第75話 復讐の咆哮、臨界の魔道砲
小高い丘の 上。
そこには、巨大な魔道砲が不気味な沈黙を保っていた。
砲身は黒く、まるで生き物のように脈動している。
周囲には技術兵たちが慌ただしく動き回り、
その中心に──ドロガがいた。
「……兄者は死んだ。
ならば……ならば、兄者の仇は……この手で取る……!」
ドロガの目は血走り、
その手は震えていた。
だが、それは恐怖ではない。
狂気と執念だった。
技術兵が恐る恐る声をかけた。
「ド、ドロガ様……こちらの魔道砲はまだ調整が……
このまま撃てば、また──」
「黙れ!!」
ドロガは怒鳴りつけた。
「兄者の弔いだと言っておろう!!
撃てぬなら……撃てるようにするだけだ!!」
技術兵たちは震え上がり、
誰も逆らえなかった。
丘の斜面を駆け上がるジュリアン隊。
息を切らしながらも、誰一人として足を止めない。
途中で地底兵の小部隊と幾度か遭遇したが全て蹴散らした。
「見えた……あれが魔道砲か……!」
ジュリアンは息を呑んだ。
ダルガは険しい表情で呟く。
「……弟よ……どこに隠しておった……」
シオリは冷静に周囲を観察し、
魔道砲の周囲に張り巡らされた罠を見抜いた。
「ジュリアンさま、あの陣地……
ただ突っ込むのは危険です。
罠が張り巡らされてるかもしれません……」
「わかっています。
でも、時間がないのです。」
ジュリアンは剣を握りしめた。
(父上……
あなたの覚悟、無駄にはしない……)
その時だった。
魔道砲の砲身が、
低く唸り始めた。
「……っ!
光っている……!」
シオリが声を上げる。
砲身の内部に、
青白い光が渦を巻き始めていた。
ドロガが狂気の笑みを浮かべる。
「兄者……見ていてくれ……
この一撃で……地上人どもを……!」
技術兵が叫ぶ。
「ドロガ様!!
まだ安定していません!!
このままでは──」
「構わん!!撃つぞ!」
ドロガの叫びが、
魔道砲の唸りと重なった。
丘全体が震え、
空気が焼けるような熱を帯びる。
ジュリアンは叫んだ。
「全員、馬を降りて伏せろ!!」
その瞬間──
エイリン率いる鬼影衆が、
音もなく陣地に侵入してきた。
「……間に合わぬかもしれぬ。
だが、やるしかない。」
エイリンは短刀を抜き、
魔道砲の基部へ向かって走る。
だが──
魔道砲の周囲には、
罠が張り巡らされていた。
鬼影衆の一人が罠に足を挟まれ、押し殺した悲鳴を上げて倒れる。
「くっ……!」
エイリンは歯を食いしばった。
(ドロガ……許すまじ!)
魔道砲の光は、
もはや眩しくて直視できないほどに膨れ上がっていた。
ドロガは両手を広げ、狂気の笑みを浮かべる。
その手には射撃の際に振り下ろすハンマーが握られている。
「兄者ァァァァァ!!
見ていろ!!
これが……地上への復讐だ!!」
ジュリアンは叫んだ。
「止めろぉぉぉ!!」
ダルガも叫ぶ。
「ドロガ!!
やめろ!!
それは……オレの望む道ではない!!」
だが、ドロガの耳には届かない。
魔道砲の光が、
ついに臨界点に達した。
空気が裂ける音がした。
そして──
魔道砲が、火を噴こうとしていた。




