第14話 鬼邑の長老
レムとイオリはへんてこな武器の謎にせまれるのか?
神器のルーツを知る鬼邑の長老とは?
物語は少しずつ前に進んでいきます。
老人は続ける。
「昔、この里に“奇妙な者”が流れ着いたそうじゃ。
肌が白く、目が大きく…
まるでよその世界から来たものような姿だったと伝わっておる」
レムの背筋に冷たいものが走った。
(…魔物?)
イオリは静かに短剣を見つめたまま、低くつぶやいた。
「この地で…何があったのでござろうな」
鬼邑の里で“神器”の短剣を見せてもらったあと、
レムとイオリはさらに情報を求めて、里の人々に話を聞いて回った。
「島の伝説に詳しい者なら、長老様だろうな」
「百歳を超えてるって話だぞ」
「鬼邑の歴史は全部あの方が知ってる」
誰に聞いても同じ答えが返ってくる。
レムは思わずイオリを見る。
「百歳…そんなに長く生きてる人がいるんですね」
イオリは静かに頷いた。
「長く生きる者ほど、言葉より重き記憶を持つものにござる。
お会いできれば、何かしら得られましょう」
二人は長老の屋敷へ向かった。
里の中央には、他の家々とは比べものにならないほど大きな屋敷が建っていた。
瓦屋根は重厚で、庭には古い松が枝を広げている。
しかし、静かな外観とは裏腹に、屋敷の奥からはひっきりなしに金属を打つ音が響いていた。
カン、カン、カン――。
レムは思わず耳を澄ませる。
「ここでも鍛冶を…?」
イオリは微笑を浮かべた。
「鬼邑の者にとって鍛冶は呼吸と同じ。
長老様とて例外ではござらぬのでしょう」
門の前にいた家人に声をかけ、長老に会いたい旨を伝える。
最初は警戒していた家人だったが、イオリの姿を見るなり、表情が和らいだ。
「…あなた様は、武家の方で?
その家紋…小島家の方ですね。
ならば、長老様もお会いくださるでしょう。
どうぞ、こちらへ」
イオリは深く頭を下げた。
「かたじけない」
レムも慌てて頭を下げる。
案内されたのは屋敷の裏庭だった。
縁側に面した庭はよく手入れされ、苔むした石灯籠が静かに佇んでいる。
その縁側に、ひとりの老人が腰を下ろしていた。
白髪は肩まで伸び、背筋は驚くほどまっすぐ。
しかしその表情は柔らかく、膝の上には小さな子猫が丸くなっていた。
老人は湯呑を片手に、子猫の頭を優しく撫でている。
「…ああ、客人か。
すまんのう、ちょうど茶の時間でな」
レムは思わず息を呑んだ。長老らしき人物だが、
しわくちゃの顔とは似つかわしくないほど
腕の筋肉が発達している。
(…この人が百歳を超えてるなんて…信じられない)
イオリは静かに膝をつき、深く頭を下げた。
「鬼邑の長老殿。
拙者、イオリと申す。
この度は、こちらの武器についての
お知恵を拝借したく参上いたしました」
老人は目を細め、イオリをじっと見つめた。
「…なるほど。
その礼節、その眼差し…
お主、確かに小島の者じゃの」
子猫が「にゃあ」と鳴き、老人の膝で伸びをした。
老人はゆっくりと湯呑を置き、二人に向き直る。
「よかろう。
おぬしたちが調べておる“武器”とやら…
わしにも見せてくれんか」
レムとイオリは、思わず顔を見合わせた。
長老はレムが差し出した武器を、しばらく無言で眺めていた。
刃の角度、金属の色、光の反射具合―
その目は百年を生きた者の静かな洞察に満ちている。
やがて、老人は短く息を吐いた。
「…やはり、似ておるな。
里の神器の短剣と、まったく同じ“匂い”がする」
レムは身を乗り出した。
「やっぱり…! この金属、同じなんですね!」
老人はゆっくりと頷き、縁側に置いた湯呑を手に取った。
「では、話してやろう。
この神器が、いかにして鬼邑の里に来たのかをな」
イオリは姿勢を正し、深く頭を下げた。
「長老殿、何卒お聞かせ願いたい」
老人は子猫の背を撫でながら、静かに語り始めた。
「わしら鬼邑家の長はな、
代々“先祖の記憶”を受け継いでおる。
流れている血に刻まれた物語を、
幼き頃から聞かされて育つのじゃ」
老人は続ける。
「この神器が里に来たのは、もう百年以上も昔のこと。
大島に住む鬼島家の者が、
“古代の技術で作られたものだ”と言って贈ってくれたのじゃ」
レムの目が大きく開く。
「古代の…技術…?」
「うむ。
鬼島家の者も、詳しいことは語らなんだがな。
この青白く光る短剣は、どうやら“特別な金属”で作られておるらしい。
わしら鬼邑の鍛冶師も、何度も再現を試みたが…」
老人は首を横に振った。
「肝心の材料が足りなんだ。
何が足りぬのか、わしにはわからん。
だが“地上には存在しない何か”なのかもしれんのう」
レムは少しがっかりした。彼が知りたかった答えはこの里にはなさそうだ。
イオリは静かに問いかける。
「長老殿。
この武器も、鬼邑の手によるものではない…
そう見てよろしいのでござるな?」
老人は力強く頷いた。
「そうじゃ、これは鬼邑の鍛冶ではない。
だが、鬼島家ならば何か知っておろう。
あやつらは“古いもの”に詳しいからな」
レムはイオリを見る。
「…鬼島家に行くしかない、ってことですね」
イオリは静かに立ち上がった。
「うむ。
大島へ向かい、鬼島家の者に話を聞くといたそう」
老人は紙と筆を取り出し、何かの印のようなものをささっと描いて、イオリに手渡した。
「これを持っていけ。
わしからの紹介状じゃ。
鬼島家の者も、これを見れば会ってくれよう」
イオリは深く頭を下げた。
「かたじけない、長老殿」
その日のうちに二人は宿へ戻り、翌朝の船に乗る準備を整えた。
白鷺から大島へは定期船が出ており、航路は穏やかだ。
アーレンたちは異国情緒を満喫しているらしく、
その日発見したことを嬉しそうに話してくれた。
ジュリアンはシオリと一緒にあちこち回ったものの、
実際は彼女の事ばかり見ていたようだ。
シオリもまんざらではなかったのかもしれない、
嫌がる様子もなかった模様。
レムはただ歩き疲れていた。
イオリはジュリアンがシオリを見る目に少々不快感を抱いていたが、
あえて何も言わなかった。
翌日――。
レムとイオリは問題なく大島へ到着した。
そこは白鷺とはまったく違う、広大な畑と山々に囲まれた島だった。
そして、鬼島家の領地はその中心にあるという。
レムは胸の高鳴りを抑えきれなかった。
(…いよいよ、この武器の正体に近づける…!)
イオリは静かに前を見据えた。
「参ろう、レム殿。
鬼島家が何を語るか…
首尾よくいけば、この旅の答えとなりましょうぞ」
ついに二人は白雲諸島最大の島に向かうことになりました。
そこではどんな出会いが二人を待っているのでしょうか?




