第13話 鬼邑の里 ― 鍛冶の神が遺したもの
白鷺の町に到着した翌日、仲間たちは久々の休息に胸を弾ませていた。
だが、イオリとレムだけは違う。
魔物の武器の謎を追うため、二人は観光を離れ、鍛冶の町・白鷺の中心へと向かう。
金属を打つ音が響く通り、並ぶ農具や武具、そして職人たちの熱気。
その奥にある“鬼邑の里”には、
古くから鍛冶の神を祀る祠があり、
そこには“神器”と呼ばれる短剣が眠っているという。
魔物の武器と神器の金属は、驚くほどよく似ていた。
そして番人の老人が語ったのは、
「その鍛冶師は島の者ではなかった」という謎めいた言葉。
二人は気づく。
これは偶然ではなく、
“何か大きな流れ”の始まりなのだと。
翌日、ジュリアンの提案で、しばらくこの町に滞在し、
観光でもしようという話になった。
シオリは案内役として張り切っており、
他の仲間たちも久々の休息に心を弾ませている。
だが、イオリだけは違った。
「皆が休む折、我らばかり遊んでおるわけにも参りませぬ。
レム殿、よろしければ共に参りませぬか。
武器の件、少しでも手がかりを得とうございます」
真面目な声音でそう言われ、
観光などにさほど興味の無かったレムは思わず顔を明るくした。
通訳がいなければ情報収集は難しい。
イオリが同行してくれるのは願ってもないことだった。
「もちろん!イオリさんが一緒なら百人力ですよ!」
二人は宿を出て、白鷺の町の中心へと歩き出した。
白鷺の町は鍛冶の町でもある。
通りを歩けば、どこからともなく金属を打つ音が響き、
店先には武器だけでなく、農具やアクセサリー、船大工道具がずらりと並んでいる。
レムは興奮を隠しきれず、あちこちの店を覗き込んでしまう。
「レム殿、はぐれませぬよう。ここは職人の町、迷えば戻るのも一苦労にござる」
イオリが苦笑しながら注意すると、レムは照れたように頷いた。
「す、すみません…つい」
イオリはふと、以前聞いた話を思い出した。
「あの武器、形状は鎌に似ておりましたな。
農具を扱う鍛冶屋にて、何か聞けるやもしれませぬ」
「なるほど…農具から辿るわけですね!」
二人は農機具専門の鍛冶屋を探し、町外れの店に入った。
店主は腕の太い、豪快な職人だった。
「ほう、見せてみな」
レムが例の武器を見せると、店主は眉を上げた。
「こりゃあ…デカい鎌だな!
こんなもん振り回す農家はいねぇよ。
ここらじゃ作るやつなんていねぇな」
レムは肩を落とした。
「…やっぱり、ただの偶然なのかな…」
イオリは責任を感じたように、きゅっと拳を握った。
「いや、まだ諦めるには早うござる。
せっかくここまで参ったのだ、
何かしら手がかりを得ねば面目が立ちませぬ」
店主は二人の様子を見て、ふと思い出したように言った。
「そういや白鷺の鉱山の近くに、鍛冶の一族がいたな。
鬼邑って呼ばれてる連中だ。
あいつらなら、こういう妙な形のもんにも詳しいかもしれん」
イオリの目がわずかに動いた。
「…鬼邑。
その名、聞き覚えがございます。
鉱山の傍らに住まう鍛冶の一族…
彼らならば、何か知っておるやもしれませぬ」
レムは顔を上げた。
「行ってみましょう、イオリさん!」
イオリは力強く頷いた。
「うむ。参りましょう、レム殿。
鬼邑の者らならば、あの武器の素性を知っておるやもしれませぬ」
こうして二人は、白鷺の町を離れ、
鉱山の麓に住むという“鬼邑一族”の鍛冶場へ向かうことになった。
白鷺の町から北へ少し歩いた先に、小さな谷間へと続く道がある。
その奥に広がる集落こそが、白鷺の人々が「鬼邑の里」と呼ぶ鍛冶の村だった。
谷に入った瞬間、レムの耳に金属を叩く乾いた音が飛び込んでくる。
カン、カン、カン――。
あちこちの作業場から火花が散り、赤く焼けた鉄が振り下ろされる槌のたびに形を変えていく。
レムは目を輝かせ、まるで子どものように周囲を見回した。
「す、すごい…! こんなに鍛冶場が密集してるなんて…!」
イオリはそんなレムの横で、静かに頷いた。
「さすがは白鷺の近くに住まう鍛冶の一族にござるな。
腕の立つ者が多いと聞き及んでおりました」
集落の中央には、店のような建物がいくつか並んでいた。
二人はそのうちの一軒に入り、情報収集を始める。
イオリはすぐに現地語で店主に話しかけた。
レムは心の底から感謝した。
(イオリさんがいなかったら、絶対に話が進まなかった…!)
店主はレムが持ってきた武器を手に取り、しばらく眺めたあと、眉をひそめた。
「農機具ならいくらでも作ってるが…
こんな形の武器は、うちの里じゃ作らねぇな。
だがよ――」
店主は武器の刃を指で軽く叩き、金属の響きを確かめる。
「この金属、どこかで見た覚えがあるんだよ。
色といい、質感といい…あれに似てる」
イオリが身を乗り出す。
「“あれ”とは、何でござる?」
店主は店の外を指さした。
「里の鍛冶の神さまを祀ってる祠があるだろ。
そこに“神器”って呼ばれる短剣が納められてる。
あれに使われてる金属と似てる気がするんだ」
レムの目が大きく開いた。
「神器…!」
「ただし、普段は見せられねぇ。
だが今日は運がいい。
祭りの準備で手入れをしてるはずだ。
番人に頼めば、眺めるくらいはできるだろうよ」
祠は集落の奥、小高い岩場の上にあった。
番人の老人は最初こそ渋ったが、イオリの丁寧な言葉に心を動かされたのか、
「触らなければ」という条件で短剣を見せてくれた。
短剣は布を敷いた台座の上に置かれていた。
刃は青白い色で、光を吸うような深い艶がある。
レムは魔物の武器をそっと傍らに置き、材質を見比べた。
「…色も、質感も…ほとんど同じだ…!」
イオリも静かに頷く。
「確かに、似ておりますな。
この短剣、どこで作られたものか…」
レムは番人に向き直り、思わず声を上げた。
「この短剣は…どこで作られたんですか?」
老人はしばらく短剣を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「…それがな。
この短剣を作った鍛冶師は、おそらくもうこの世にはおらん。
いや――そもそも“島の者ではなかった”と言われておる」
レムとイオリは同時に息を呑んだ。
レムとイオリが次にどこへ向かうのか、
神器の鍛冶師とは何者なのか、
物語はここからさらに深い謎へと進んでいく。




