第10話 銃、銃、銃
「ん……なんだここ?」
魔法陣に足を踏み入れた先は建物の中にある部屋だった。
「空港ね」
この世界に来てグレイは初めて空港という言葉を聞いた。だが自分の聞き間違いだと思いすぐに思考を戻す。
「銃がありますね……」
グレイはすぐ近くのテーブルの上に置いてある銃に目を落とした。テーブルの上には銃が二丁置いてあるようだったのでグレイはメジロに銃口を自分の方に向けて渡す。
「じゃあここから出る方法を探しましょう」
メジロはそう言うと扉を開けて外へ歩いて行く。彼女について行くと、部屋を出たすぐの場所でメジロは立ちすくんでいた。
「どうし…たん………」
突然止まった彼女に疑問を抱いたグレイは横から顔をのぞかせる。そして自分の目の前で起こっている出来事を信じることができず、メジロと同じように固まってしまう。
なぜなら、二人の人がそこにいたからだ。
否、厳密には一人が地面に倒れもう一人がその倒れている人にかぶりついている。
「嘘よ、そんなことあり得るわけ……」
「ヴアァァ………」
手に持っていた頭がボトンと音を響かせて地面に落ちた。その後、口からよだれのように絶え間なくポタポタと血を落としながらこちらを視認すると、いきなり襲いかかってきた。
だが自分が生命の危機に晒されているにも関わらず、メジロは恐怖からか動かないでいる。一定の重々しいリズムを刻みながらこちらに向かってくる怪物からメジロを守るべくグレイが前に出た。
「危ない!」
手に持っていた銃を構えて近づいてくる怪物に引き金を引いた。一発撃ってバンという音と共に怪物の頭に命中し、血しぶきが空中に舞う。
後ろに倒れたと思ったが、再び怪物が起き上がってきたの見たグレイはさらに銃弾を撃ち込んだ。合計で三発撃ち込んだ時ようやく怪物は地面に倒れた。
「メジロ、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう。グレイってこういうのは見ても平気な人?」
「まあ、平気ってわけじゃ無いですけど。でも、どうしましょうか……」
地面に倒れて血を流している怪物を見てグレイは聞いた。
「ここでは何が起きているんでしょうか」
「さあ、まだ分からないわね」
グレイたちは空港内から外に出る方法を探しだした。外に出るとはいってもおそらく扉を開けて出るだけだとここから出ることはできないだろう。
「やっぱりただ外に出るだけじゃだめなんでしょうかね」
「まあそうだろうと思うし、ここに書いてあるわよ」
メジロはいつの間にやら右手に持っていた一枚の紙をグレイに渡してきた。そして、グレイは渡された紙に目を落とす。
その紙には今すべきことを書いたリストになっていた。空港を探索するという項目にはチェックが入れられて搭乗口リフトの鍵を探すとなっている。
「確かにリフトの鍵を探すって書いてますね、ってこんな紙どこから出てきたんです?」
「気づいたらここに入っていたのよ」
「何だか簡単なゲームを体験してるみたいでワクワクするな」
「変なこと言ってないで早く行くわよ。こんな頭のおかしい空間から早く脱出しないと命が何個あっても足りないわ」
メジロはムスッとした表情を浮かべながらグレイを置いて行くほどの速度で先へ進んでしまった。特待生がどんな人なのかビクビクしていたグレイだが、中々面白い人だと気付く。
と、左右の分かれ道でメジロが壁へもたれかかっているのを発見した。腕を組んでこちらを見てきていることから自分のことを待っているのだと感じ、小走りに彼女の近くへ寄る。
「なるべくこの方法は取りたくなかったけど別れて探しましょうか。グレイは右側、私は左側を探しましょう。多分、さっきみたいな怪物がここにはうじゃうじゃいると思うから気を付けて」
「メジロこそさっきみたいに棒立ちにならないで下さいよ」
「大丈夫よ、少し苦手だっただけ。もう慣れたわよ」
この魔法陣に乗った先にあった謎の空港から出るためにグレイは右側に歩いていった。
「おいおい、マジかよ……」
そこには怪物五体が廊下を歩き回っていた。が、グレイの存在に気づいた瞬間、俺の方目掛けて怪物たちが襲いかかってきた。
「獄水ボーッ!?」
一斉に倒そうとしたグレイは魔法を発動させようとした時。グレイは非常事態に陥ってしまった。
あろうことか魔法が撃てなかったのだ。正確には撃てなかったのではなく、魔力そのものが空港内に存在していなかった。
「クソッ」
瞬時に腰につけていた銃を取り出し床に滑るようにして一体目と二体目の頭を撃ち抜く。銃弾を装填しながら、地面に倒れようとする二体目を馬跳びのように飛び越え三体目、四体目を空中で倒す。
そのまま地面に降り立ち目の前にいる五体目の頭を近距離で撃ち抜いた。
「運動神経は元々良かった方じゃないけど、この世界の体ってなんか軽いんだよな」
おかげで先ほどのような前世では人間離れした動きを出来るようになっていた。
