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破滅した世界の内側で  作者: めーや
30/35

束の間の幸せ


「ほら!もっと泣けよ!やめてくださいって、殺さないでって鳴いて見せろよ!」


その言葉と共に千咲が雪月(ゆづき)へ向かって鎖を振り下ろす。


「いやぁ”!!いだい……!いだいよぉ……誰か…たすけて……」

「お前みたいなクズ誰も助けねぇよ!!……っと、あっちは終わったのか。案外早かったじゃない」


掠れた声で助けをこう雪月へ嬉々として鎖を振り下ろす千咲であったが、仁から任務完了の報告が来た為[破魔の鎖]を手放し空間魔法を発動し、移動中に突然飛ばされた事で体制を崩した仁を見てまた愉快そうに嘲う。


「あっははははは!お前覚醒者のくせしてこの程度でバランス崩すとか流石に無様過ぎんだろ!」

「悪か…って臭!血生臭過ぎんだろ!俺が仕事してる間に何してんだよご主人」


周囲に散らばった肉片や苦痛に歪んだ顔をした死体と体に染みるほど濃い血の匂いに思わず顔を歪めて声を発する仁。

その死体の中には見知った顔のものもありますます眉間に皺が寄る。


(死体の数は七体……おいおいこの顔景虎と伊織だよな?何で12席次とその御付きの人間が殺されてんだよ。つか雪月まで殺されそうだし。御乱心ってやつかね?こりゃあ)


「何って、アルラルトみたいに12席次のくせして私に不満を持ってたり逆らおうとしてたゴミ共をお掃除したの。でも地上階の広場で晒し首にするとしたら机に二個づつ首を置くとして一つだけ余っちゃうでしょう?だから役立たずのコイツ(雪月)を数合わせで殺す途中なの…よ!」

「い”!!……もうやめてよぉ…痛いのやだよぉ……」


(………はぁ…)


