第44話 地底の新兵器
地底の奥深く、黒い岩壁に囲まれた広間に、斥将ダルガは呼び出されていた。
この場所は、地底社会の支配階級──
神官たちが暮す地底人にとっての聖域である。
地底人の社会は、武力を司る将軍たちよりも、
古くからの教義と魔法を操る神官たちが上位に立つ。
将軍たちは軍事の実権を握っているように見えて、
実際には神官の命令に逆らうことは許されない。
その神官の一人が、苛立ちを隠そうともせずダルガを睨みつけた。
「また成果が上がらぬのか。
どれくらいの偵察部隊を送れば気が済むのだ?」
ダルガは黙って聞いていた。
反論したところで、状況が変わらないことを知っている。
「地上人ごときになぜ手こずる?
お前の部下は無能揃いなのか?」
神官の声は次第に怒気を帯びていく。
「とにかく、さっさと成果を上げるのだ。
侵攻の準備は整いつつあるのだぞ。
これ以上の遅れは許さん!」
ひとしきり怒鳴り散らすと、神官は手を振ってダルガを追い払った。
「下がれ。
お前の顔を見るだけで腹が立つ。」
ダルガは無言で頭を下げ、広間を出た。
通路に出た瞬間、ダルガは拳を握りしめ、
近くの岩壁に思い切り叩きつけた。
鈍い音が響き、岩にひびが入る。
「……くそっ。」
その背後から、落ち着いた声がした。
「兄者、また神官に怒鳴られたのか?」
振り返ると、屈強な体つきの男が立っていた。
機将ドロガ──ダルガの弟である。
「ドロガか。」
「兄者が壁を殴って八つ当たりしているときは、
だいたい神官絡みだな。何があった?」
ダルガは深く息を吐いた。
「地上人に斥候部隊を全滅させられた。
後を追ったが、森に逃げ込まれてしまった。
……これで何度目だ?」
ドロガは眉をひそめた。
「そんなに帰還者が少ないのか?」
「ああ。
このところ被害ばかり増えて、兵力の補充が追いつかん。
神官どもは成果を急かすばかりで、現実を見ていない。」
ドロガは兄の肩に手を置いた。
「兄者の苦労はわかる。
だが、ここでは成果を出さねば生きていけぬのは、
将軍である我々も同じことだ。
……次こそ、うまくやろう。」
ダルガはしばらく黙っていたが、
できることをやるしかない。
「しばらくは兵の訓練を強化する。
同時に、地上の連中に負けぬよう対策を練る。」
ドロガは少し考え込んだあと、ぽつりと聞いた。
「兄者……神官が地上侵攻を言い出してから、
もう何年も経つが……本当にそんな日が来るのか?」
ダルガは目を細めた。
「偵察はうまくいっていない。
弱音ではない。
地底人にとって、地上は天国ではないのだ。」
「太陽のことか?」
「ああ。
あれは我らの活動を大きく阻害する。
昼間の地上は、我らにとって地獄だ。」
ドロガは地上の経験がないため、想像がつかないようだった。
その分、楽天的でもある。
「まぁ、兄者が言うならそうなのだろう。
ところで──兄者が気にしていた、俺の新兵器だが。」
ダルガは目を向けた。
「完成したのか?」
ドロガはにやりと笑った。
「もうすぐだ。
地底の技術と魔法を組み合わせた、我らの切り札になる。
兄者にも、すぐに見せられると思う。」
ダルガは腕を組んだ。
「……期待しているぞ。」
地底の闇の奥で、ドロガの新兵器は静かに完成へと近づいていた。
その驚異的な威力を、地上の者たちが身をもって知るのは──
まだ少し先のことである。




