10.マディの両親の埋葬
「しばらくは、俺以外は町にはいかないようにしてほしい。
今回の盗賊には、仲間がまだいるようなので、みんなは町に出るには危険だ。
リルとマディは、さっき話したようにあの町に戻るのは禁止だ。
2人供顔が割れているので狙われる可能性もあるし、
今回の騒ぎで衛兵にも捜索されるだろう。」
「はい。かしこまりました。」
「ミーアとジャックも、しばらくはやめておいた方がいいだろう。
ジャックも狙われる可能性もあるしな。
でも、ほとぼりが冷めたら、町に戻る選択肢もあるから、それは相談してからだな。」
「うん・・・。また襲われるのはやだ・・・。」
「まあ、ジャックの意思にかかわらず、しばらくはここにいるように説得はするよ。」
「うん。食べ物がお腹いっぱい食べれるし、安全なここ好き。」
「アリスは、町に行っても大丈夫だとは思うけど、1人では危険なので、
行く時には俺と一緒だ。」
「うん。でも、戻らなくていいなら、町には戻りたくないな。」
浮浪児に、町は危険だらけなので、ここで生活出来るなら、戻りたくない。
俺は、お金を稼いだり、いろいろ買ったり、冒険者ギルドにもいかないといけないので、
そうも言ってられないけどね。
「これからの方針を決める前に、少し質問していいかな。」
大人2人の顔を見て確認する。
「はい。」
「じゃあ、まずはリルから聞いて行こう。何が出来る?」
「私は、村に住んでいた時には薬剤師をしていました。
盗賊に攫われてからは食事を主に作ってました。」
「薬剤師だったのか。」
「はい。」
「薬剤師という事は、薬草なんかから病気の治療薬や、
ケガの治療薬を処方する事が出来るって事か?」
「はい。それ以外にも、森の野草や山菜、果実など、
食べられる物と、薬で使う物などの知識はあります。」
これは素晴らしい人材かもしれない。
「それはいいな。後ででいいんで、薬草の仕分けを手伝ってほしい。
ハーブの仕分けが出来れば、料理がうまくなるはずだからな。」
「ハーブですか?」
「後で仕分けの時にでも、説明するよ。」
「はい。わかりました。」
「マディはなにか得意な物はあるか?」
「私は、料理全般が得意です。」
「なるほど、パン屋だったんだもんな。
調理器具も結構揃えてたし料理好きなのは判るな。
じゃあ、料理の主担当をやってもらう事になるかな。
後、独自の調理法というのも教えるので、
その作り方も覚えて行ってくれるとうれしいな。」
「はい。わかりました。」
「リル、マディ。読み書き計算はどう?」
「はい。簡単な物なら。」
「じゃあ、時間のある時でいいのでアリス達に教えてやってほしい。
読み書きについては、教材を借りてるのでそれでやってもらう形でお願い。」
「分かりました。」
「では、近々の方針だけ話しておくよ。
まずは、資金を集めたい。
生活を安定させるという目標もあるが、継続的な資金増加を目指す。
その為、狩り、解体、販売を主に行っていく予定だ。
幸い、専属契約を2つほど貰っている。
ただ、今は解体が間に合ってない状態だ。
リルとマディは解体はできる?」
「いえ・・・。やった事ないです。」
「私は、簡単な物なら経験あります。」
マディは、料理が得意というだけあって経験あるようだ。
「時間の出来た時でいいので、2人とも解体を覚えて行ってほしいな。」
「はい。」
「あとは、ここでの生活についてだ。
ここでは常に清潔に生活をしてほしい。
その為、毎日水浴びして、トイレも綺麗に使い、掃除も毎日してほしい。
髪も短めに切り、より清潔である事を目指してほしい。
地下の閉鎖された空間なので、誰かが病気になると全員病気になってしまう。
なので注意してほしい。
あと、食事についても腐りかけの物とかは食べないように気を付けてくれ。
外敵よりも、そういった病気の方が怖いから。」
「はい。」
「リルとマディは髪を切ってしまいたいので、リルは先にお風呂に入っててほしい。
マディは、両親とのお別れが終わってから頼む。」
「はい。」
「あとは、明日の予定の話をしておこう。
明日、俺は早朝から町に行って作業があるので、朝食の前に出かける事になる。
終わったら帰って来るが、昼は過ぎると思うんでお昼は食べててくれ。
後、シーツとかの買い物もしてくる予定だ。
アリスは、解体の続きをしてほしい。ミーアも手伝ってくれ。
リルと、マディも解体を手伝ってほしいけど、洗いものや調理もあるから、
そっちを優先して、合間にやってくれたらいいから。
あと、解体に疲れたら文字の勉強って感じでお願い。」
「では、話は以上です。ア
リスとミーアはもう遅いのでもうそろそろ寝た方がいいね。」
「は~い。ミーア一緒に寝よ。」
「うん。」
「マディ。行こうか。」
「はい。」
遺体の置いてある小部屋に行き、ご両親の遺体を亜空間に収納する。
合わせて、小部屋は潰しておく。
地下の階段を上がり外に出て、河原に移動し、景色の良さそうな所を探す。
そこに魔法で穴を掘り、遺体をそこに安置する。
「これで最後だ。」
マディは、穴の中にはいり、両親に口づけをした。
父親と、母親の手をつないで、そこに自分の手を重ね、目を閉じ黙ったままで、
一生懸命伝えたい事を話した。
「はい。」
マディは、両親から離れ俺の方にやって来て、そうつぶやいた。
「マディ。悪いが火葬にするよ。」
「・・・おねがいします。」
魔法で遺体の周辺の温度を上げて行き、遺体が炎を上げて数秒で燃え尽きる。
なんと人の儚い事か・・・。
「埋めるよ。」
「はい。」
魔法で穴を埋め、西洋風の墓石を作ってあげる。
「お墓・・・。」
通常平民には、お墓は無い。
平民は葬式の後、死体は衛兵に渡され、まとめて外で焼かれるようだ。
この世界での、平民の扱いはそういう扱いなんだ。
「これくらいはな・・・。戻ろうか。」
「はい。」
地下部屋に入る前に、マディが声をかけて来た。
「魔法使い様。」
「ん?」
「申し訳ありませんでした。」
「・・・。」
「私の夫が、魔法使い様にやった事は絶対に許せません。
私も一緒にいたのに止められなかった。
私も、魔法使い様に裁かれても仕方がないのに・・・。
両親に会う機会を作っていただき、埋葬そして、お墓まで作っていただきました。
このご恩は決して忘れる事はありません。
私ごときの命では、恩を返せるものではありませんが、私の一生をあなた様に捧げます。」
そう言うと、マディは俺の前で土下座の体制になり、俺の足に口づけをした。
「わかった。ありがとう。
マディにはこれからもおいしい料理を作ってもらいたいからな。
そう気張らずに、出来る事を出来るだけやってくれたらうれしいな。」
「はい。誠心誠意頑張らせていただきます。」




