誘拐
「大変です!!!」
「どうした?アルラルトが姿を消してからもう二日経った。そろそろ出てきたか?」
聖女ちゃん信仰隊クラン本部最上階クラン長室にて、あちこち出向く用のあるクラン長琴音にかわり書類を片付けていた茜の下へ一人の女が血相を変えて飛び込んできた。
雰囲気から良くない知らせだろうと察し現実逃避を無意識に口にした茜だが、直後安城が知らせを口にするよりも前に身に覚えのある魔力を感じ取り真面目な表情へと変える。
「そんな事ではありません!ギルドで働いていた子供達やまだ働くことのできない幼い子供達まで大きな木の幹に攫われてしまったんです!!」
「全員というわけでもないだろう。被害状況を正確に伝えろ」
「正確にはまだ掴めていませんが恐らく20人程かと」
「はぁぁ……。お前達は地下へ隠れていろ。いいか?全員に外に出るなと伝えろ。分かったか?」
「分かりました。副クラン長は?」
「私は化け物の相手だ。もし私が死ぬ様な事があればお前が指揮をとれ」
「は!?し、死ぬかもしれないんですか!?」
「それはそうだろう。この世界は元の生温い世界とは違うぞ?如何に力を有していようともな。ほら早く行動しろ、敵はもう目の前まで迫っているんだ。グズグズしている暇はないぞ」
「り、了解!」
安城の背を見送り「さてと」とインベントリから愛刀[ケラウノス]と茜の完全な戦闘服である修道服[ガムラ・ウプサラ]を装備し館の外へ出る。
泣き喚く子供達を縛り上げる木々共の中心に待ちぼうけを食らった乙女の様に鎮座する男へ、確かな怒気と殺気を送り刀を抜く。
「仁!これは一体何の真似だ!」
油断はしない。自らが持ち得る存在解放以外の強化の魔法を重ねがけしてゆく。
その身に轟々と唸る雷を纏い、近寄った者を恐々とさせるオーラを放ち、しかし自らは粛々と仁を見据える。
「馬鹿な質問はよせよ、俺が運営陣についたのは知ってんだろ?なら答えはわかる筈だ。塵は塵へと良く言うが塵と呼ぶにも烏滸がましい痴れ者共にお灸をすえにきたのさ」
「運営陣に属する気はないと言っていた筈だが、まさかたかだか一色の装備で本当に釣られたと言うのか?」
「それを逆賊に教えてやる義理はないな。知りたければ俺を屈服させてみるといい」
「そうか、ならばそうさせてもらおう。だがその前に一つ聞きたい、お前の目的は何だ?」
「お前の捕縛だよ。お前を捕まえて俺の周りでギャーギャー騒いでるゴミ共共々公衆の面前で惨たらしく処刑する。分かったらそんな子供騙しのオモチャは捨てて腹でも見せるんだ__全く、相変わらずせっかちな女だな」
左手に持つ納刀された状態の刀が振るわれた様には見えないが、言葉を遮り喉を裂かれた仁は思わず顔を歪ませて毒を吐く。
だが実際の所茜が起こしたアクションなどその程度、周りにまだ避難できていない人間がいる可能性がある以上怒りに任せてその刃を振るう事は許されない。
「さて、自ら腹を見せる気がないと言うのならそろそろ捕縛させてもらうぞ?何安心しろ、まだお前は殺さんしクソッタレの神に祈る機会も、お前と共に処分されるガキ共と会う機会もこの後ちゃんと用意してやる」
「ちっ……お前から一切の躊躇も魔力の揺るぎも感じないところを見るに、お前、本当に屑に成り下がった様だな」
「っははははははは!!テメェほんっっものの馬鹿だな!誰に恨まれようがこれっぽっちの利益にもならなかろうが、唯殺したいから人を殺す。成り下がるも何も、ゲーム時代から俺が屑だって事なんざ周知の事実だっただろうが!何だ?俺が人格改変の影響を強く受けていなさそうだったから善人なんじゃねぇかって勘違いしちまってたのか!?なら教えてやるよ!人格改変の影響なんざ誰も同じ様に受けてんだ!お前だって分かってんだろ!?個々で影響の大小が見られるのは改変後の衝動を抑えられるかどうかの精神力のさだって!でもよぉ…どれだけ我慢してたって心の底で燻ってる衝動は消えねぇんだ。辛くはないか?衝動を抑えて優等生ぶるのは。いいよなぁ、この町の人間は楽しそうで、本当に羨ましかったよ。だから辞めたんだよ。周りの奴らに気を遣っていい子ちゃんぶるのはよぉ…!」