黙って雪月が嬲り殺されるのを見届ける事が出来ない自分に嫌けをさしながら必死に言い訳を考えて口を開く。


「そこのバニーガールの腹にいる胎児を合わせれば八つじゃねぇか」

「は?」


唐突に口にされた仁の言葉に、あの千咲が思わず一瞬呆けてしまう。


「っははははははははははは!!!最高かよお前!いいね、そうしましょう。…あぁでも、この胎児はコイツ(景虎)コイツ(伊織)の間に置きたいわね……じゃあやっぱり…」

「んじゃあ机を三角形状に配置してその中央に槍をぶっ刺してその槍に一つ飾るのはどうだ?芸術点高いと思うんだが…」

「……貴方、そんなにこの女を助けたいの?」

「ぃや……助けて………」


雪月の首筋に剣を立て薄皮を切りながら挑発する様に仁へ問いかける。


「まぁな。俺も男の子だから、可愛い女の子が殺されるのを黙って見る事はできないかなぁ」

「そう言われるとますます殺したくなっちゃうけど……私自分のペットには優しいから特別に貴方にあげちゃう。ほら、感謝しなさい」

「ははは、ありがたき幸せ」

「でもこんな女の何処がいいんだ?あーそういやお前、ガキとキスしてたしそういう趣味でもあんのか?」

「別にそういうわけじゃねぇよ。男って顔が可愛い女の子の前じゃ見境なくカッコつけたくなる生き物なの」

「は?お父様がそんな低俗な人間な訳無いじゃない。ぶっ殺されたいの?」

「そりゃ申し訳ござーせんした」

「……まぁいいわ。じゃあ私はコイツ等の頭洗って繕ってから広場に飾りに行くから、お前は私の部屋以外でその女と乳繰り合ってれば?」

「しねぇーよんな事。つか俺が運んでた人質達は?」

「死刑囚、な?アイツ等は着替えさせて牢屋にぶち込んであるわよ」

「仕事がお早いこって。んじゃあ後で俺に瞬殺されたクソ雑魚に煽りに行っていい?」

「好きにしなさい」


その言葉と共に千咲の姿が消える。

峠は越えたか、と一息つきうずくまって泣いている雪月に近づき治癒魔法をかける。

何か声をかけようかとも思ったが今はそっとしておこうと考え直し、雪月の隣に座って泣き止むのを待つ。


「どうして……僕を助けたの?」

「あ?そりゃお前、助けない理由がねぇからだよ」

「でも、僕仁にかけた魔法解いてないし…」

「あぁそういやそうだったな。だがまぁその程度どうだっていいだろ。それよかちゃんと俺以外の奴にかけた魔法を解いた事を評価するね、俺は」


あった当初から随分とネガティブ思考な雪月に出会ったばかりの真衣を思い浮かべついつい頭手をおいてしまう。


「僕、色んな人苦しめたんだよ?何で優しくするの?」

「はははっ、そーれ言ったら俺なんざ人殺しの誘拐犯だぞ。そんな屑からすれば完璧超人やら聖人やらより、欠点だらけの馬鹿や一人じゃ何も出来ねぇ様な弱者の方が可愛く思えんだよ」


白銀の髪や絹の様な肌を見ると寒い拷問室がより一層寒く感じられ、そこで漸く雪月が恐怖で震えているのではなく、鎖で叩きつけられたせいで服が酷く破けそれにより寒くて震えていることに気がつきその背に自らの羽織をかぶせる。


「ここじゃさみぃだろ、一度風呂にでも入って服も着替えようぜ?」

「おんぶ」

「はいはい、ほれ」


真衣より身長が高い筈なのだが、おぶった雪月は真衣よりも軽く感じられる。

ちゃんと食事をしているのかと心配になるが、ふと思い返せば世界改変前の自分の食生活もかなり酷かったなと改変前から今までの食生活を振り返る。

啓文達と別れてからまた殆ど食事を取らない生活に戻っている事から、やはり彼等の存在は自分に大きな影響を与えているのだなと一人染み染みに実感していると、雪月に妙な質問をされた。


「仁ってさ…か、彼女とか、いるの?」

「は?馬鹿お前さん、俺はやめときな。雪月なら俺なんかより数百億倍いい男と付き合えるから変なこと考えてんなら思い直せ」

「それと似た事、今まで告白してきた女の子全員に言ってるでしょ?」

「え…まぁそれは置いといて、本当にやめた方が良いぞ。一時の気の迷い、吊り橋効果か何かで脳がバグってんだよ」

「それでも良いよ。それでも良いから、一番は僕じゃなくて良いから……僕の事は好きにならなくても良いから………側にいて少しで良いから優しさを頂戴」


心理効果無しに恋愛感情など抱いていないのかもしれない。ただこれ以上不幸にならない為のお守りとして使いたいと思っているだけなのかも知れない。

その事を口に出せば雪月が傷つくかもとも思ったが、言わなければならないだろうと口にする。


「俺が近くにいてもお前は幸せになんかならないと思うぞ。幸せになりたいんなら、もっと違う方法を探しな」

「そんな事言うなら助けないでよ……いいじゃんか…少しくらい、ちょっとくらい幸せを感じさせてくれても」

「うぐっ……」


(確かに助けたなら助けた後のアフターケアも必要か。それがなきゃ唯の自己満足になるし場合によっては加害者よりタチが悪い…)


もっと強い口調で淡々と突き放せば良いものを、無駄な事を考えているから面倒な事になる。それを仁が理解しているかは定かでないが、このままでは苦労が増すことになるのは確実だろうし、千咲からのあだ名に浮気野郎が追加されるのも目に見えている。


「ほれ、風呂ついたぞ」

「………。」

「降りろー」

「……やだ」

「何で」

「いなくなっちゃうかもしれないから…」

「ならねぇよ……はぁ…まぁ、そいつの人生背負う覚悟がねぇなら人助けなんかすんなって意見も一理あるしな、お前が気が済むまで一緒にいてやるから体洗ってゆっくり湯船に浸かってこい」

