第28話 地底人との対話
捕らえた地底人は、
縄で縛られたまま部屋の隅に座らされていた。
アーレンが灯りを近づけると、
その姿がはっきりと見えた。
全身は黒い、見慣れない素材の鎧で覆われている。
金属でも革でもない。
岩のように硬そうで、
しかし動きやすそうな不思議な質感だ。
頭には顔のほとんどを覆うぐらいの
フードマスクをかぶっていたが、
食事を与えるために外させた。
地底人の素顔をみたレムは思わず息を呑んだ。
(……人間と……そんなに変わらない……)
黒目がちで大きな瞳。
血の気をほとんど感じない、青白く透き通るような肌。
耳はわずかに尖っているが、
鼻も口も人間とほとんど同じ。
髭は薄く、
髪は伸びるまま後ろで束ねている。
適当に切っているのか、ところどころ不揃いだ。
(……肌の色を隠せば、
道を歩いていても気づかれないかもしれません……
いや、ちゃんと風呂に入れば……
美男子って言われるかもしれません……)
体つきは引き締まっており、
しなやかな筋肉が見て取れる。
ただ、地下で暮らしているせいか、
前かがみの姿勢が癖になっているようで、
立っていても少し背を丸めていた。
地底人は、
シオリを見たりアーレンを見たりしながら、
何度も同じ質問を繰り返していた。
「……これから……私を……どうする……?」
シオリが通訳する。
「“これから自分をどうするつもりだ”と、
しきりに聞いています」
アーレンは腕を組んだ。
「これ以上傷つけるつもりはない。
ただ、お前の話を聞きたいだけだ。
だから、グレイフォードに一緒に来てもらいたい。」
地底人は首を振った。
「……無理……
連れて行けば……途中で……殺される……
仲間が……見張っている……」
シオリが眉を寄せる。
「……彼は、
“グレイフォードまで連れて行くのは無理だ”と言っています。
途中で仲間に始末される、と」
ジュリアンが険しい顔になる。
「では、どうすればよいと?」
地底人は、
アーレンの持つ“へんてこな武器”をあごで指さした。
「……それ……返せば……終わる……
だが……お前たち……知りすぎた……
全員……生かさない……」
シオリが静かに訳す。
「“武器を返せば終わるかもしれないが、
あなたたちは知られてはならないことを知ってしまった。
だから、生かすつもりはないだろう”……と」
アーレンは深く息を吐いた。
「……つまり、返しても返さなくても、
襲われるってことか」
イオリが頷く。
「でござるな。
ならば、捕虜を連れていくしかござらぬ」
アーレンたちは急ぎ馬車を手配し、
捕虜を縄で縛ったまま座らせた。
地底人は不安げに周囲を見回している。
「……来る……
仲間……来る……」
シオリはそっと肩に手を置いた。
「大丈夫です。
私たちが守ります」
地底人はその言葉に、
ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
翌朝、
まだ薄暗い時間に、
一行はセイランの町を出発した。
宿を引き払う際に、地底人が壊した
窓の修理代もきっちり請求された。
ジュリアンは渋々支払った。
その姿を見た一行は心の中であやまった。
馬車の中では、
捕虜の地底人が静かに座っている。
イオリは馬上で周囲を見渡し、
低く呟いた。
「……気配がするでござる」
シオリも頷く。
「はい……
誰かが……ついてきています……
複数……」
レムは背筋が冷たくなるのを感じた。
(……やっぱり……
地底人の仲間が……)
アーレンは剣の柄に手をかけた。
「来るなら来い。
だが――
こっちも簡単にはやられんぞ」
馬車は西へ向かって進む。
グレイフォードまでの道のりは長い。
そして、
地底人の影は確実に近づいていた。




