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アーレンと仲間たちの旅は、へんてこな武器から始まった  作者: 凩冬馬


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第66話 影が断つもの

その日の夜、地上軍は覚悟していた。

地底軍は増援を得た。

今夜こそ、正面からの大規模攻撃が来る──。


アーレンは外壁の上で弓を構えながら呟いた。


「……数を頼んだ総力戦だろうな。」


ジュリアンも頷く。


「だが、来るなら来い。

援軍が来るまで持ちこたえるだけだ。」


しかし、その夜の戦いは予想と少し違っていた。


森の闇が揺れた。

地底軍が透明化して、じりじりと外壁へ迫る。


まずは、クロスボウの射程外からの弓攻撃。


「ぐっ……!」

「伏せろ!!」


不意を突かれ、外壁の上の兵が次々と倒れ、

残った兵士たちは盾を構えて必死に防御した。

合間を縫って弓で応戦するが、敵の姿は見えない。


その間にも──

地底軍の偵察部隊の精鋭が、守りの薄い場所を数か所見つけ、

透明化したまま外壁を登り始めていた。


防御側は気づかない。


外壁を登り切る寸前──

一人の地底兵が突然、何かに切りつけられ、悲鳴を上げて落下した。


「な、何だ!?」

「見えない……何が起きている!?」


城壁の上の兵士たちの間をすごいスピードで影が駆け抜けていく。


その影が動くたびに残りの地底兵たちも次々と落下していく。


城壁の上の地上軍の兵にも地底軍にも何が起きているのか理解できなかった。


透明化は完璧なはず。

なのに、なぜ位置が分かる?


外壁の上で、素早く動く“何か”が、

透明化兵を次々と斬り落としていく。


隊長は恐怖に駆られ、撤退を命じた。


「追う必要は無い。

まだ他にもいる。次の場所へ行くぞ。」


外壁の影から、仮面姿の女性が現れた。

その横には、同じく仮面姿の男が、いつでも動ける体勢で佇んでいる。


二人はふっと姿を消し、

次の地点で同じようにまた透明化した敵兵を切り伏せていった。


地底軍の作戦──

“偵察部隊が城壁を登り、中から門を開ける”

という計画は、開始直後に崩壊した。


正面から攻撃していた地底軍も苦戦していた。


地上軍は連射式クロスボウではなく、

射程の長い弓と、城壁に固定された大型バリスタで反撃してくる。


地上側の被害も出ているが、

地底軍も少しずつ削られていく。


一人が倒れれば透明化が破れ、

その周囲を集中攻撃される。

次々と透明化が破れ、

地上軍は敵の位置を把握し始めた。


「……あいつらは何をしている。

あまり時間をかけすぎると、自称総大将がまた悪い癖を発揮して

突撃命令を出しかねないぞ。」


ダルガは苛立ちを隠せなかった。


そして、案の定──

バルグは我慢の限界に達していた。


「ええい、何をしておる!開門はまだか!?」


怒号が森に響く。


その時、後方で小さな騒ぎが起きた。

すぐに収まったため、ダルガは気にも留めなかった。


(……イノシシでも出たか?

あれは地底軍の貴重な食糧だ。

次の食事が楽しみだ……)


そんなことを考えていた。


その騒ぎの現場では──

仮面の女性が、ピクリとも動かないミルダを見下ろしていた。


城壁に取り付こうとしていた地底兵を次々に倒していたとき、


仮面の女性は、地底軍の“心の流れ”を読んでいた。

その中に、ひときわ強い意識がある。

多数の兵を鼓舞し、叱咤し、命令している。


(……一人が、全体をコントロールしている?)


その意識を辿ると、森の奥にその人物がいた。


女性は配下に指示を出し、

単身で森へ向かった。


木の上から見下ろすと、

護衛に囲まれたミルダが、目を閉じて集中している。


仮面の女性は両手で三角形を作り、

その中央にミルダを捉えた。


「……内獄ないごく。」


その瞬間、

ミルダの意識は外部から完全に遮断された。


糸の切れた人形のように崩れ落ちるミルダ。


女性は木から飛び降り、

護衛を次々と無力化した。


「……この者を連れて行くぞ。」


隣に現れた影がミルダを担ぎ上げ、

闇へと消えた。


その頃、前線では異変が起きていた。


兵士たちの様子がおかしい。

隣の者が倒れると、恐怖に飲まれ、後退し始める。


「ええい、うろたえるな!!」


ダルガが怒鳴るが、

兵士たちの顔には恐怖が浮かんでいた。


そこへ、一人の偵察兵が駆け寄ってくる。


「ダルガ将軍!

大変です……ミルダ様が……消えました!!」


「……なんだと?」


ミルダがいなければ、

兵士たちの恐怖心を抑えられない。

ミルダは兵士たちの心に、

“敵よりも怖い大神官のイメージ”を送り続け、

無理やり恐怖に立ち向かわせていたのだ。


それが消えた今──

兵士たちは“本物の恐怖”に飲まれ始めた。


統率が崩れ、

兵力差の意味が薄れていく。


「……まずい。」


ダルガは初めて、

本気で焦りを覚えた。

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