第47話 王都への道中
王都ブランデルへ向かう一行は、まだ朝靄の残る街道を静かに進んでいた。
先頭にはアーレンとイオリ、その後ろにヘンリックと彼の親衛隊、
そして馬車には捕虜の地底人とシオリが乗っている。
ジュリアンは馬を並べ、何度も馬車の方を振り返っていた。
「ジュリアン、前を見ろ。落馬するぞ。」
アーレンが呆れたように言うと、ジュリアンは慌てて姿勢を正した。
「わ、わかってる! ただ……シオリさまが酔ってないか心配で……」
「シオリはそんなに弱くはない。」
イオリが淡々と答える。
その声には、妹への信頼がにじんでいた。
街道は森の縁を通り、時折、鳥の声が響く。
しかし、アーレンはずっと背中に冷たい視線を感じていた。
(……つけられている?)
透明化能力を持つ地底人が追跡している可能性は十分にある。
アーレンは馬を少し後ろに下げ、ヘンリックの親衛隊長に声をかけた。
「周囲の警戒を強めてくれ。
森の中に“何か”がいる気がする。」
隊長は頷き、部下に合図を送った。
護衛たちは馬の速度を落とし、周囲を注意深く見回し始めた。
馬車の中では、シオリが捕虜の様子を見ていた。
地底人は黒い鎧とマスクを身につけ、
窓から差し込む光を避けるように身を縮めている。
「大丈夫? 気分は悪くないですか?」
シオリが優しく声をかけると、捕虜は小さく頷いた。
「光…強い…でも…鎧…ある…大丈夫…」
「王都に着いたら、あなたの話を聞いてもらえるようにします。
あなたに誰も危害を加えないよう、私たちも努力いたします。」
捕虜はしばらく黙っていたが、ぽつりと呟いた。
「シオリ…優しい…
でも…地底…戻れない…
戻れば…死ぬ…」
シオリは胸が痛んだ。
彼の言葉には、恐怖と諦めが混じっていた。
昼過ぎ、森を抜けたところで休憩を取ることになった。
護衛たちは馬をつなぎ、周囲を警戒しながら食事の準備を始める。
アーレンはイオリと共に周囲を見回っていた。
「やっぱり、つけられている気がする。」
アーレンが小声で言う。
「私も感じています。」
イオリは森の奥をじっと見つめた。
「ただ……敵意は感じません。
こちらの動きを“見ている”だけのようです。」
「偵察部隊か……」
アーレンは眉をひそめた。
透明化能力を持つ偵察兵がついてきているなら、
こちらの人数も装備も、すべて筒抜けだ。
「襲ってこないだけマシか。」
アーレンが呟くと、イオリは静かに頷いた。
「彼らも、無闇に戦力を失うわけにはいかないのでしょう。
それに、なにか危険な動きがあれば、シオリの鬼影たちが対応するでしょう」
休憩が終わり、再び街道を進む。
夕方が近づくにつれ、遠くの丘の向こうに
白い城壁がうっすらと見え始めた。
「見えたぞ! 王都ブランデルだ!」
ジュリアンが嬉しそうに叫ぶ。
アーレンも目を細めた。
高い城壁、塔の影、そして夕日に照らされた街並み。
王国の中心が、確かにそこにあった。
しかし、安心するにはまだ早い。
アーレンは背後の森を振り返った。
(……まだ、ついてきている。)
透明化した“何か”の気配は、
王都が見えてもなお、消えることはなかった。
だが、それも単に気のせいかもしれない。
日が沈む頃、一行は王都の外門に到着した。
門番たちはヘンリックの姿を見ると驚き、すぐに道を開けた。
「アーレン、ここからが本番だ。」
ヘンリックが馬上から声をかける。
「はい。気を引き締めます。」
王都の門がゆっくりと開き、
一行は石畳の道を進み始めた。
その背後の森で影がわずかに揺れた。
しかし、誰も気がつくことは無かった…シオリを除いて。
そっと目を閉じ、内響を使う。
「カスミ、道中の護衛、ありがとうございました。
国王のおひざ元では派手に動けないでしょうから、
街の外で待機ということでよろしいですか?」
「わかりました。私意外の者は街の外にて待機させます。
これまで何も起きませんでしたが、くれぐれも油断されぬよう…」
シオリはカスミがいるであろう方向をじっと見つめ、感謝の念を送った。




