第17話 結果発表
今日は中学年進級試験の結果発表日。 中学年進級試験は小学年を留年するかどうかが決まる大きな試験だ。
そのため朝早くから学校の時計台前に多くの人が集まっている。本鈴のベルがなると同時に時計台の前に布で被された板が外された。
「あっ、良かったー」
「俺もある」
「私も」
ローズ、アルバート、ジェイミーは自分の名前を見つけて安心いる。三人はフィオナがいなければ筆記試験と実技試験の二つのどちらかを及第点から落として進学もできなかっただろう。
「本当、フィオナのおかげだよ。ありがとう」
横にいるローズに感謝された時、フィオナはすごく嬉しかった。人に感謝される事がこんなにも嬉しいことだと知り、自然と笑みが溢れる。
「いや、私は何もしてないよ。試験を受けたのはローズ自身なんだし、ローズの力だよ」
自分を褒めすぎるのも良くないと兄から教わったのを思い出した。それと共に自分への忠告としての意味も持たせて言い返す。掲示板の最も右端の上には、
『グレイ・ジュリエット』
『フィオナ・ジュリエット』
『メジロ・ユイ』
と順番に兄やメジロのような特待生の名前が記されていた。ひとまず、試験を途中から受けていない二人も無事に進級出来たことに安心する。
「ローズ。今日、出発するつもりだけど誰が行くかは決まってる?」
「ええ、決まってるわよ」
「じゃあ終業式後、屋敷に来て」
そう言うとローズは頷き、終業式のある講堂へと向かった。
「あっ、きたきた!」
屋敷のドアを開けた瞬間、耳の中に飛び込んできたのはそんなローズの言葉だ。門の前にはローズとジェイミーの二人が立っている。
「アルバートが留守番?」
「そうよ。くじ引きでハズレを引いたからよ」
じゃあ、アルバートはそういったくじ運は全くといっていい程ないということだ。なんだか兄みたいだなと思いつつもフィオナは話を進めていった。
「じゃあとりあえず、街を出ましょう」
フィオナはとりあえずセツシートの街を出るために歩き出す。
「もう闘技大会の時期かー」
「一回は生で見たかったんですよね」
街の通路は出店や商品の入荷で非常に忙しそうだった。その姿を見てローズとジェイミーは話している。今年から闘技大会はセツシート大学の生徒も参加するのが可能になった。
自分も出ようかなと考えたが、何せ開催期間が兄を探す予定と丸かぶりなのだ。
「ローズとジェイミーは見ないで良かったの?」
「別に闘技大会なんて毎年セツシートで開かれるしいいわよ」
ローズに続いてジェイミーも言う。
「それに、私の中では友人の方が闘技大会より何十倍も大事」
「ありがとね」
「別にそんなこと言わなくていいのに」
セツシートの街を出てそんな事を話していると一つ目の目的地へと到着した。
「ここは?」
フィオナやノア、マロンが森の中で急に歩くのをやめて止まったためローズが聞いてきた。ここでフィオナは今分かっている事の全てを話した。
兄は何で飛ばされたのか。禁忌魔法陣について。
どこに向かうべきなのか。
「え!」
「じゃあ、ここから……」
目的地がホッ・カイドウと知った瞬間、二人の顔が青ざめる。理由はかなり単調で分かりやすい。そのまま歩くとすれば遠すぎて新学期までに間に合うことはないだろう。
「でもそれは嫌でしょ」
「嫌だけど、それしかないんだよね……」
ローズからは予想通りの返事が返ってきた。
「だからこれを使うのよ」
フィオナは後ろにいるノアとマロンに合図をする。その場に砂ぼこりが舞ったかと思うと二人の位置が真逆になった。
「「………」」
二人は尚も口をぽかんと開けて固まっている。確かに何も分かっていない状態だと、そうなるのも仕方ないだろう。
「これを二人には今日と明日で覚えてもらうわ」
「それってどういう……」
「つまるところ、瞬間移動よ。これを使って一気に目的地まで近づくの」
「「はぁ……」」
まだ理解が追いついていないのかそういう事しか出来なさそうだった。こういう時は話すよりも実践させた方がいいだろう。
「こっちに来て。じゃあまず魔力を薄い膜上に広げれる?」
「こう?」
フィオナも多少だが、兄のように魔力を可視化して見ることが出来るようになった。ローズとジェイミーの手元を見て見ると、それぞれの魔力が薄く手の上に纏わりついているのが見える。
