第6話 ブランデルの静かな朝
西の辺境を離れ、長い旅路を進むアーレンたち三人。
昨夜の野党との戦闘を乗り越え、ようやく辿り着いた交易の町ブランデルで、
束の間の休息を得ることになる。
疲労困憊のアーレン、慎重に旅路を見直すレム、
そして情報収集に奔走するジュリアン。
それぞれの思いが交差する、静かな一夜と朝の物語。
宿屋に入り、まずは階下で腹ごしらえをする、一行。
だが、温かい食事を前にした瞬間、
アーレンはテーブルに突っ伏して寝てしまった。
レムはそっと毛布をかけながら言う。
「アーレンさん…お疲れさまです」
ジュリアンは腕を組みながら少し困った顔をした。
「まったく…食事中に寝るなんて、マナーがなってない…」
だが、その声にはあきれているというより、ねぎらいの気持ちが感じられた。
宿の一階の酒場には町人たちが集まっていた。
ジュリアンは勇気を出して話しかけ、
情報を集める。
「最近、この辺では戦闘が無いので、最果ての国の人たちなら、
さらに東の港に駐屯してるよ」
「ここからだと四日はかかるな」
「道中は気をつけな。最近、妙な連中が出るって話だ」
ジュリアンは礼を言って席に戻る。
「…明日、補給を済ませて出発しよう。
東の港までは四日はかかるそうだ」
レムは頷き、
アーレンは寝たまま返事をしなかった。
レムは地図を指でなぞりながら説明する。
「僕たちのいた西の町、グレイフォードはここ。
そして今は、この王国中央部にある王都ブランデルにいます」
ジュリアンは頷きながら聞いている。
「ここから東の港町、セイラン港に向かうわけですが…
いくつかルートがありますね」
レムは真剣な表情で続けた。
「一気に行くよりも、宿屋がありそうな町や村を経由したほうが安全です。
昨日みたいなこともありますし…」
ジュリアンは即座に賛成した。
「そうだな。野党が出るなら、無理はしないほうがいい」
そして眠ったままのアーレンに気が付くと、ため息をついた。
「…とりあえず、こいつは寝室に運ぶか」
ジュリアンとレムは協力してアーレンを抱え、
宿の二階の寝室へ運んだ。
アーレンは完全に熟睡しており、
二人がどれだけ揺らしても起きる気配がない。
ジュリアン「…こいつ、本当に人間か?」
レム「すごい体力ですよね…」
二人は苦笑しながらアーレンをベッドに寝かせた。
部屋に戻ったレムは、
もう一度地図を広げてルートを確認した。
「この先は…“エルドラン領”か。
治安は悪くないはずだし、昨日みたいなことはないと思う」
レムは少し安心したように息をついた。
「…よし。明日は早く出発しよう」
一応のプランを立てたレムは、
日課の楯磨きを済ませ、
毛布にくるまってベッドに横になった。
その日の夜は静かだった。
夜が明け、宿の窓から柔らかな光が差し込んだ。
しかし、アーレンはまだベッドでぐっすり眠っている。
ジュリアンは腕を組んで眉をひそめた。
「…まったく。どれだけ寝るんだ、あいつは。
旅の途中だというのに、だらしないにもほどがある」
レムは苦笑しながら言う。
「でも、昨日はアーレンさんがずっと見張ってくれてましたし…
好きなだけ休ませてあげましょうよ」
ジュリアンは不満げに鼻を鳴らしたが、
レムの言葉に反論はしなかった。
「…まぁ、そうだな。昨日の働きは認めるよ」
二人はアーレンを起こさず、
階下の酒場で朝食を取ることにした。
酒場は朝から活気があり、
旅人や商人たちがパンやスープを食べながら談笑している。
ジュリアンとレムは空いた席に座り、
温かいスープと焼きたてのパンを注文した。
ジュリアンはパンをちぎりながら言う。
「…しかし、アーレンは本当に化け物みたいな体力だな。
あれだけ戦って、見張りまでして…」
レムは嬉しそうに頷く。
「アーレンさん、すごいですよね。
僕なんて、見張り中に寝ちゃいましたし…」
ジュリアンは少しだけ笑った。
「お前は…まぁ、気をつけるがいい。
でも、昨日は…助かった」
レムは照れくさそうに笑った。
朝食を終えたジュリアンは、
アーレンの枕元に書置きを残すことにした。
『市場へ行ってくる。起きたら合流してくれ。
ジュリアン』
レムは荷物を背負い直し、
元気よく言った。
「じゃあ、行きましょう!」
戦いの翌日、三人はそれぞれの形で疲れを癒し、
次の目的地である東の港町セイランへ向けて準備を整えた。
アーレンの底なしの体力、レムの慎重な計画、
そしてジュリアンの責任感。
旅の途中で見せる何気ない一面が、
三人の絆を少しずつ強くしていく。
静かな朝のひとときは、
これから訪れる新たな試練の前触れでもあった。




