第19話 おはよう
「昨日、ノアとマロンの二人で話し合った結果、今日で本來の目的に到著するこのになりました」
朝になり昨晩泊まった宿の前で今日の予定をローズとジェイミーにざっくりと伝えるここからホッ・カイドウまでは昨日と同じくらいの距離だ。だから、疲労は昨日と同じかそれより少なくはなるだろう。
「それじゃあ、最初はここ」
フィオナは片手に収まるような小さい世界地図に最初のポイントを地図上で指差す。今日は昨日より少しだけ距離を伸ばし一二五キロメートルに変更した。理由はだいぶ二人が瞬間移動の使用に慣れてきていたからだ。
「じゃあ行くわよ」
呼び声の合図とともにフィオナは次の目的地へと飛んだ。
「よっ、と」
「ふぅー」
まるで二人はジャンプした後のように軽々としたステップで反動を受け流している。全員が集まったことを確認し、再び目的地を目指して飛ぶ。この繰り返しを五回ほど続けた時のこと。
「あれっ?海岸がある」
「ってことは……」
「ここが目的地ホッ・カイドウよ」
ホッ・カイドウの近くは思っているよりも天気は良く、海もそこまで荒れてはいなかった。
「あそこにある洞窟にとりあえず入りましょう」
ノアは左手に見えている洞穴のような洞窟を指差した。その洞窟は水の滴る音がかなり遠くから聞こえてくるようで深くなっている、と気付かされた。
「ちょっと待ってて」
私は十秒も経たないうちに洞窟に入ってすぐにある石壁をくり抜いた。部屋を六つほど作り、ここで暮らすのに最低限必要な間取りを作る。
「今日はとりあえずここに泊まろう」
四人は了解、と言う意味を込めて首を縦に振った。
「ローズとジェイミーは、部屋に荷物を置いたらこっちに來て」
「うん」
「はい」
二人はすぐに荷物を置いて、海岸沿いに立っているフィオナの方へとやってきた。
「フィオナ、それで何?」
「二人には魔法を覚えてもらおうと思うの」
ローズの質問にそう答えた私は、話を続ける。
「魔法っていうのはいわゆる攻撃用のもののこと。例えば、この獄炎球」
フィオナは手元に魔力を流しながら海の方へと魔法を撃ち込んだ。海の方へ撃ったせいで大きな水柱が立ち、その高さは二〇メートルにも及んでいる。二人の方を見てみると、二人は口をぽかんと開けて思考停止していた。
「これは兄が作ったいわゆる、炎球の改良版である獄炎球。この獄シリーズっていうのはいっぱいあってそのうちの三つくらいを覚えて欲しいの」
「それは何で?」
「これから向かう先は私たちも知らない何か大きなものが待ち受けてるかもしれないの。
だから自分で自分のことを守れるようになっておいて欲しいの」
この決断も昨日、ノアとマロンで悩んだ。獄シリーズはとても集中力を使う技だから瞬間移動を使った後に練習をしてまうと失敗しやすい、という意見があったからだ。
「教えて大丈夫?」
「「うん」」
その返事を聞いたフィオナはすぐさま魔法の解説へと移った。
「まず、獄シリーズって普通の魔法とは変わりはないの。違う点を挙げるとすれば、獄シリーズは通常よりも魔力を少なく、強い魔法を撃てるっていうところ」
「すごい魔法ですね」
「これがあれば、私も実技試験で一位も夢じゃないかも」
ローズはそんな妄想を頭で働かせている。フィオナも兄から教わった時は、これを使っていけば炎球なんて使わなくてもいいと感じた。その後に兄の口から出た言葉には絶望したものだ。
「連続で使い続けるのはおそらく無理よ。集中力も瞬間移動と同じく、體への疲労も蓄積されるから」
「ふーん……」
ローズはまだ自分の中でその疲労がどれほどのものなのかを理解できていないようだった。
「言葉で言うより実際にやってみた方が良さそうね。じゃあまず炎球を作ってみて」
二人はフィオナの言う通りに炎球を作り出し、手の上に止めた。
「その炎球の中心にある魔力の核、それを探せる?」
この作業が最も重要であり、難しい作業だ。そもそも魔力の核なんてものを知らないため最初は苦労するだろう。
「これのこと……かな?」
「私も多分……」
「それじゃあ、見つけた核にさらに魔力を注いでみて」
魔力を少なくするのが獄シリーズの特徴なのだが、核に魔力を注ぐ。確かにこれは魔力を少なくするという獄シリーズの完璧な矛盾になる。
しかし、魔力の核を大きく形成する方が魔力の減りは抑えられる。兄が昔、魔力切れになるまで頑張って掴み取った事実なのだ。
「魔力をある程度注いだならそれを撃つ」
二人して同じ場所に撃ったた水柱は、想定していたよりも高く立った。
「はぁっ……一回撃っただけなのにもうこんなクタクタになっちゃった」
「私も……」
ローズとジェイミーはその場にしゃがみ込んで目を閉じて疲れた表情でそう言った。そんな二人に対してフィオナは声をかける。
「これが獄シリーズ。今回は、瞬間移動を何回も使ったあとだったからそんなに疲れてるんだと思う。大体の概要は掴めた?」
「「うん」」
瞬間移動とは違い獄シリーズは一度使ってしまえば大きな失敗などは起こらない。瞬間移動の場合、練習をしっかりしないと飛ぶ位置を間違えば最悪、怪我では済まない。
それに対して獄シリーズは元が、炎球などの簡単な魔法のため、暴発したとしてもたかが知れている。
「ちなちに、獄シリーズは獄炎球以外にも獄水球とか獄雷球みたいに色々あるし、二人も魔法の中にある魔力の核を見つけれたら新しい獄シリーズを作れると思うよ」
実際に獄風域などはフィオナが作り出した魔法である。だが、風域はあろうことか魔法の中にある魔力の核が常に動き続けてしまう。
そのため獄風域は作るのが大変難しい。魔法の種類によっては獄シリーズにする必要性がなものだってある。
「じゃあ一旦、あの洞窟に戻りましょうか」
ローズとジェイミーは少しよろけながらもどうにかして立ち上がった。ローズは立ち上がった後に小さく息を吐いている。
恐らくかなりの疲労が体に溜まっているのだろう。ふとジェイミーの方を見てみるがこちらも顔周りの筋肉がいつもよりも緩んでいて、こちらも疲労が見て取れる。
「わあっ! すごい!」
「本当だ!」
だが、そんな二人の表情は洞窟内に入った瞬間、一瞬にして変わった。フィオナが外で二人に魔法を教えている間に、ノアとマロンには夕食を作ってもらっていた。
その作ってもらっている夕食の匂いが洞窟内に作った部屋に入った時、部屋中に広がっている。
「もうすぐ出来ますので少々お待ちください」
キッチンで鍋の中をかき混ぜていたノアが私たちを見てそう言った。




