第18話 行こう!
「じゃあ始めに飛ぶ場所はここ」
石の上に広げた地図上で位置をローズとジェイミーに見せる。瞬間移動の移動で最も怖いことは誰か一人が孤立して別の場所に行ってしまうことだ。
「うん」
「オッケー」
二人とも位置を確認できたのか首を縦に振りながら言った。昨日、ノアとマロンで話し合った結果、初めはとりあえず五〇キロメートル先にある街の手前に飛ぼうという事になった。
いきなり今出せる最大距離である一五〇キロメートルは精度も低い上に反動で骨を折りかねない。そうすると兄さんを探すために向かう禁忌魔法陣の先で何が起こるか分からない今、大変危険だ。
「じゃあ行くよ。一、ニ、三!」
三つ数えてフィオナたちは目的地へと飛ぶ。五〇キロメートル先へ飛ぶのは久しぶりだったので反動のことで心配をしていたが無事に着地をすることができた。
「おっとっと」
フィオナとほぼ同じタイミングでローズが飛んできた。ローズも少し反動で前に足を出しているがうまく反動を流したようだ。
「危なかった……」
ジェイミーは体勢を少し崩したものの右足で踏ん張り耐えて見せた。ノアとマロンも無事に着き、最初の瞬間移動は成功した。
「休みたい?」
フィオナはどちらでもいいのだが五〇キロメートルも離れた場所に初めて飛んだローズとジェイミーの体にかかる負担は相当なものだろう。フィオナがローズとジェイミーに聞くが、二人とも同じタイミングで答える。
「別に良いわよ」
「大丈夫です」
「分かったけどもし、もう無理ってなったらすぐに言って」
コクリと二人は頷く。それを見たフィオナは魔力空間から地図を取り出して二人に見えるように地面に広げた。
「次のポイントなんだけど、どっちがいい?」
西側から行くルートは三〇〇キロメートル、東側のルートは五〇〇キロメートルとかなり離れている。ローズはフィオナが聞くとすぐに行きたいポイントを指差して答えを出した。
「私、こっちがいい」
「私も、ローズに賛成です」
二人が答えたのは東側から行くルートだった。そこに疑問を抱いたフィオナは前に立つ二人に聞いてみる。
「ちなみに理由は?」
「世界首都の一つであるイーストメディスンがあるからです」
ジェイミーが言うとローズはそれに賛同した。『イーストメディスン』とはジェイミーの言うとおりこの世界に九つある世界都市の一つだ。
世界都市の基準は人口と人気度で決まる。今はイーストメディスンが世界都市になっているが、昔はホッ・カイドウが世界都市になっていた。
ホッ・カイドウは当時の文明の中では最も進んでいたとされる都市だ。でもそれほど文明が進むというとは危険が高まる。その危険というのはまさに神のことだ。
一部の批評家の中では神は文明の進化を操っているとされるほどである。世の中の人にそう思わせるほどの衝撃を与えたのがホッ・カイドウの消失。ホッ・カイドウの代わりに世界首都へと昇格したのが今、二人が行きたいと言っているイーストメディスンだ。
「分かったわ。今夜はイーストメディスンに泊まれれば泊まりましょう」
ノアとマロンの二人に目配せをする。二人はフィオナの意図を汲み取ったのか胸に手を当ててお辞儀をしてから瞬間移動で姿を消した。
「「やった!」」
二人は向き合ってガッツポーズをして喜んでいるようだった。
「けどイーストメディスンに行くなら結構飛ばさないといけないわね」
目的地までの距離を増やして一〇〇キロメートル先にある集落へと変えた。
「うげっ……」
「一〇〇キロ……?」
二人とも予想を遥かに超える長さだったためか、すでに疲れたような顔をしていた。想像するだけ疲れた、というのはまさにこういうことなのだろう。
「じゃあ行くわよ」
「あーっ……」
「やっと着いた……」
あの後、五回ほど瞬間移動を使い、途中休憩も挟みつつようやくイーストメディスンの前についた。やはり瞬間移動を習得して二日ほどではかなり疲労が溜まっているようだった。
スカートのポケットに入れ込んである魔封石を取り出す。ポケットにはアルバートに持たせている魔封石ではなく、ノアに持たせてある魔封石を選ぶ。魔封石は光を出すことしか用途がないが、兄さんはただの光に圧倒的な使用方法を生み出した。
兄さんから聞いた名前によるとそれはモールス信号というらしい。その中でも光りモールス信号というものに分類されると言っていたが詳しいことは分からない。
『あ』から『ん』までの音を短音と長音の二つで表すことが出来る。兄さんに習った通りにフィオナはノアに信号を打つ。
「フィオナ、何してるの?」
「ノアとマロンの位置を聞いてるの。よし、じゃあ行こっか」
二人は私が魔封石を見ながら位置を確認していると聞いて驚きを隠せずにすぐに聞いてきた。
「どういうことなの!?」
「うーん。言うなれば信号だね」
「「信号?」」
二人はフィオナの放った言葉に顔を顰めて聞き返す。私は二人からの質問を返しながらノアとマロンがいる宿の方へと歩き出す。
「でも魔封石でどう信号なんて送るの?
