第9話 ここはどこですか。
「あなたもここへ来たのね」
誰かと思い横を向くと体育座りをしているある女子生徒がいた。制服着けている金色のバッジを見るとすぐに彼女が実技試験の剣技部門で特待生になったメジロ・ユイなのだと悟る。
白い学生服に赤色のネクタイを着用していて、黒のスラックスを履いてるいる長い黒髪をなびかせながら言う彼女にグレイは聞き返す。
「メジロ、あなたもってどう言うことなのか教えてくれないか?」
先ほどの発言の意味が全く分からなかったので聞いてみる。
「メジロでいいわ、同じ特待生なんだし。で、あなた自分が乗った魔法陣がどんなのか覚えている?」
ほんの数刻前に起きた出来事を瞬時に思い出す。グレイが上に乗ったと同時に真っ赤に光出した魔法陣だ。
「あの赤いやつだろ。あれがどうしたんだ?」
「あの魔法陣はね、禁忌魔法陣といって古代の先人っていう人たちが作ったものなの」
「古代の先人?」
メジロの言葉に疑問を抱きそう聞き返す。自分の知らない単語をすらすら言ってくるメジロに話から置いていかれないようにどうにか理解しようとする。
「そう。古代の先人っていうのは詳しくは分からないけど少なくともこの世界の人じゃない」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
「ここで話をしていても仕方ないしあっちに歩いて行きながら話しましょうか」
床に手をつきながら立ち上がったメジロの指差した方向をグレイは見る。彼女が指差した先には目を疑うような光景が広がっていた。
「どうしてあんなことになってるんだ…」
自然にそんな言葉が出てきた。メジロの指差した先にはセツシートがあったが、そこはもうグレイの知っているセツシートではなかったのだ。
謎にセツシートの真ん中から飛び出る塔は崩れ落ち、セツシート大学の象徴とも言える時計台は跡形も残していない。ほかの建物もヒビが入って今にも崩れそうだった。
「そんなこと私に聞かれても分からないわよ。それを知るためにセツシートに行くんでしょ」
メジロはグレイに手を伸ばしてきた。
「ありがとうございます」
「別にいいわよ」
グレイとメジロはそうしてセツシートの方へ向かって歩き出す。
「古代の先人の話をしていなかったわね。彼らは今からざっと三千年ほど前に現れたの」
「そんなに昔からいるんですね」
「三千年前に彼らは今の現代知識、いやそれ以上の物を作り出した。例えば通信機器なんて分かりやすいんじゃないかしら? 現代では人と対話するには魔封石を使っているけど、彼らはそれをさらに凝縮し手のひらサイズにまで縮めたの」
グレイはこの世界に来てから前世に住んでいた地球がどれほど恵まれている環境下にあるかを理解した。この世界の通信機器というのは非常に使い勝手が悪い。
全長十メートルほどある魔封石でかろうじて通信ができるがそれも街に一つあるかないかくらいの代物だ。しかも、その通信の仕方というのは片方の魔封石に記憶を残してそれを一気に通信局の人がまとめて送るといったものだ。
記憶が破損したり入り混じってしまう場合もある。通信において守られるべきものが流出してしまう事故も起きる。それが現在の状況だ。
手のひらサイズのものもあるにはあるが、とてもじゃ無いが情報通信が出来るようなものとはいえない。電気信号のようにピカピカと点滅させる事ができるだけだ。
ただそれでも価値のある代物であることには違いない。文献を一度読んでみた限りでは手のひらサイズのものならグレイでも作れそうだった。同じ手のひらサイズでも通信機器として利用できるようにするなんて携帯みたいだな。
「そういう物を何百と生み出してきたのが古代の先人。それでさっきの禁忌魔法陣もその一つ」
「でも禁忌魔法陣にはフィオナも乗っていた。なのに何で俺しかここに居ないんだ?」
「それが疑問点なのよね……」
やはりそこがメジロに取って難題だったのか。
「何か書いていますよ」
そうこう話しているうちにグレイたちは街の中に入っていった。街の中は考えられないほどに崩壊していて時々、壁に赤い文字で何か書かれている。
グレイはその文字を読み取れなかったため、メジロの方を見た。ため息をついた彼女は一目見ると書かれている文字を口に出して読む。
「こっち、ね。明らかに意図的なものなんでしょうけど。行ってみる価値はありそうね」
二人は壁に書かれている文字に従って街の中を歩き回った。合計で十個くらいの文字を見つけてはそれに従っていただろう。
「洞窟か……」
「行ってみるしかなさそうね」
グレイとメジロは文字に従って歩く。結果、たどり着いた先は洞窟であった。ピチャンと水の滴る音を響かせる洞窟を歩いて十分ほど経った時、ついにグレイたちは立ち止まる。
「金属で出来たもの全てをここに置いていけ?」
壁に書かれた先にはやけに近代的な鉄のゲートがあった。
「ふぅん」
少しの間、ゲートの先を背伸びして観察していたメジロは声を発する。すると、メジロは懐から一枚の銅貨を取り出すとゲートの先へと投げ込んだ。
銅貨がゲートを通り越した瞬間、赤い光線がゲート内の壁から出てきた。ジュワッと音がする同時に銅貨が液状になり地面に広がる。
「マジかよ……」
「ここは大人しく指示に従った方が良さそうね」
グレイはポケットに入れていた金銭を全て壁の近くにあった箱の中に入れた。もし先ほどの銅貨のようにぐちゃぐちゃに溶けてしまったらどうしようと言う気持ちを胸にゲートを潜る。
「はぁー」
ゲートを潜り終えると安堵の気持ちが溢れ、グレイは大きくため息を吐く。空港にある金属探知機を初めて通った時の気持ちを思い出す。奥を眺めてみるとそこには魔法陣が一つ起動された状態で置かれている。
「メジロ。この魔法陣って……」
「そうね、乗って大丈夫そうよ」
魔法陣に近づき観察をしたメジロはしばらくして右手で丸を作って言う。何か魔法陣を見分ける方法などあるのだろうか。グレイはあまりそういった方面の暗記は得意では無かったので逃げたのだが。
「分かりました」
メジロの言葉を信じてグレイは魔法陣へと飛び乗った。




