第79話 裂け目の入り口で
バルグが倒れたことで、戦場に重い沈黙が落ちた。
地底軍はすでに総崩れとなり、裂け目の奥へと逃げ去っている。
アーレンは剣を下ろし、静かに息を吐いた。
胸の奥に残るのは、勝利の高揚ではなく、
武人の最期を看取った後の、言いようのない虚しさだった。
白鬼が立ち上がり、アーレンの背中を軽く叩いた。
「若造、よくやった。
あの大男を倒すとは、見どころがあるわい。」
アーレンは苦笑した。
「……あんたに褒められると、なんか照れるな。」
白鬼は豪快に笑った。
「はっはっは!
照れる暇があったら、次の戦いに備えよ!」
丘の上から、ダルガとドロガが駆け下りてくるのが見えた。
その後ろからはジュリアンとシオリが必死に転げ落ちないように降りてくる。
二人はどさくさに紛れて手をつないでいた。
アーレンは、ダルガが、夕焼けの太陽に照らされたバルグの亡骸を見つけ、その横に跪いたのを見た。
「バルグは立派だった。」
ダルガは複雑な表情だった。
ヒューヒューと何やらバルグに話しかけている。
アーレンは静かに答えた。
「武人として、立派な最期だった。」
ドロガは目を伏せ、深く息を吸った。
「兄者……オレも覚悟を決めるよ。
大神官を止めるために。」
ダルガは弟の肩に手を置いた。
「ドロガ。
お前の知識が必要だ。
地底神殿の構造を教えてくれ。」
ドロガは頷いた。
「……わかった。
大神官は、地底神殿の最奥にいるはずだ。」
その時、夕陽を背に丘の上から慌てて駆け降りてくる影が二つあった。
ジュリアンとシオリだった。
「アーレン! 無事か!?
さっきの戦い……すごかったぞ!」
アーレンは肩をすくめた。
「なんとか、な。」
ジュリアンはダルガとドロガに深く頭を下げた。シオリが内響で通訳をする。
「ダルガ将軍、ドロガ将軍……
魔道砲を止めてくれて、本当にありがとう。」
ドロガは照れくさそうに頭をかいた。
「礼を言われるようなことでは……
兄者に殴られて、目が覚めただけだ。」
ダルガは苦笑した。
「殴ってなどいない。」
シオリとジュリアンは思わず笑った。地底人も冗談を交わすことがあるのだ。
そこへヘンリックが歩み寄り、全員を見渡した。
「全員、よく戦ってくれた。
だが──まだ終わりではない。」
戦場の空気が再び引き締まる。
「地底軍本隊は壊滅した。
しかし、最大の脅威である大神官が残っている。」
ヘンリックは短く息を吐いた。
「よし。
これより地底神殿へ向かう。
アーレン、ジュリアン、イオリ、シオリ、ダルガ──
前衛は君たちに任せる。」
白鬼が太刀を担ぎながら言った。
「わしは後ろからついていくぞ。
暴れたくなったら止めるでないぞ?」
ヘンリックは即座に首を振った。
「絶対に前に出ないでください。
あなたが暴れたら地底が崩れます。」
白鬼は不満げに鼻を鳴らした。
「つまらんのう……。息子と娘の晴れ舞台を近くで見れんとはのう。」
地上軍は隊列を整え、裂け目の前に集結した。
地底へ降りる者たちの顔には、緊張と覚悟が浮かんでいる。
アーレンは深く息を吸い、暗闇を見つめた。
シオリがそっと隣に立つ。
「アーレンさま……お気をつけて。」
アーレンは微笑んだ。
「大丈夫だ。
俺は……もう迷わない。」
裂け目の奥から、低く不気味な鼓動のような音が響いてくる。
アーレンは剣を抜き、前へ進んだ。
「行くぞ。
地底神殿へ──
この戦いを終わらせるために!」