随分と小根の腐り切った言葉ではあるがその言葉に一切合切の偽りは感じられなかった。
仁の言葉に何故か怒りが引いて行く。頭が冷え視界がクリアになり肩の力が程よく抜ける。
もう一片の躊躇はない。共に酒を飲んだあの仁は死んだのだと、よくよく理解できた。
「茜!周囲の市民の避難はできたわ!」
「茜さん、俺は子供達は俺が対処しますので、巻き添え何て気にせず貴女は彼だけに集中してください」
「了解。琴音、全力でやるぞ」
「ええ、勿論」
白銀の鎧を見に纏い巨大な盾を左手に持ち厳かな剣を右手に携える陽介と、茜と同じ修道服に身を包み赤い液体の入った小瓶を幾つか手に持つ琴音。
如何に相手がPVP最強と称されるプレイヤーであろうと、負けるつもりはない。
そう心に刻み、茜は抑圧していた魔力を一気に解き放つ。
「[存在解放、主神招来][この一撃にて神話を刻む]」
正真正銘茜の全力。
誰も追いつく事の叶わない人のだせる最高速度で地面を踏み抜くと同時に抜刀し仁へと刃を振り上げる。
たったその動作だけで方が付くとは考えて居ないが、その一撃で仁の体の大半を消しとばすつもりでいた。
「ぁがっ……!!!」
時間が飛んだ様な感覚に襲われる。
停止された時間に最も近い感覚を味わっていた筈がいつの間にか仁に首を掴まれ吊るされている。
「なっ!茜!!」
「茜さん!!」
「遅いわ阿呆」
小瓶を割ろうとした琴音の両腕を切り裂き地面を蹴り向かってきた陽介を彼方へと吹き飛ばす。
されどもそれで諦められるわけがない。
直ぐ様両腕を再生させそれと同時にインベントリから[冬至の生贄]という心臓の形をしたアイテムを取り出す。
が……
ブシャァァァァァ………
「あ”っがぁ”っ…!」
いつの間にか目の前に現れていた仁に四肢を切り落とされ心臓から右肩にかけて体を切り開かれる。
「だからあの時言っただろうに。後ろでグズグズすることしかできねぇ雑魚にゃ誰も救えねぇってよぉ?」
「お”っまえ”ぇぇ!!!」
激しい怒りと憎悪と共に自らの成した偉業を再現しようとするが思ったように魔法を使うことができない。
切り札にと、仁へ仕返しをする為にと用意していたものが全て無駄に終わる。
ここぞという時に、やはり琴音は何もできなかった。
「じゃあな聖女サマ。幼馴染が殺されるその時まで、精々親指しゃぶって神に祈っとくんだな」
無数の枝に顔も体も貫かれ、次第に眠気が琴音を襲う。
怒り、憎悪、悔恨、悲痛、祈念。様々な感情でぐちゃぐちゃになる頭で、今まで幾度となく感じてきた無力感を抱き意識を落とす。
「こ……とね………」
枝に首を絞められ上手く発音する事はできないが、それでも黙って見ていることができずに自然と言葉が漏れる。勿論今すぐに琴音の下へ駆けつけたいが、体内を侵す仁の魔力により魔法を使えず拘束のせいで琴音に近づくことができない。
いつか桃華の言っていた魔力の陣取り合戦の話を思い出し、元より勝ち目などなかったのかと汚辱に唇を噛む。
「お前さんも眠りな」
自ら傷つけた琴音の体を治癒しながら何処か物憂げな表情でこちらを見上げる仁の目を最後に、首に刺さった枝から通じた魔力の影響で視界が暗転する。
「はぁぁ………」
(改変後に獲得した感覚的な魔力操作じゃダメだ。もし事が上手く運べばコイツ等にはちゃんとした魔力操作技術を培ってもらわねぇとな……勿論、このわだかまりのせいでコイツ等に会う事は出来んだろうが、せめて伝言くらい届けてもらうのはいいだろ)
十数人の子供と茜を枝で持ち第一階層へと動き始める。
その移動を見たものは皆、さながら森が動いている様に見えたと後に語った。
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