第78話 地底の誇り、武人の最後
白鬼は再び腰を下ろした。
「若造、後は頼んだぞ。」
アーレンは剣を構える。
「おう、おっさんは休んでおきな!」
アーレンが白鬼をおっさんと呼ぶたびに白雲軍に戦慄が走る。胆力だけならアーレンは白鬼と互角だろうか。
「おい、バルグ、このグレイフォードのアーレンがお前の相手だ!よろしくな!」
バルグは槍を構え直した。
この距離だとバルグの内響レベルでも意思疎通ができる。
「よかろう、ワシの名はバルグ、
地底の将にして最強の戦士。相手にとって不足なし!」
バルグが先に動いた。
地を蹴り、槍の穂先が一直線にアーレンの喉を狙う。
「はあああッ!!」
槍の突きは速い。
剣では届かない距離から殺意が飛んでくる。
アーレンは身をひねり、紙一重でかわす。
(速い……!
これが地底軍の将の槍術か……!)
バルグは間髪入れず、横薙ぎに槍を振るう。
長い柄が唸りを上げ、アーレンの足元を薙ぎ払う。
アーレンは跳び上がり、剣で受け流したが、
衝撃で腕が痺れた。
「どうした、地上の若造!
槍の間合いでは……貴様に勝ち目はない!!」
バルグの言葉は事実だった。
槍は長い。
剣は短い。
剣士が勝つには──
間合いの内側に飛び込むしかない。
だが、それは死地に飛び込むのと同じだった。
アーレンは深く息を吸った。
(こいつはやべぇ……
でも、逃げるわけにはいかない……
俺は……武人としてここに立っているんだ!!)
バルグが再び突きを放つ。
槍の穂先が風を裂き、アーレンの胸を貫かんと迫る。
アーレンは叫んだ。
「うおおおおッ!!」
剣を振り下ろし、槍の軌道をわずかに逸らす。
その一瞬の隙に、地面を蹴って踏み込んだ。
バルグの目が見開かれる。
「なに──!?」
アーレンは槍の柄の内側、
バルグの懐へ飛び込んでいた。
剣士が槍使いに勝つ唯一の距離。
至近距離だ。
バルグは咄嗟に槍を引こうとしたが、
アーレンが柄を蹴り上げ、動きを封じた。
「ぐっ……!」
アーレンは剣を振り上げる。
バルグは槍を捨て、素手でアーレンの腕を掴んだ。
「まだだ!!」
二人は組み合い、
荒地の乾いた土の上で激しくぶつかり合う。
アーレンは剣を振り下ろそうとするが、
バルグの怪力がそれを押し止める。
「若造……!
このワシを……なめるな!!」
アーレンは歯を食いしばった。
「なめてはいない……!
でも……俺は負けない!!」
アーレンは剣を握る手を離し、
逆にバルグの腕を掴んで体をひねった。
東国仕込みの体術で、
バルグの体勢を崩し、投げた。
「なっ──!」
バルグの巨体が本人の意志に反して倒れる。
アーレンは落ちた剣を拾い、
バルグの喉元に突きつけた。
バルグはしばらく動かなかった。
やがて、静かに息を吐いた。
「……見事だ。
地上の若き武人よ……」
アーレンは剣を下ろした。
「あんたは殺さない。もう、ここでの勝負はついた。余計な血を流しても仕方ない」
バルグは目を閉じ、
わずかに笑った。
「……このワシが、情けをかけられるとはな……」
アーレンは手を差し伸べた。
バルグはその手を見つめ──
ゆっくりと掴んだ。
「……敗れた将に……手を貸すとは……
地上の武人も……悪くない……」
アーレンは力強く頷いた。
「あなたも……立派な武人だ。」
立ち上がったバルグと共に、アーレンは白鬼の方へ向き直った。
「やったぜ!みてくれてたか?」
白鬼は眉をひそめた。
「バカ者、敵に背を向けるでない!」
その瞬間、
バルグが短刀を抜き、アーレンへ飛びかかった。
だが、アーレンの反応の方が早かった。
振り返りざま、剣が閃く。
バルグの動きが止まり、
口から血が溢れた。
「……見事……
ワシは……武人としての……最後を……迎えたかった……
それを……叶えてくれて……ありがとう……地上人よ……」
その言葉を最後に、
バルグは前のめりに倒れた。
アーレンはしばらく立ち尽くした。
勝負はついていたのに、なぜ襲ってきたのか。
問いかけても、もう返事はない。
「……こんなくだらない戦いは……
さっさと終わらせてやる……!」
アーレンは強く心に誓った。