「本当?」

「多分本当。でも俺何処まで行っても悪人だから補償はしない」

「…馬鹿、そこは本当っていってよね」

「悪いね、俺そんなに男らしくない人間なんで」


溜息をつき渋々と言った様子で背中から降りる雪月に服はどうするか聞く。


「仁の服でいいよ。僕インベントリに服とか入れてないし」

「下着は?」

「汚れてるのつけたくない。それに男性物の下着は楽だって聞いたことあるから興味ある」

「あっそう。まぁお前さんが良いならいいけど。んじゃゆっくり湯船に浸かるんだぞ」

「んー」


雪月と別れた仁も血塗れの床に座ったり血だらけの雪月をおぶったりして汚れているのでさっとシャワーだけ浴びに自室の浴槽から千咲の部屋の浴槽へ向かう。

勝手に使ったとなれば怒られそうなので当分戻ってこないだろうと思いつつなるべく早くシャワーを終え雪月用の服を用意して洗面所兼脱衣所に置いておく。


それから暫く啓文からもらった【ブレサリ大辞典】なる本を読んでいると、雪月が隣に座ってきた。


「ん?はは、すごいダボダボだな」

「でも下着は聞いてた通りこっちのが楽」

「あそう。そりゃ良かったな」

「………ね、ねぇ…」


緊張した様な声をかけてくる雪月に少々身構える仁。


「どした?」

「ひ、膝枕…して?」

「構わんぞ」


そう言うとぎこちなく頭を乗せてくる雪月に思わず苦笑してしまう。


「ねぇ」

「ん?」

「頭撫でて」

「ん」


左手に持っていた本を右手に持ち替え雪月の頭を撫でる。

頭を撫でられる事の何が良いのかさっぱり理解できない仁だが、この程度の事やれと言われればやった方が角が立たないし良いだろうと何も言わずに従う。


「ねぇ」

「今度は何だよ」

「手、握って」

「注文が多い奴だな…」


そう言いつつもインベントリに本をしまい右手で雪月の手を握る仁に、雪月は嬉しそうに笑みを向ける。


「ねぇ仁」

「何だー?」

「僕今凄い幸せ」

「安い女だな」

「そうだよ?僕と付き合っても重くなくて楽だよ?」

「重いかどうかは別問題だろ。お前基本ネガティブだろうし」

「うぐっ……」


否定できず目を逸らす雪月に「そうだ」とインベントリから取り出したクッキーを口に近づける。


「食うか?」

「食べる。仁の手作り?」

「な訳ねぇだろ。料理なんざ全くできねぇよ」

「あ、なら今度私が手料理作ってあげる」

「へぇ、んじゃ楽しみにしとく。そら口開けろ。あ、アレルギーとか無いよな?」

「無いよ。あーん…(んぐんぐ……ごくん)…美味しい」

「そりゃ良かったな」


気に入ったのか口を開けて「あー」とねだってくる口に次々とクッキーを投入していく。

それ程数があったわけでも無いのでそうな時間もかからずクッキーはなくなったが、雪月は満足してくれた様だ。


「……眠くなってきた…」

「そうか、俺の事は気にせず存分に昼寝しな」

「うん……私が寝てもいなくならないでよ?」

「なんねぇよ。ああでも仕事が入るかもしれんし確約はできない」

「また帰ってきてくれるなら良いよ」

「そうかい。じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ」


千咲が空気を読んだのか、その日はあれ以上の仕事は来ずゆったりと一日を終えることができた。


最後まで読んで頂きありがとうございます!!!!!


複数の女の子から好意を抱かれる事について、あまり好きでは無い方がいたら申し訳ございません。

正直雪月にはここのまま灰をかぶったまま退場していただこうかとも考えたのですが……皆様的にはどちらが良かったでしょうか?

ささやかなシンデレラになった方が良いと考えて頂ければ幸いです。

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