第73話 夜明けの合流、伝説の背中
夜明け前の薄闇。
裂け目へ向かって先行していた鬼影衆は、
地底人の偵察部隊六名と遭遇した。
地底兵たちは鬼影衆を見つけるや否や、
一斉に透明化する。
だが──
エイリンは涼しい顔で言った。
「……来るぞ。」
鬼影衆は慣れた様子で、
気配の揺らぎだけを頼りに刃を振るう。
金属音すら響かない。
ただ、影が走り、刃の走る音だけが残った。
数分後──
地底兵たちは全員、地面に倒れていた。
「これでやつらの“目”は塞がれたな。」
エイリンは仮面越しに微笑み、
裂け目へ向けて歩を進めた。
一方その頃、アーレンたちは夜明けとともに野営地を引き払う準備をしていた。
ガルドと地底兵たちのために、
分厚い天幕が張られ、太陽光を遮っている。
給仕が食事を運び、
鬼丸も天幕の下で配膳を手伝っていた。
地上人の食べ物に、地底兵たちは興味津々だ。
「……うまいな、これ。」
「こんな味、地底には無い……!」
鬼丸は一緒に食事をとりながら、ガルドに笑いかけた。
「久しぶりに地底エビが食べたいです……」
ガルドは豪快に笑った。
「すぐに食えるさ。
大神官から地底を解放すればな!」
二人は笑い合い、
周囲の兵士たちもつられて笑顔になった。
昼前。
地平線に白雲の旗が見えた。
「白雲本隊だ!!」
兵士たちの間に大歓声が広がる。
アーレンはその中に、
ひときわ目立つ白髪の老人が歩いているのを見かけた。
鎧もつけていない。
だが、ただ立っているだけで圧倒的な存在感がある。
(……あのおっさん、ただ者じゃない……)
アーレンが見とれていると、フレドリックが声をかけてきた。
「白雲の軍勢はここで一旦小休止だ。その後、すぐに出立する。
アーレンたちは前方の警護に回ってくれ。」
「おう、まかせとけ!」
アーレンは数名の兵を連れ馬を進め、
野営地から少し離れた場所で監視を続けた。
今までのパターンで考えると、昼間なら安全。だが、油断はできない。
ここはもう敵地だ。
裂け目までは、ここから馬で二時間ほど。
大きな戦いが予想される。
アーレンは手綱を握る手に力を込めた。
(……いよいよだ。)
空は青く澄み、
風が荒地を渡っていく。
アーレンは静かに天を仰ぎ、
勝利を祈った。




