第27話 なんでここに
——一九時一五分、テント付近にて
「ッハハハ! 口程にもならないわねっ!」
マヨルダは長く伸びた爪のようなものを武器にフィオナを追い詰めていた。対するフィオナも魔法を撃って反撃をしようとするもマヨルダの攻撃を避けるのが精一杯な状況だ。
「くっ……」
歯を食いしばりどうにか戦線を立て直そうとするもなかなかそれが出来ない。フィオナはどんどんと追い詰められていく感覚を持ちながらひたすらに避け続けた。私一人ではこいつには勝てない。
早く、来て兄さん。そう一心に思いフィオナはひたすらに兄であるグレイが来るのまで時間を稼ぎ続けた。
——一九時一五分、マヨルダ城跡付近にて
「メジロ……」
グレイはマロンとノアを呼び出し、メジロを任せフィオナの元に急いで向かっている最中だ。メジロの頸についていた生き物のような物体。あれは一体何だったんだろうか。
「今は考えても仕方ないよな」
そう前向きに捉えたグレイは更に足を早く進めてフィオナの元へと急ぐ。
「あそこか……」
森の奥の方でマヨルダと戦うフィオナの姿を確認できた。おそらく今はマヨルダはまだこちら側の存在に気づいていない。やり方は好きじゃないが、不意打ちをするしかない。唯一の勝ち筋がそれなのだから。
「獄炎球を作って……」
もっともっと魔力の核を大きくする。周りを覆う炎は形だけでいい。大事なのはその内側にある魔力そのものだ。
「マヨルダを確認して、ここだっ!」
今までで一番威力の高かった獄炎球だっただろう。着弾したその瞬間から炎と共に辺りを凌駕するような魔力が広がったからだ。
「フィオナ! 大丈夫か?」
グレイはそう叫びながら森の木々をかき分けてフィオナの方へと走る。
「もう、兄さんは! あと一歩反応が遅れてたら私もああなっていましたよ!」
「うわ……」
フィオナがむっとした表情で指差したのは真っ黒に焼けこげ、白目をむいて倒れていたマヨルダだった。辺りの地面はマヨルダを中心に広い範囲でへこみ、かなりの被害をもたらしていた。そんな真っ暗なマヨルダは地面に倒れたままで虚ろな声で呟く。
「どうしてお前が……お前はあの女がいたはず」
「メジロならもう救出したぞ」
地面に倒れたままでいるマヨルダの目の前に、メジロの頸についていた生き物のようなものを投げ捨てる。するとマヨルダは奇怪な行動を取った。
「私の支配から逃れるとはな……」
不気味な笑みを浮かべたマヨルダは地面にグレイが落とした生き物のようなものを口の中へと詰め込んだ。地面に倒れる人間を逆再生するような感覚でマヨルダはたちまち起き上がった。
先ほどまで死にかけの魚のような顔立ちをしていたのに今では生き生きと水中を泳ぐ元気な魚の顔をしている。
「あぁ、あと麗しきメランダ様……こんな私にまたもう一度あの姿に戻れるとは」
「おい、何をしている!」
むくむくと膨れ上がるマヨルダの体の背中からは青い氷のようなものが出てきた。それと同時にマヨルダの体は白く雪のような色に変わる。
「もう誰も私を止めることはできない!!」
両腕から生える翼を羽ばたかせマヨルダは空を舞う。
「あれは……氷竜よ」
後ろから声が聞こえたので振り向いてみると。そこにはマロンとノアの方を借りてどうにか立っているメジロがいた。目を片目だけ開いているあたり、かなり無理をしているのだろう。
「「氷竜!?」」
グレイとフィオナは一緒にそう叫ぶ。
元々、竜というのは『下位竜』、『上位竜』、『神竜』の三種類に分けられる。下位竜というのは家でペットとして飼ったり、家の護身用に役立つ竜だ。上位竜というのは俗にいう魔物に属しており、危険度は下位竜とは比べ物にならないくらいだ。
そして最後の神竜。これは伝説上の生き物で現在ではその全てが滅んでいる。
