第81話 大神官の最後
大神官は杖を振り上げたまま、アーレンを睨みつけていた。
その目には、もはや理性の光はなかった。
ただ、自分が築いた“恐怖の王国”が崩れ去ることへの怯えだけが宿っていた。
「恐怖こそが力だ……!
恐怖こそが支配だ……!
恐怖こそが……わしのすべてだ!!」
アーレンはゆっくりと剣を構え直した。
「……あんたはその恐怖にすがってるだけだ。
誰も……そんなものには従わない。」
大神官は唇を震わせた。
「黙れ!!
わしは大神官だぞ!!
地底のすべてを統べる者だ!!
わしの声に……ひれ伏せぇぇ!!」
アーレンは一歩、また一歩と前へ進む。
大神官は後ずさりしながら叫んだ。
「来るな!!
来るなぁぁ!!
わしは……地底を統べるものぞ!!
恐怖の……!」
アーレンは叫んだ。
「恐怖なんかじゃ……誰も救えない!!」
大神官は恐怖と怒りにひきつった顔で杖を振り上げた。
「ならば、わが神官一族の最終奥義を食らうが良い!
いざ、超・岩落とし!!」
神官の後方で、小石がパラパラと落ちた。
アーレンは身構えたが──
何も起きない。
「……?」
大神官は焦り、再び杖を振り上げた。
「精神集中! 超・岩落とし!!」
今度はアーレンの頭上から小石が一つ落ちてきて、肩に当たった。
「いてっ! なんだってんだよ!
もったいつけやがって! 何がしたいんだ、お前!」
アーレンの怒りに火がついただけだった。
大神官は必死に叫ぶ。
「こんなはずは……食らえ! 超・岩落とし!!」
さらに小さな石の破片がパラパラと落ちてきた。
その様子を見て、ダルガがついに怒りを爆発させた。
「神官とは、岩落としの術に優れ、その意志で岩を落とせる者たち!
その力が地底を一瞬で破壊できると教えられてきた!
だから神官の一族は支配階級に居座っても逆らえなかった!
誰も実際に使えるかなんて考えたことも無かった!」
ダルガは槍を地面に叩きつけた。
「地上の”鬼”の記憶を見せられた時、わかったのだ!
かの地の鬼の祖先は“岩落としの力が強すぎる”という理由で地底を追放された者たち!
神官は自分の地位を脅かす者を次々と排除し、
結果として──自分たちの力も弱め続けたのだ!!」
大神官は震えた。
「そ、そんなはずは……!」
ダルガは続けた。
「しかも、岩落としをはじめ、我々の術に関する能力は女の方が強い!
男は腕力である程度の仕事ができるが、女性の腕力はそれほど強くはない。
だからこそ術を磨き、生活を支えてきた。
その結果、術の才能は女性の方が強く発現するのだ!
それを知っている地上の鬼の神官は代々女性なのがその証拠!
我々が使う透明化は本来は母が子を危険から守るための術。
だから、女性なら数日は維持できるが、男はせいぜい数十分から半日だ。
お前ら神官は……自分たちより強い者を恐れ、
次々と追放し続けた。
その結果、自分たちの力まで弱めてしまった愚か者だ!!
いままでよくも我々をだましてきたな!!」
大神官は耳を塞ぎ、叫んだ。
「う、うるさい!!
何かの間違いじゃ!!
今一度、超・岩落としを──超……!」
その瞬間、大神官の背後にすっと影が現れた。
エイリンだった。
「……もう見ていられぬ。いいかげんにせい!」
エイリンは大神官の首筋に手刀を叩き込んだ。
パシンッ。
大神官は白目をむき、その場に崩れ落ちた。
エイリンはため息をついた。
「なんともまぁ……あきれる。
このような茶番に、いつまでも付き合いきれぬわ。」
妃たちは呆然とし、互いに顔を見合わせた。
自分たちが信じ込まされていた“神官の力”が、
こんなにも脆い虚構だったとは。
こうして大神官はあっけなく捕らえられた。
そして、それは──
この一連の戦争の終わりを意味していた。




