第52話 通じ合う心
砦建設の監督を任されてから三日。
アーレンは連日、夜明けとともに起床し、職人たちと図面を確認し、兵士たちと作業の段取りを決めていた。
「アーレン、こっちは梁の固定が終わったぞ!」
「了解! 次は南側の壁を優先してくれ!」
兵士たちはすっかりアーレンにを気に入って、彼の指示に迷いなく動くようになっていた。
(……悪くない。)
アーレンは胸の奥で小さく呟いた。
父のような圧倒的な存在感はない。
だが、自分なりのやり方で、現場をまとめることができている。
ジュリアンの方も順調らしい。
毎日、書簡を通じてフレドリックとヘンリックへ進捗を報告し、職人たちとも良い関係を築いているようだった。
(あいつも、あいつなりに頑張ってる。)
アーレンは少し誇らしく思った。
昼過ぎ、職人たちが休憩に入った頃。
アーレンは一人、砦の外周を歩いていた。
(透明化に対抗するには……
視覚以外の感覚を使うしかない。)
砦の周りの木々を切り倒して、視界を確保することは決まっているのだが、視界がいくら良くても、対象が見えなくては意味がないのだから、透明化対策は必要である。ただ、まだ明確な答えが出なかった。
その日の夕方。
アーレンが図面を見ながら職人と話していると、背後から声がした。
「アーレン、ちょっといいか?」
振り返ると、先日勝負を挑んできた兵士が立っていた。
もう酒は飲んでいない。
「どうしたんだ?」
兵士は頭をかいた。
「この間は悪かった。
あんたの強さがよくわかった。
……それで、頼みがある。」
「頼み?」
兵士は真剣な表情で言った。
「俺たちに、あんたの剣を教えてくれないか?
地底人と戦った経験があるのは、あんただけだ。
俺たちも……強くなりたい。」
アーレンは少し驚いたが、すぐに笑顔になった。
「いいだろう。
明日の朝、訓練場に来い。
全員まとめて鍛えてやる。」
兵士は嬉しそうに笑った。
「おう!ありがとな、アーレン!」
アーレンはその背中を見送りながら、静かに息を吐いた。
(……これでいい。)
自分の役割が、ようやく見えてきた気がした。
この砦はこの兵士たちが命懸けで守るのだ。
だが、相手は普通の敵ではない。
夕暮れの空を見上げながら、アーレンは新たな決意を胸に刻んだ。




