氷竜こと、マヨルダを倒したグレイとフィオナはメジロさんが運ばれていったテントへと足早に向かっている。何もない空間に手をかざすと、どこからともなく目の前にテントが現れた。
「「おかえりなさいませ、グレイ様とフィオナ様」」
テントに入った瞬間、マロンとノアにそう言われた。すぐにグレイたちが何か言う前に二人は部屋の奥へと案内される。
グレイたちに遅れてローズとジェイミーの二人も奥の部屋へとやってきた。そこには黒のロングヘアの女性、すなわちメジロさんがベッドに横になっていた。
「つい先ほど眠りにつきました」
横になって寝ているメジロさんの首元をグレイは足を曲げ黒髪を分けて覗き込む。
「これは跡が残るかもな」
あの時、グレイは無理やりメジロさんの頸につけられたマヨルダの分体を引きちぎった。今になって改めて見てみると、メジロさんの頸はかなり黒くへこんでいる。
よほど深くまであの分体が根付いていたことを暗示しているようでグレイは気付けば勝手にメジロさんの頸を躊躇なく触っていた。
「グ…レイ……?」
「すまない、起こすつもりはなかったんだ」
そこでようやく自分がメジロさんの頸に手をかけていることに気付く。メジロさんの頸からすぐにパッと手を退かしてみせる。
「首、どうなってる?」
寝返りを打ちグレイたちの方を向いたメジロさんはそう聞いてきた。先ほどメジロさんの首元をずっと触っていたグレイに全員の目線が向けられる。
「結構黒くなってて、奥の方まで跡がついてる。その、ごめん。俺が無理やり引き剥がしたせいでメジロさんはこんな跡が残って……」
今回の件については本気で反省して、メジロさんに謝った。
「いえ、グレイは悪くないの。私があの女に凍結させられたからで油断していた私が完全に悪い」
「凍結?」
不意にそんな言葉が反射的に出て来てしまった。凍結魔法なんて誰も成功させたことがない。使えるとすれば天の国の住人、つまりグレイをこの世界に飛ばした女神や天使のことだ。
その人たちしか使えないとされていたのに、なぜこの海底都市にいる人が使えるのか。そんな疑問も相まってメジロさんに聞いてしまった。
「そうよ、黒いローブの女に追い詰められて最後は凍結された。その後に目を覚ました時にはあのマヨルダが目の前にいたの。マヨルダは私の後ろに回ったら首元を触って……信じられないほどの痛みと自分の意思に反した体の動きをさせられたの。そんな時に私のいた城がなぜか爆発して這い出てグレイと会ったの」
あ、城破壊したの俺です。もしかしたらメジロさん殺してたかもしれません。
当然そんなことが言えるはずもなく。
「ごめんなさい。意識はあって戦いたくはなかった。けどどうやっても戦わない選択肢なんてなかったの」
「全然いいよ。結局こうやってメジロさんも俺たちも助かったんだし」
グレイがメジロさんたちと仲良く話していると。
「んなっ」
何の前触れもなく地面が大きく揺れ出した。あまりに衝撃的な出来事だったために、メジロさんの声が裏返った。揺れが収まるとグレイはすぐに全員に指示を出す。
「俺とフィオナで外を見てくるから、みんなはメジロさんを守っておいてくれ」
返事を待つ暇もなくグレイとフィオナはテントの入り口の方へと走っていった。テントの入り口から外に出るとその先には。
「メランダ……」
黒いドレスを着た女、つまりメランダが立っていた。地面に手をついていることを見て先ほどの揺れはメランダのせいだったのだと推測できる。
「ようやく出て来たか。ここじゃ戦いにくいだろう。移動をしようじゃないか」
移動という言葉に疑問を思ったら、再びグレイの足元が激しく揺れ始めた。
「んなっにをっ!」
激しい揺れのせいで自分の思っているように口を動かすことが出来ない。グレイの口から発せられる言葉の羅列が崩れ始めた頃に地面からバキバキという嫌な音がした。
「「うおわっ!」」
グレイとフィオナは自分の足場が急に動いたため、体勢を崩してしまった。二人の踏む地面はものすごいスピードで上空を進んだ。
「お嬢さんはここで一旦、お別れだ」
「やめっ……」
メランダは地面にどうにかへばりついているフィオナを見た。グレイはそれを見てすぐ助けなければと思い動こうとするも、自分が飛ばされないようにするのが精一杯だった。ものすごい突風の中でメランダは平然と地面を歩き。
「きゃっ!」
フィオナが地面を掴む手を足で蹴って、引き剥がした。当然フィオナの体を支えるものは何も無くなったため、今乗っている地面から下へと落ちていった。
「メランダ、お前!」
「まあ、待て。もうすぐ到着なんだぞ。それともお前もあの女の二の舞になりたいのか?」
その言葉を聞いたグレイはメランダの指示通りに大人しくする以外に方法はなかった。やがて、上空を飛ぶ地面はゆっくりと降下し始めどこかも分からない場所に降り立った。
「ようこそ、我が戦場へ」
手を大きく大の字に広げてメランダがそう叫ぶ。