春夏秋冬にちなんだ竜、木火土金水と似た性質を持つ竜、加えてそれの派生系である竜。合わせて十四種類の竜が存在していたと言われている。今グレイたちの目の前にいる氷竜。それも十四種類の『神竜』の一匹なのだ。
「兄さん、危ない!」
そんなことを考えていると、氷竜は氷柱のように鋭い物を音もなく飛ばしてきた。地面は着弾するとパシャンと気持ちのいい音がして、その着弾地点の近くが凍る。
「厄介な、メジロたちはテントの方へ急いでください」
こくりと頷いたマロンとノアは肩を貸しているメジロと一緒にゆっくりとテントの方へと向かっていく。グレイとフィオナは氷竜の放つ氷柱をひたすらに避けて、時々メジロに飛んでいきそうなものを火球で撃ち消していた。
「フィオナ、氷竜でも鱗の下が弱点なのは同じだよな」
「多分ですけど。でも相手は神竜なので鱗の下に攻撃するのは至難の業だと思います」
どんな竜だとしても硬い鱗の下にある柔らかい皮膚は弱点。でも、問題はどうやって氷竜の鱗を剥がして皮膚を露出させるかだ。
魔法で鱗を破壊をしたとしても神竜特有の再生能力ですぐに元に戻る。仮に鱗を破壊して皮膚を露出させても、そんなに簡単に皮膚を攻撃させるはずがない。
「物は試しだな。獄炎球!」
氷竜の鱗に向かってグレイは魔法を撃ち込む。だが、着弾するギリギリの所で氷で出来た防御壁を作りグレイの魔法を受け止めた。シャワッと煙を出しながら氷は溶けていくも、あと一歩のところでグレイの魔法は効力を失ってしまった。
「兄さん、氷竜多分まだ力を全て取り戻していません!」
「それはどういうことだ?」
大きな声でグレイに語りかけたフィオナは話を続ける。
「獄炎球をを撃った時、氷竜は氷の防御壁を作り出して自分を守った。けど、防御壁を作っている時に氷竜が出していた氷柱が止みました」
「なるほど、確かに倒すなら今しかないよな。じゃあフィオナと順番に攻撃していくぞ」
「「獄炎球ヘルファイアーボール!」」
フィオナが撃った後グレイも、もう一度同じ魔法を撃つ。どんどんと氷竜の作り出した防御壁は破壊されて追い詰められていく。そして、ついにその時がやって来た。氷竜の分厚い防御壁がついにバキッと音を立てて真っ二つに割れる。
「今だ! フィオナ今までの中で最高火力で撃つんだ」
「言われなくても! 獄炎球っっ!!!!」
凄まじい熱風と共に氷竜の痛々しい叫び声が海底都市内に轟く。氷竜の体を覆っていた硬い青い鱗はフィオナによって破壊された。間髪入れずにグレイは。
「さよならだ。水素爆発球」
フィオナと共に魔法障壁を展開して自分たちを爆風から守る。グレイの撃った魔法は見事に氷竜の露出した皮膚に着弾し、辺りの木々が爆風でなびく。
地面がまるでブラックホールのように水素爆発球に吸い込まれていく。氷竜の叫び声よりも辺りの爆音が勝ち、それが収まった時には氷竜は地面に倒れていた。
「もう生きてないよな」
半円状にぽっかりと穴の空いた地面を降りて砂埃を纏わせて倒れる氷竜の元へと近づく。手で顔の部分をちょんと触ってみるも、氷竜のまぶたは開かれることはなかった。
——一九時二七分、マヨルダ城付近洞窟にて
コツコツと足音を立てながら女はある場所を目指して進んでいた。
「マヨルダまでやられたか……神竜おも倒すとは」
そう言うのはこの海底都市ホッ・カイドウの長たる人物、メランダだ。
「でも、お前たちの楽しい時間はこれで終わりだ」
自分の手を触れたのはマヨルダ城下にある大きな魔封石だった。手を触れた瞬間、効力を取り戻した魔封石石は青白く光り輝きだす。
それは、再び海底都市内で魔法の使用が禁止されたことを暗示する。しかしグレイたちはまだそのことには気付かない。
然るべきときになるまでは。