「それを遠くに飛ばしてみて」
一瞬にして二人の魔力は手から離れて全方位に広がっていった。
「わっ、すごい……」
「本当だ!」
二人ともフィオナの予想した通りの反応をしている。彼女たちの中で何が起こっているかというと、薄く広げた魔力が周りの物にぶつかって辺りの把握ができているのだ。
そのため、普段ではあり得ない状況に陥りすごいはんのうをしている。フィオナも最初に兄から教えてもらった時は衝撃を覚えた。
「それで辺りの把握は出来たでしょ。後は自分の飛びたい場所の座標、つまりポイントを見つけてその場所までの距離分、魔力で体を押す。その時に自分の体を魔力の押し出しに耐えれるほどの薄い結界を張るの。そうしたら遠くにでも飛べ、あだっ!?」
フィオナが説明をしている最中、背中の辺りに大きな衝撃が走った。それと同時に兄が私たちに瞬間移動を教えていた時の場面を思い出した。となるとフィオナにぶつかってきたのは。
「ごめん、フィオナ!大丈夫!?」
やはりローズだった。この瞬間移動の練習は操作をするのが非常に難しいためどこにでも飛んでしまうのだ。
「私も最初は兄に何度もぶつかったのを思い出したよ。ノアとマロンも最初は酷かったもんね」
「はい」
「そうですね」
フィオナが昔のことを思い出して懐かしんでいるとノアとマロンの二人は同じタイミングで頷いた。
「へー、ノアさんとマロンさんも最初はこんなんだったんですね」
「あっ、ジェイミーちょっと……」
フィオナがあることを言い忘れていたのに気づきジェイミーに声をかけようとするも、既に遅かった。
「ふぐっ……」
ジェイミーは大の字になり木にぶつかっていた。
「だっ、大丈夫……?」
フィオナがそう言ってジェイミーの顔を覗く。鼻からはドロドロと血を流しながらこちらを見てきた。
「さっき、何を言おうとしたの?」
ローズはフィオナに首を傾けながら聞いてくる。
「その方向に飛んだら反動で木にぶつかるよって言おうとしたんだけど……」
そう、まだフィオナが瞬間移動で唯一操りきれていないものの一つ。その上、瞬間移動の使用に当たってややこしいこと。
それこそが反動だ。
どうやら兄はギリギリ反動を流すのに成功したらしいが、私はまだまだなのだ。魔力の量をどれだけ少なくしたとしても着地の瞬間までの時間であり得ない速度に達している。
たとえ、一メートルでも瞬間速度は時速約一〇〇キロメートルになる。
瞬間移動のややこしいのはそれだけではない。距離が離れれば離れるほど瞬間速度は上がっていく。つまり、距離が離れれば離れるほど反動は大きくなるため制御が難しくなる。
兄がいうには着地の瞬間にそれまでにかけていた向きとは逆向きの魔力を加えると反動をほとんど抑えられるらしい。最も、フィオナにそんな器用なことが出来るとも思えないのだが。
「でも、大体分かっ……」
「誰か助けてー」
ジェイミーが言葉を言い終わる前にローズの甲高い声が森の中に響く。
「どこにいるんだろう……」
フィオナは辺りを見回して見るがローズの姿はなかった。そうしてどこにいるのか分からずに探していると後ろでジェイミーが声を発した。後ろを見て見ると木の上の方を指さしている。
「ほら、あそこにいる」
「本当だ…ぷっ……」
なんということかローズは木の上に引っかかっていた。フィオナの心の中に真っ先に思い浮かんだのは、なぜという言葉だ。
瞬間移動で横に飛んでいくことはよくあることなのに上に飛んでいくなんて見たことはない。そのベクトルの違いに思わず笑いが飛び出てしまった。
「笑ってないで助けてよ〜」
「ごめんごめん」
瞬間移動の容量で魔力の向きだけを上向きにして体を押し上げる。フィオナはローズが引っかかっている高さの位置に立つとそこで体を固定した。
「どうなってるのよ」
木の枝が複雑に絡み合っているようで中々ローズは離れない。やっとのことで救い出したローズの手を持ちゆっくりと地上に降りた。
「ありがとう」
「まあ、瞬間移動の練習は今日じゃ終わらないと思うしちょっとずつ頑張っていこう」
「そうだね」
それからのこと、ローズとジェイミーたちはどんどんと瞬間移動の精度は上がっていった。
「じゃあ、明日からは大きな移動が待ってるからゆっくり休んで」
「「うん」」