ところで、なぜ魔法を使うまで魔力がないことに察せられなかったのだろう。自分の体を覆うようについていた魔力がいきなり無くなったのならばグレイなら絶対に分かるはずだ。
やはりこの空間には自分の想像を遥かに超える何かがあるのだと胸に刻み、より一層警戒心を強める。
「ここまで来たのはいいものの、行き止まりか」
大きなステンドグラスが空港の滑走路全体を見回せるように設置してある広場に出た。少しの間きょろきょろと見回すが何もなかったため来た道を引き返す。
数分後。メジロと別れた場所で椅子に座って待っていると、彼女が向かった方向から微かに音がした。ハッとそちら側を見ると、そこには肩から血を流しながらゆっくりと足を進めるメジロがいた。
「メジロ!? 大丈夫ですか!」
椅子から転げ落ちるようにして肩から流れる血を止血させながらグレイは自分のハンカチを取り出す。血が出ている場所を自分のハンカチで締めてから近くにある空港特有の長椅子にメジロを寝かした。
彼女はどうにか痛みに耐えるため歯を食いしばりながらグレイに向かって喋る。
「さっき鍵を見つけたの。でも、そいつは他のやつとは比べ物にならないくらい強くて……」
おそらくそいつが鍵を持つボスのようなものなのだろう。
「メジロはここで休んでおいてください。僕が鍵を取ってきます」
「でもあなた一人じゃ……」
「大丈夫です。今は自分の体を心配して下さい」
メジロに声をかけたグレイは鍵があったという左側の道を進んで行った。その道は床が爪のようなもので削れてるようにみえる。
「物騒だな」
そのまま歩いて行った瞬間、右側の壁がドンと音を立てて崩れ落ちた。身の危険を察知したグレイはそこから距離をとる。
「確かに鍵を持ってるけど、それはないだろ……」
壁から出てきた怪物の腰の辺りに鍵がありゆらゆらと銀色に光っている。だが、その怪物の身長は三メートルほどで右手が変異し大きな爪が露出していた。
「これは倒すのは無理だよな」
早々に考えたグレイは腰につけてある鍵を取ることに集中することにした。すると、怪物は急にグレイの方へと走って突っ込んできた。
「うおっ!って、マジか……」
爪を下から上に向かって振り上げるような攻撃をした怪物はそのまま柱にぶつかる。バキバキッ、と音がすると同時に柱はグレイの方へと崩れ落ちた。
「どんな馬鹿力なんだよ!」
柱から避けようと走った先には怪物がすでにいて、大きな爪を振り下ろそうとしていた。
「っ!!」
この瞬間、グレイは生命の危機を感じ何とか打開策を考えた。だがそんなものを考えたところでグレイはもう助かるような所ではなかった。全てを諦めてグレイは目を閉じる。
バンッ!
そんな大きな音が空港内に反響して響き続ける。怪物の振り下ろす右腕はグレイの場所を大きくずれて地面に突き刺さった。
「何とか間に合ったわね」
後ろにはメジロが立っており、手には先ほどまでとは違う銃を持っているようだった。
「メジロ、どうして……」
「空港の椅子で座って休んでいたらその椅子の下にアタッシュケースが隠すように置かれてたの」
「じゃあその銃って」
「そこから貰ったのよ。でも反動が強くてもうあんまり撃てそうにないわね。弾もここに入ってる分だけだし」
怪物の体をメジロは足でどかしながらそう言う。恐らくその銃がなければ目の前に倒れる怪物を倒すことは出来なかっただろう。
その後すぐにグレイたちは紙に書いていた通り搭乗口リフトに鍵を差して飛行機へと乗り込んだ。
「これでようやく出られそうですね」
「紙の進捗も飛行機で脱出ってなったし、こんな所からはさっさと出ましょう。ところでグレイって飛行機の操縦って出来る?」
「説明書があれば出来るかもですね」
前世では飛行機を操縦するどころか興味も湧かなかった人間だったためそんなことは出来ない。説明されたことは大体分かるような要領は良い人だったのだが。
「確かにね。ちょっと待ってて」
メジロは後ろへ向かうとすぐに帰ってきた。彼女の手には何か四角い物体を持っているようだった。
「これが説明書よ。そこの窪みに嵌めて」
指示通り操縦席の前にある窪みに嵌めると。
「操縦パネル下の板を取り外し中の電源装置の電源を入れてください。電力供給が足りていません。操縦パネ……」
とアナウンスが流れ出した。グレイは操縦パネル下の板を指示に従って取り外す。中にある電源装置と書かれたスイッチをカチッと上に上げた。
「電源装置に電気が流れたことを確認しました。乗組員はシートベルトを閉めてください」
アナウンスの指示がそう言うように変わる。
「これでやっと帰れますね」
「そうね」
グレイたちはようやく落ち着いて操縦席の椅子に座った。
「電源が入ったことを確認しました。目的地まで自動運転を開始します」
「自動運転ってことはこれで外に出してくれそうですね」
「そうね、私は疲れたし少し休むわ」
メジロは後ろにある長椅子にもたれかかっている。メジロを見ているとグレイも急に眠気が襲ってきたため、操縦席で睡眠を取ることにした。ここから出られることを確信したグレイはすぐに寝付くことが出来た。




