第65話 停滞
戦いが始まって五日が過ぎた。
外壁の上に立つアーレンは、冷たい風を受けながら深く息を吐いた。
地上軍は疲れが見え始めていたが、三日間の休息で何とか持ち直していた。
外壁の修復も進み、矢の補充も完了し、ハンドキャノンの整備も終わっている。
だが、森の奥に潜む地底軍の気配は、日に日に強くなっていた。
地底軍も三日間の小休止を得た。
しかし、彼らにとって地上の昼は休息と言い難い。
太陽光は遮光布を通しても皮膚を焼き、
視界は霞み、頭痛と吐き気が続く。
本来、地底人は夜型ではない。
地下では人口太陽を使い、地上と同じ昼夜サイクルで生活している。
だが、地上の太陽は強すぎた。
昼夜逆転の生活は、彼らの精神を確実に蝕んでいた。
五日目の夜、裂け目から地底軍の援軍が到着した。
三千名の増援とともに、巨大な天幕が運ばれてくる。
バルグは歓喜の声を上げた。
「これだ!
これさえあれば、昼でも休める!!」
天幕は地底の技術で作られた特製の布で、
太陽光を大幅に遮断できる。
しかし──
「……数が足りないな。」
ダルガが呟く。
天幕は全兵士を覆えるほどの量ではなかった。
優先されるのは幹部と精鋭部隊。
一般兵は自力で休むしかない。
偵察部隊は森に枝と葉で作った簡易テントを使っていた。
その作り方を一般兵にも教えたため、
多くの兵士がようやく“まともに眠れる場所”を確保できた。
だが、疲労は限界に近い。
増援を得て兵力は一万名ほどに回復した。
開戦から五日で千名の犠牲者を出したが、
それでも地上軍の五倍の兵力がある。
バルグは拳を握りしめた。
「五倍だぞ!
押し切れるはずだ!!
明日の夜、総攻撃を──」
ダルガが遮る。
「無理だ。
兵は疲れ切っている。
小規模な夜襲を繰り返し、地上軍を削るべきだ。」
「そんなことをしていたら、消耗するのはこっちも同じだ!!」
バルグの怒号が天幕に響く。
ミルダはその横で、木にもたれかかりながら欠伸をした。
「……好きにすれば?
私はもう疲れたわ……」
議論は進まなかった。
その頃、外壁の上では、
アーレンたちが夜の森を警戒しながら待機していた。
そこへ、伝令が駆け込む。
「報告!
東の港町にいた白雲諸島の傭兵たちが、
小島家の船員と共に援軍として向かっているとのことです!!」
アーレンは目を見開いた。
「白雲の……!」
ジュリアンが息を呑む。
「本当に来てくれるのか……!」
ヘンリックが静かに言う。
「国王が給金を払うことになった。
だが、そんなことはどうでもいい。
負ければ国を失いかねないのだからな。」
兵士たちの間に、久しぶりに明るい空気が流れた。
「援軍が来るまで持ちこたえよう!」
「あと少しだ……!」
疲れ切った兵士たちの目に、
わずかな光が戻っていく。ただ、兵力差は大きい。
地底軍の増援が到着した気配が濃く漂っていた。
アーレンは外壁の上から闇を見つめる。
(……また夜が来る。
今夜あたり来るだろうな……)
フレドリックが短く言う。
「気を抜くな。
地底軍は増援を得たころだろう。
今夜は……激しくなるぞ。」
夜風が吹き抜け、
外壁の上に冷たい緊張が満ちていった。




