36.水晶の守り
「魔術大会か……」
夜になり自分の部屋に戻った僕は、家族のことを考えていた。
「魔術大会の決勝なら、きっと父上や兄上たちだけじゃなくて母上も来るよね」
ひょっとしたら、こっそり母上に会えるかもしれない。
「あ、そうだ」
ふと、思いだしたことがあり『世界の理』を開いた。
「母上にプレゼントできそうなものがあったよね……」
ページを繰っていくと、水晶のお守りの作り方が目に入った。
水晶のお守りは、身に着けると病気や怪我から守ってくれると書いてある。
「これだ! 母上にあげたら喜んでくれるかな?」
尊大な父上や兄上たちに囲まれて一人で耐えている母上の事を思うと、一人で逃げ出したことが後ろめたい。せめて、母上を守ってくれる何かがあれば……ほんの少し安心できる。
「水晶のかけらを月光に照らされた水で清めて魔力を込めるのか。……水晶のかけらって買えるのかな?」
水晶のかけらは、前に雑貨店で見たような気がする。
ただ、手持ちのお金はわずかだから買えないかもしれない。
「まずは、値段を確かめなくちゃ」
僕は明日の昼休憩の時間に雑貨店に行くことにした。
***
午前中の仕事が終わり、昼休憩になるとすぐデニスに尋ねた。
「お疲れ様です。ちょっと用事があるので外に出ていいですか?」
「は? 用事ってなんだよ?」
デニスが高圧的な口調で言った。
「雑貨店に行きたくて」
「休みの日に行けばいいだろ?」
「……それだと間に合わないので。デニスさんも時々休憩時間に出かけますよね?」
「俺と一緒だと思ってるのか? 新入りのくせに図々しいな」
教育係のデニスの許可が無いのに外に出ることはできない。どうしよう。
良い考えが浮かばず立ち尽くしていると、僕を睨むデニスに気づいたビルが助け舟を出してくれた。
「メルヴィン? 雑貨店に行くならインクを一瓶買ってきてもらえる?」
「はい! 行ってきます!」
ビルに軽くお辞儀をし、財布を手にして外に向かう。デニスの舌打ちが聞こえた。
にぎわう昼間の町を駆け抜け、雑貨店に向かう。
店に着き、並んだ商品から水晶のかけらを探した。
「あ、あった。値段は……銀貨一枚!?」
銀貨一枚ということは銅貨だったら五十枚必要だ。
青のポーションを三つ作ればお金は工面できるけれど、毎日青のポーションを作ったら魔力が枯渇してしばらく寝込んでしまうだろう。それは困る。
水晶のかけらをじっと見つめていると、声をかけられた。
「あんた、また仕事さぼってるの?」
声の主は顎を上げて冷たい目で僕を見ている。
「エイミー!?」
「悠長にお買い物?」
「お使いを頼まれたんだよ」
「水晶のかけらを買って来いって?」
エイミーがとげのある声で言う。
「違うよ」
僕はエイミーとの会話を断ち切り、店の奥に声をかけた。
「おばさん、インクを一つ下さい」
僕はインクを受け取りおばさんにお金を渡す。買い物を終えると、また水晶のかけらに目をやりため息をついた。
「水晶のかけらが欲しいの? なんで?」
エイミーが首をかしげる。
「水晶の守りを作りたいんだ」
「水晶の守り?」
エイミーの探るような視線から目をそらし、僕は早口で答える。
「病気や怪我から持ち主を守ってくれる、お守りだよ」
「ふうん」
エイミーは少し考えた後で言った。
「ねえ、水晶の守りを私にも作ってくれるなら、水晶のかけらを拾える場所を教えてあげてもいいわよ」




