第45話 防衛拡大会議
ジュリアンとレムが工房で新兵器の話で盛り上がっていた次の日、
領主の館の一室では、フレドリックと領主ヘンリックが会議中だった。
机の上には荒地と西の森を描いた大きな地図が広げられ、
二人はアーレンが持ち帰った情報を元に、静かに議論を続けていた。
「……やはり、この二か所です。」
フレドリックが地図の上に指を置く。
西の森と荒地の境目である。
すでに荒地は地底人のテリトリーになっていると仮定した上で、
これ以上の侵入を防ぐための措置が必要だった。
「こことここに砦を築き、
見張りと偵察部隊、そして守備隊を置いて、
地底人の動向を常に監視する必要があります。」
ヘンリックは深く頷いた。
「その透明化能力が厄介……
やすやすと侵入してくるかもしれない。
それでも、何もしないよりははるかに良い。
まずは“目”を増やさねばならん。」
フレドリックは腕を組み、地図を見つめた。
「透明化がどれほどの範囲で使えるのか、
どれほどの時間持続するのか……
まだわからぬことが多すぎますな。」
ヘンリックは静かに言った。
「地底人の脅威は、王の耳にも入れねばならん。
そのための準備も進めよう。」
フレドリックは声を潜めた。
「……鬼影の存在については、触れない方がよろしいでしょう。」
ヘンリックも同意する。
「うむ。あれは一応、イオリ殿とシオリ殿の護衛だが、
いかんせん、優秀すぎるので、
国王に余計な疑いを持たれては困る。
まずは王国内で団結し、
地底人に対処できる体制を整えることが先決だ。」
フレドリックは地図を指でなぞりながら言った。
「そのためには、王だけでなく、
有力な領主たちの協力も不可欠です。
ですが……自身の領地の安泰ばかり考えて、
他の領地で起きていることには関知しない、
という方々もいるでしょうね。」
ヘンリックは苦い顔をした。
「平和が長く続きすぎた。
王も領主たちも、戦いというものを忘れてしまっている。
地底人の脅威などと言っても、にわかには信じまい。」
フレドリックは深く息を吐いた。
「それは捕虜を見せれば、地底人が
存在することは理解してもらえるでしょう。
だが、移送中に奪還しようと
襲われる可能性もあります。」
ヘンリックは静かに言った。
「そこは……アーレンに任せるしかあるまい。
彼が行くのであれば、
イオリ殿も同行してくれるだろう。
彼が一緒なら心強い。」
ヘンリックはさらに続けた。
「それから、捕虜の通訳として
シオリ殿も来てもらわないといかんな。
彼女以外に地底人と対話できる者がいない。」
フレドリックは苦笑した。
「そうなると、ジュリアンも同行すると言い出すでしょうな。」
ヘンリックも笑みを浮かべた。
「そうだな。若いというのは良いものだ。」
二人はわずかに笑い合ったが、すぐに表情を引き締めた。
「とにかく砦の建設は急がねばなりません。」
フレドリックが立ち上がる。
「私が指揮を執ります。
兵の配置、資材の調達、工事の監督……
早速取り掛かるとします。」
ヘンリックも立ち上がり、手を差し出した。
「予算の方は心配しなくてよいぞ。
私は王に報告する準備を進めよう。
文書だけでは足りぬ。
証拠と証人を揃え、王にも協力を仰ごう。」
二人は固く握手を交わした。
「この国を守るためにできることをしましょう。」
「ああ、必ず。」
こうして、地底人との本格的な対決に向けて、
地上も静かに動き始めた。




