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アーレンと仲間たちの旅は、へんてこな武器から始まった  作者: 凩冬馬


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第50話 捕虜の処遇

御前会議が終わる頃には、王宮の外はすっかり夕暮れに染まっていた。

アーレンたちは部屋に戻り、ようやく緊張から解放されたように深い息をついた。


「ふぅ……なんとか終わったな。」


アーレンが肩を回すと、ヘンリックが苦笑した。


「終わったというより、始まったと言うべきだろうな。

だが、王都が脅威を認めた。それだけで十分だ。」


アーレンは頷いたが、胸の奥にはまだわだかまりが残っていた。


(……すぐに軍を動かしてくれればいいのに。)


そんなアーレンの心を見透かしたように、ヘンリックは言った。


「焦るな。政治とはそういうものだ。

だが、援軍の約束は取り付けた。

これでグレイフォードは孤立しない。」


アーレンはようやく表情を緩めた。


その頃、イオリは通商大臣との会談を終えて部屋に戻ってきた。

彼の顔には満足げな笑みが浮かんでいる。


「おお、イオリ、どうだった?」


アーレンが尋ねると、イオリは静かに頷いた。


「上々でござった。白雲諸島と中部王国の貿易は、次の段階へ進めるでしょう。

正式な条約締結に向けて、準備を始めるとのことでござる。」


「それはすごい!」


ジュリアンが目を輝かせた。


イオリは続けた。


「ついでに、ヘンリック様にも白雲との貿易協定を提案したく存じまする。」


「えっ、私に?」

ヘンリックが驚いた顔をする。


「はい。こういうのは“とっかかり”が肝要にござります。

グレイフォード周辺には白雲が求める資源もありますし、

白雲側にも売れそうな産品が多数ありまする。

もっと領民の生活も豊かになると思いませぬか?」


ヘンリックはしばらく考え、やがて照れくさそうに笑った。


「……まぁ、よかろう。

辺境の一領主が相手で商売になるかはわからんが、

イオリ殿が言うなら信じよう。」


イオリは深く頭を下げた。


「ありがとうございます。決して、後悔はさせませぬ。後日、別の者を寄こしますゆえ、

詳しいことはその時に決めることとしましょう。」


夜、王宮外の酒場で、ささやかな祝宴が開かれた。

ヘンリックも同席し、アーレンとジュリアンは大いに盛り上がった。


ただし、シオリの姿はなかった。


アーレンは杯を置き、ふと呟いた。

「……シオリ、来ないんだな。」


イオリが静かに答える。

「捕虜のそばにいるそうです。

彼に白雲の文化や、これから行く島のことを教えているのでしょう。」


ジュリアンは複雑な表情で俯いた。

「……そっか。」


アーレンはジュリアンの肩を軽く叩いた。

「お前の気持ちはわかるが、あの子は責任感が強いんだ。

今は捕虜の不安を少しでも和らげたいんだろう。」


ジュリアンは小さく頷いた。


その頃、シオリは捕虜とヘンリックの警護役とともに王宮内の客室にいた。

暗幕で光を遮った部屋で、捕虜は床に座り、シオリの話を真剣に聞いていた。


「白雲諸島には、あなたと同じ地底人の血を引く人たちがたくさんいます。

彼らは鬼と呼ばれ、数百年の昔から島の人たちと一緒に暮しています。

私のように、あなたと直接話せる人たちもおりますし、

きっと、あなたを歓迎してくれるはずです。」


捕虜は驚いたように目を見開いた。


「地上……仲間……いる……?」


「ええ。あなたは一人ではありません。」


捕虜は胸に手を当て、震える声で言った。


「うれしい……こわい……でも……うれしい……」


シオリはそっと微笑んだ。


「大丈夫。私が一緒に行きます。」


宴が終わり、夜風が冷たくなってきた頃。

ジュリアンは宴会を抜け出して、先に部屋に帰ってきた。


シオリに声をかけようとしたが、捕虜と何やら話していて、

忙しそうだった。


声をかけようとしたが、その彼女の真剣な表情を見て、

そのまま部屋の前を素通りして、バルコニーに向かった。

街の灯りを見下ろしながら、何度もため息をつく。


「はぁ……」


その背後から、そっと足音が近づいた。


「ジュリアンさん、お戻りでしたか?」


振り返ると、シオリが立っていた。

少し疲れた顔だが、優しい笑みを浮かべている。


「どうされましたか? 何だか元気がないご様子ですが…」


「いや……その……」


ジュリアンは言葉に詰まった。

シオリは隣に立ち、夜空を見上げた。


「この旅、いろいろありましたね。」


「うん……本当に。」


「ジュリアンさまは、ずっと私に親切にしてくださいました。」


ジュリアンの胸が熱くなる。


「私も……シオリさんがいたから……旅の辛さなど感じませんでした。」


シオリはそっと懐から小さな布袋を取り出した。


「これ、受け取ってください。」


「え……?」


「白雲の女性が、友情の証として贈るものです。

白雲島の神殿でいただいたものでして、

その人の無事を祈るお守りです。

白雲の神々がこれからもずっと

あなたを見守ってくれることでしょう。」


ジュリアンは震える手で受け取った。

「……ありがとう……大切にする。」


遠くの屋根の上で、カスミが舌打ちした。


(チッ!…シオリさまは何を考えておられるのやら…)


ジュリアンは意を決して口を開いた。


「シオリさん、僕は――」


その瞬間、カスミの声が内響で響いた。


「シオリさま、定時報告の時間です。」


「……あっ。」


シオリは申し訳なさそうに微笑んだ。


「ごめんなさい、ジュリアンさま。 カスミからの報告を受けますので、また後で。」


ジュリアンは言葉を飲み込み、うつむいた。


翌朝、一行はそれぞれの道へ戻る準備をしていた。


捕虜は白雲諸島へ護送されることになった。

瑞穂が「数百年ぶりの鬼の客」として歓迎するだろう。


捕虜はシオリに話しかける。


「地上……仲間……いる……?

うれしい……白雲……見てみたい」


シオリも少し張り切っている。

ついでに、隣にいたアーレンに捕虜が何と言っているかを説明した。


アーレンは捕虜の肩を叩いた。


「安心しろ。お前はもう一人じゃないさ。お前のおかげでうまくいったんだ。もう、俺たちは仲間みたいなものだ。ありがとう。

海の向こうなら地底人も手だしできないから、もう襲われる心配もないだろうさ。

お前の好きな地底エビはないだろうが、あっちのエビもうまいぞ、たぶん。」


捕虜は嬉しそうに、ヒュヒュヒュと音を出した。これが地底人の笑い声なのだろう。


シオリはアーレンに深く頭を下げた。


「これまで本当にありがとうございました。

また必ずお会いしましょう。」


アーレンは微笑んだ。


「もちろん。また一緒に旅をしよう。」


ジュリアンは最後まで言葉を飲み込み、

ただ小さく手を振った。


馬車が動き出し、イオリとシオリ、そして捕虜を乗せた一行は

ゆっくりと王都を離れていった。


アーレンはその背中を見つめながら、静かに誓った。


(必ず守る。

この国も、仲間も、未来も。)


そして、彼らの新しい戦いが始まろうとしていた。

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