第33話 レムの新たなる挑戦
グレイフォードの町の中心部。
煤と鉄の匂いが漂う鍛冶屋の前に、レムは立っていた。
扉を開けると、
中では いつものようにガルドが巨大なハンマーで焼けた鉄を叩いていた。
振り下ろすたびに火花が散り、
炉の熱気がむっと押し寄せてくる。
「ガルドさん! ただいま戻りましたー!!」
レムが何度か大声で呼ぶと、
ようやくガルドは手を止め、
汗をぬぐいながらゆっくりと振り返った。
「……レム!?
おいおい、生きてたのか、このバカ弟子!」
レムは笑顔で駆け寄った。
「はい! 無事に帰ってきました!」
ガルドは大きな手でレムの肩を掴み、
ぐっと力を込めた。
「よく戻ったな……
で、どうだった? 何か分かったのか?」
「武器はアーレンさんたちが持っています。
僕が持っていると危険なので……
でも、誰がどうやって作ったのかは分かりました。」
ガルドが腕を組み、身を乗り出す。
「ほう……そこが一番気になってたんだ。
で、誰が作った?」
レムは真剣な表情で続けた。
「地底人です。
特殊な金属というよりも……
魔法で精錬された素材みたいで、
僕たちには再現できません」
ガルドは目を丸くした。
「魔法で精錬……?
そんなもん、聞いたこともねぇぞ……
地底人ってのは、そんな技術を持ってるのか」
レムはさらに続けた。
「それだけじゃありません。
地底人は……体を透明化できるんです。
姿が完全に消えて、
気付いたときにはもう手遅れという感じです」
ガルドは思わず口を開けた。
「なんだそりゃ……
そんなもん、どうやって戦えってんだ」
「…それを大至急考えないといけないのです」
レムは背負っていた荷物から、
東国の鍛冶屋に作ってもらった“自分の発明品の試作品” を取り出した。
「これは……東国の鍛冶屋さんに作ってもらった試作品で、
何かを詰めて、広範囲に撒き散らすための投擲道具 なんです。
中身はまだ決めていませんが、構造だけは完成しています」
ガルドは試作品を手に取り、
重さや仕組みを確かめながら眉を上げた。
「ほう……
中身を入れて撒き散らすのか。
どう使うのかはよく分からんが……
面白ぇ道具だな」
レムは頷き、
試作品の図面を広げた。
「でも……旅の途中で相手の透明化を見てしまって……
とにかく、あれを見破る手段を考えたいんです。
この図面はもともとこの投擲道具の設計図なんですが……
応用すれば、透明化対策にも使えると思うんです」
ガルドは図面をじっと見つめ、
しばらく黙り込んだあと、深く頷いた。
「……よし。
鍛冶屋ギルドにも協力させよう。
俺がまとめてやる」
レムの顔がぱっと明るくなる。
「本当ですか!?」
「当たり前だ。
弟子の頼みだしな。
ただし――」
ガルドは指を一本立てた。
「問題は資金だ。
材料費も人手もタダじゃねぇ。
まずは少数だけ作って、
実戦で効果を証明する必要がある」
そして、にやりと笑った。
「効果があると分かりゃ、王侯貴族がこぞって注文してくるだろうよ。
そうなりゃ資金面の心配なんざ吹き飛ぶ。」
レムは少し驚いたように目を瞬いた。
「そ、そんなことまで考えてるんですか……」
ガルドは肩をすくめた。
「当たり前だ。
鍛冶屋ってのはな、
“いいもん作る”だけじゃ務まらねぇ。
どうやって世に出すかまで考えて一人前だ」
レムは迷わず言った。
「……少しでも皆さんのお役に立ちたいんです。
だから、いざとなったら僕自身が試します。」
ガルドは驚き、そして苦笑した。
「バカ言え……
お前は鍛冶屋だぞ」
レムは静かに首を振った。
「でも……僕が作った道具です。
僕が責任を持ちたいんです。
それに……僕には仲間がいます。
アーレンさんも、ジュリアンさんも、イオリさんも……
シオリさんも……
みんながいますから」
ガルドはしばらく黙っていたが、
やがて大きく息を吐いた。
「……強くなったな、レム。
分かった。
お前の覚悟、受け取った」
その夜、
レムは旅の出来事をガルドに語った。
白鷺の町のこと。
鬼の一族のこと。
地底人との戦い。
仲間たちとの絆。
ガルドは時に笑い、
時に驚き、
時に黙ってレムの話を聞いた。
「……お前、本当に立派になったな」
レムは照れくさそうに笑った。
「まだまだですけど……
少しでも、皆さんの力になりたいんです」
ガルドは酒瓶を取り出し、
二つの杯に注いだ。
「じゃあ、鍛冶屋としての“本当の修行”を始めるか」
レムは杯を受け取り、
笑顔で頷いた。
「はい!」
こうして、
レムとガルドの夜は、
更けていった。