信号なんてもっと大きい魔封石じゃないと送れないわよ」
「いや、ローズ。多分フィオナが持ってるのはもっと小さい魔封石。それでもさっきのフィオナみたいに決まりを作れば時間は掛かるけど信号は送れると思う」
ローズがフィオナに聞いた質問の答えのほぼ全てをジェイミーが答える。フィオナがジェイミーの推測に補足する形で話に加わった。
「魔封石にこの長音と短音を打つの」
実際に魔封石を片手で打ちながら説明をしていく。
「この二つを組み合わせて文字を作るの」
フィオナは例えとして短い文を打つ。魔封石をピカピカ光らせながら全文打ち終わった。
「なんで打ったの?」
「もうすぐつく、って打ったの」
二人とも私の行ったモールス信号に目を丸くしていた。
「すごい」
「どこで覚えたんです?」
「兄さんが教えてくれたんだけど、詳しいことは私にも分からないけど。あっ、ほら着いたわよ」
そんなことを話している間にノアとマロンが取った宿に着いた。宿というよりかは私の屋敷を高くしたような大きな建物になっているようだった。
「やっぱり世界都市ってすごい……」
ジェイミーが今夜泊まる宿の外観を見てそう言った。フィオナは大きな扉を押して中に入る。
「綺麗……」
まず最初に出てきたのはその言葉だった。
天井に飾られた大きなシャンデリア。美しい模様が施された壁と床。所々に施された金と銀の装飾がさらにその豪華さと美しさを醸し出していた。
「こっちよ」
宿の壁や天井に見惚れているノアとマロンを手で招く。階段を数階分上がり、ノアとマロンのいる階まで上がる。ノアとマロンのいる階に着き、二人が取った部屋をノックした。一秒も経たないうちに部屋の扉が内側にガチャリと音を立てて開く。
「はい……って、フィオナ様」
完全にオフ姿のマロンが部屋から出てきた。が、フィオナを見るや否や電光石火の速さでいつもの屋敷で働くマロンになった。
「無事に到着なさったようで何よりです」
お辞儀をしながら言うとフィオナたちを部屋の中へと招き入れた。部屋の中は予想よりも遥かに広く作られているようだった。一階の受付と同じように部屋の細部までこだわって作られているのが伝わってくる。
「縮小結界が使われているのかしら?」
「おそらく」
セツシート大学が入学試験の時に、私たちが乗った馬車と同じような技術だ。同じようなものであり、決して同じではない。
セツシート大学の結界はこの部屋に使われているものよりもさらに規模が大きくなっているものになる。部屋の奥に進みベッド近くに設置されるテーブルにはタグのついた鍵が二つ置かれていた。
「一つはこの部屋の鍵。もう一つは隣の鍵になっています。宿の空きがこの二つしかなく……部屋割りはお三方で決めてください」
ノアがそう言って隣の部屋の鍵を一本、フィオナにも鍵を渡してきた。
「じゃあ、ローズとジェイミーが隣でいい?」
「はい」
「うん」
フィオナがすぐそう提案をすると、二人は快く許可してくれた。手に持っている鍵をローズに渡すと、二人は部屋を出ていって隣の部屋に入っていった。
「じゃあ、明日の打ち合わせをしましょうか」
フィオナはノアとマロンの二人をリビングに置かれた座椅子の方へと招いた。




