第32話 捕虜の処遇
地下牢には、
鎖でつながれた地底人が座っていた。
アーレンが牢の前に立つ。
「こいつはもう観念してる。
だから……もう少しマシな扱いをしてやってくれ」
フレドリックは了解した。
「分かった。
必要以上に苦しめるつもりはない」
アーレンはさらに続けた。
「それと……
敵の偵察部隊がまた来るかもしれない。
こいつを守ってやってくれ。
まだまだ聞きたいことがある」
ヘンリックも真剣な表情で言った。
「警備を強化しよう。
この者は、我々にとって重要な“証人”だ」
捕虜は怯えながらも、
シオリの姿を見ると少しだけ落ち着いた。
シオリは静かに微笑む。
「大丈夫です。
この人たちはあなたを傷つけるつもりはありません」
地底人は小さく頷いた。
捕虜の地底人は相変わらず
「ヒュ……ヒュルル……」
と小さな囁き声のような音を出していた。
フレドリックは眉をひそめる。
「アーレン……こいつ、息が苦しいのか?
呼吸が変じゃないか?」
アーレンは苦笑した。
「いや、親父。
これが地底人の“言葉”なんだよ。
俺たちにはただのヒューヒューに聞こえるけどな」
フレドリックは目を丸くした。
「なんと……これが言葉……?
では、どうやって情報を聞き出せばよいのだ」
当然の疑問だった。
シオリが一歩前に出て、
静かに言った。
「大丈夫です。
私が……この人の心を読めますから」
フレドリックとヘンリックは驚き、
そして安堵の表情を浮かべた。
「心を……読めるのか……?」
「それならば、言葉の壁は問題にならんな」
アーレンも誇らしげに言う。
「シオリは、特別なんだ。
地底人の思念まで感じ取れる」
捕虜の地底人は、
シオリを見ると身をすくませた。
「……神官……級……
心……全部……見える……」
シオリは優しく微笑む。
「怖がらなくて大丈夫です。
あなたを傷つけるつもりはありません」
フレドリックは深く息を吸い、
捕虜に向き直った。
「聞きたいことは多い。
まず――
お前たちは、どのルートで地上に来る?」
シオリが地底人の思念を受け取り、
通訳する。
「……荒地の裂け目……
そこから……地上へ……」
ヘンリックが頷く。
「やはり、あの荒地か……」
フレドリックは続けた。
「では、軍の規模は?
どれほどの兵が地下にいる?」
地底人は少し困ったように目を伏せた。
「……分からない……
自分……一兵士……
大きな部隊……見たこと……ない……
ただ……多い……
とても……多い……」
シオリが補足する。
「“正確な数は知らないが、
とても多い”そうです」
フレドリックは腕を組んだ。
「補給はどうしている?
地上に出てくるには食料が必要だろう」
「……地下……食料……
キノコ……根……エビ……
地上……キノコと草……動物…ハンター獲る」
ジュリアンが小声で言う。
「地底エビって……本当にいるのか……」
アーレンが苦笑した。
「食べてみたいような、みたくないような……」
フレドリックは重い表情で言った。
「……分かった。
この者が知る範囲では、
大規模な情報は得られん」
ヘンリックも頷く。
「しかし、侵攻の可能性は高い。
ならば――
こちらも偵察部隊を出して、
地底人の動向を探らねばならん」
アーレンが言う。
「親父、俺も行く。
ただ、あいつらの透明化……
あれを見破る方法を考えないと、
戦いにならない」
ジュリアンも真剣な表情で言った。
「わたしも協力します。
これは……王国全体の問題です」
フレドリックとヘンリックは
捕虜の処遇について話し合った。
「フレドリック、この捕虜だが・・・」
「差し当たって危険性はないかと思われます。」
「そうだな、このまま詰め所に置いておこう。
兵士たちにはくれぐれも虐待などせぬように
命令をしておいてくれ。」
「わかりました」
そのやり取りを聞いていた
シオリは捕虜に向き直り、
優しく言った。
「この人たちは
あなたに対し敵意はありません。
心配しなくても大丈夫ですよ・」
捕虜は小さく頷き、
「……ありがとう……」
と心の中で呟いた。
シオリには、その“意味”がはっきりと伝わった。




