第57話 見えない敵の襲撃
アーレンたちは馬を走らせ、夜の森を抜けて第一砦へと急いだ。
砦の灯りが見えてくると、胸の奥に重い緊張が広がる。
(……何が起きた?)
砦の門は閉じられていたが、兵士たちの顔には疲労と恐怖が滲んでいた。
アーレンが名乗ると、すぐに門が開かれ、砦の中へ案内された。
「アーレン……ここだ。」
案内されたのは、砦の中央だった。
本来なら夜通し燃えているはずの篝火は倒れ、
周囲には燃え残りの薪と灰が広く散乱している。
アーレンは眉をひそめた。
「……砦の中央まで侵入してきたのか?」
兵士の一人が震える声で答えた。
「敵は……突然、現れた。
いや、正確には“現れたように見えた”というべきか……」
アーレンは兵士の顔を見つめた。
「どういうことだ?」
兵士は唾を飲み込み、散乱した灰の一角を指差した。
「篝火に何かがぶつかって倒れたとき、炭と灰が一気にぶちまけられた。
その炭と灰が……“何か”に当たって人の体のようなものが浮き上がった。
そいつは小さく悲鳴をあげて……そのまま逃げていった。」
アーレンは灰の散った地面に目を落とした。
そして、息を呑んだ。
そこには――
無数の足跡と、人型に“灰が落ちていない部分”がくっきりと残っていた。
まるで、人間がそこに立っていたかのように、
灰だけが避けられたような形で地面が露出している。
「……これは」
アーレンは膝をつき、灰を指先でなぞった。
(透明化していても、粉末が体に付着すれば……姿は隠しきれなくなるのか。
そうだとしたら、レムの発明は本当に有効かもしれない。)
兵士が続けた。
「灰を浴びた“そいつ”は、いや、はっきりと全身が見えたわけではない。
ただ、灰が体に付着した分だけ、くっきりと見えたわけだ。」
アーレンは立ち上がり、周囲を見渡した。
「ところで連れ去られた兵士は?」
アーレンの問いに、兵士は悔しそうに顔を歪めた。
「……三名いる。
森の中でトラップが作動してベルの音が響いた。
そこであわてて門を閉じて対処したが、その時はすでに中に侵入していたのかもしれん。
そして、門の外で見回りをしていた部隊がいたんだが、そいつらの叫び声が聞こえた直後、姿が消えた。
敵も何人か討ち取ったはずが……死体は一つも残っていない。」
アーレンは拳を握りしめた。
(透明化したまま、堂々と砦の中に入り込んだ……そして兵士を連れ去った……これは、ただの偵察じゃない。)
風が吹き、灰が舞い上がる。
その灰が、まるで“見えない何か”の形をなぞるように揺れた気がして、
アーレンは思わず剣に手をかけた。
(……奴らは、本格的に動き始めている。)
アーレンは深く息を吸い、フレドリックの部下たちに向き直った。
「砦の周囲を調べる。連れ去られた兵士の痕跡が残っているかもしれない。急ぐぞ。」
夜の闇は深く、その奥に潜む“見えない敵”の気配が、アーレンの背筋を冷たく撫でていった。




