第69話 ダルガの奮闘
森と外壁を挟んで対峙する両軍は、
その後も数日間、膠着状態を続けていた。
地上軍は日ごとに増強され、
地底軍は日ごとに疲弊していく。
互いに偵察部隊を繰り出すが──
地底軍の偵察は、鬼影衆によって常に妨害されていた。
逆に鬼影衆は、
地底軍の位置・兵力・士気を、
まるで散歩でもするかのように容易く把握して戻ってくる。
不思議なことに、地底軍の補給はほとんど来なかった。
短期決戦を想定していたのか、
あるいは総指揮官が深く考えずに軍を動かしたのか──
フレドリックには判断がつかなかった。
だが一つだけ確かなことがあった。
地底軍は限界に近い。
地上軍は日に日に強化されている。
フレドリックはエイリンを呼び、意見を求めた。
「……今、打って出れば勝てるのか?」
エイリンは迷いなく答えた。
「地底軍は補給もうまくいっていない。
兵の士気は地に落ちている。
主だった将は二人──
しかも仲が悪い。」
フレドリックは思わず苦笑した。
「……確かに、あの二人は仲が悪そうだ。」
エイリンは続けた。
「夜ではなく、昼間に総攻撃をかければ、
地底軍はほぼ戦えぬ。
勝機は十分にある。」
その言葉に、フレドリックは決断した。
「……明日、太陽が最も高く昇る時刻に攻撃を開始する。」
翌日。
太陽が真上に昇り、森の影が最も短くなった瞬間──
「総攻撃、開始!!」
外壁の門が開き、
地上軍が一斉に森へ突入した。
不意を突かれた地底軍は、
必死に防御態勢を取ろうとするが間に合わない。
「ぐっ……太陽が……!」
「目が……焼ける……!」
バルグは叫んだ。
「後退だ! 荒地へ退くぞ!!」
地底軍は総崩れとなり、
荒地へ向かって後退を始めた。
ダルガは配下の偵察部隊を率い、
一人でも多くの兵を逃がすため殿を務めた。
偵察部隊の装備は、
太陽光の下でもある程度活動できるよう工夫されている。
「走れ! 止まるな!!」
被害を出しながらも、
地底軍はなんとか荒地へたどり着いた。
森を抜けたところで、
ダルガは偵察部隊とともに立ち止まり、
迫り来る地上軍を迎え撃つ。
透明化を駆使して戦う偵察部隊。
地上軍も被害を受けるが──
「この距離なら僕たちの出番です、みなさんお願いします!!」
レムと鍛冶屋のハンドキャノン部隊が、
次々と透明化を破っていく。
「見えた! そこだ!!」
アーレンも剣を振るい、
手当たり次第に敵兵を切り伏せた。
「ようやく本領発揮できる……!」
数日の攻城戦で溜まった鬱憤を晴らすように、
アーレンは荒地を駆け抜けた。
ダルガも必死で応戦し、
その周囲には地上兵が多数倒れていく。
ついに、アーレンとダルガが向かい合った。
周囲の兵士たちは息を呑み、
二人の戦士を見守る。
その時──
エイリンがダルガを見て、
ふと目を細めた。
(……あやつ、ここで死ぬ気だな。見上げた忠義の人じゃ。殺すには惜しい。)
エイリンは内響を放った。
「……やめよ。」
ダルガの動きが止まる。
アーレンも剣を構えたまま動きを止めた。
「この戦いは、もう終わっている。」
エイリンの声が、
二人の心に直接響いた。
ダルガは歯を食いしばった。
「武人として……降伏などせぬ。
最後まで戦う……!」
エイリンは首を振った。
「降伏を求めているのではない。
真実を知ってほしいだけだ。」
そして──
エイリンは、自分の知る“鬼の歴史”を
すべてダルガの心へ送り込んだ。
地底人の祖先が地上へ出て、
豊かな土地で暮らし、
子孫を残したこと。
その子孫が、
今まさに自分の目の前にいること。
エイリン自身も、
元をたどれば地底人の血を引く者であること。
ダルガは驚愕した。
(……地上に……地底人の子孫が……?
この娘が……?
この能力……確かに我らのもの……)
薄い空気、乏しい食料、大神官の恐怖による支配。
地上人が地底人を滅ぼそうとしているという妄想。
無計画な侵攻。
敗走。
(……戦う必要など……最初から無かったのか……?)
胸の奥で、
何かが崩れ落ちる音がした。




