15 初めましてでしょーが
吸血鬼にとっては、いつ日付が変わるのだろうとか考えてたら頭痛くなってきましたよ。
もう、人間と同じでいいでしょうか?
それとも、寝て起きたら次の日、日が登ったら次の日の『夜』でいいでしょうか?
どっちにしましょうか?
ローゼは『もうすぐ産まれそう』などと言われながら、悪夢から目覚めた。
いや、まだ悪夢は終わってなどいなかった。
なぜなら、
白くきめ細かい柔肌、
深い海を思わせる蒼い虹彩、
所々はねている艶やかなくせ毛、
緩やかな曲線を描き、腰まで伸びた銀髪、
人並み、より少しだけ小ぶりな胸のふくらみ、
カモシカを想起させるすらりと引き締まった肢體、
シャープな印象をあたえ、それでいて丸みを帯びた女らしい顔の輪郭、
ect...ect...
つまり、ローゼとうり二つな全裸の美少女が、否、ローゼ自身が目の前にいた。
ただ、ニヒルにゆがんだ唇だけがその顔に似合わなかった。
そんな奴がベットで寝ていたローゼを覆いかぶさるようにして存在していた。
† † †
[混乱しないように、ローゼさんをローゼ壱、覆いかぶさっている方をローゼ弐とします]
† † †
ローゼ弐がゆがんでいる唇を開ける。そこから飛び出してきたのは、
「キャアアァァアァァアアァァアア――――――――ッ!!」
甲高い悲鳴だった。
尤も、悲鳴を上げたいことになっているのはローゼ壱だが。
よく分からないが、このままではされるがままだ、と思い、
取り敢えずローゼ弐の下から抜け出そうとするローゼ壱。
だが、ローゼ弐に力を絶妙にそらされ、ローゼ壱弐共々、半回転。
ローゼ壱がローゼ弐を押し倒したような格好になった。
その時、部屋の扉が開いて、文字通りニルソニアが飛び込んできた。
「ローゼ!! 大丈――――――――夫………?」
と、言ったきり、自身の目頭をほぐすニルソニア。
† † †
[え? 『余計に分かりにくくなった』ですか? う~ん、どうしましょう。……じゃ、ローゼ壱、即ちローゼさんはローゼ、ローゼ弐、即ちどこぞの馬の骨は存在X、とでも呼びましょうか。ローゼがゲシュタルト崩壊寸前ですね]
† † †
未だ、現実を受け止められていないニルソニアに向かって、ローゼと存在Xは異口同音に
「「私が本物のローゼです! 信じてくださいお嬢さま!」」
と、叫んだ。
ローゼは内心焦りながら、存在Xは内心面白がりながら。。
どちらも思う事は同じ、即ち、ニルソニアは見分けることはできるのか。
ニルソニアはそれを受け、ようやく目の前の光景が現実だと分かり、分かり、
「今度は幻聴? 誕生日に慣れないことはするもんじゃないわね……誕生日、昨日だったわぁ……」
† † †
[分かってなかった! 全然分かってなかった! これにはさすがの私も苦笑い!]
『貴様のことはどうでもいい。話を進めろ』
[ハーイ。う~んと、少しばかり書き方変えますね]
† † †
「「本当のローゼはこの私です!」」
と、ここまでは意図せず……たぶん意図せず二人とも同じ台詞を発した。
だが、続く言葉が分かれた。
ローゼは「ニルソニア様!」と。
存在Xは「御主人様!」と。
ニルソニアの眉間をほぐしていた手が止まった。
顔を上げ、二人のローゼが重なり合っているベットに近づく。
その足が踏みしめるは地から宙へと移り変わりゆく。
吸血鬼が翼をはためかせ、空を歩いてくる。
二人の前までくると、上に乗っていたローゼを足で転がし。
「ニルソニア様?!」
下に挟まっていた存在Xを引きずり上げ。
「御主人様!」
にこやかに笑いかけた。
その笑みはローゼにとって見覚えのあるもので、つい先日自分に向けられたものだった。
ローゼは複雑に絡まった感情をため息として吐き出した。
ニルソニアは引きずり上げた存在Xをベットの上に立たせ、
自身はそのまま一歩、二歩と後ろに進み、ベットの外に立った。
「さて、何か言うことがあるんじゃないかしら」
ニルソニアは腕組みをして、上にズレる。
「信じてくれてありがとうございます! 御主人様!」
ニルソニアを見上げる存在Xの目はうるんでいた。
だが、
「違うでしょ」
「え?」
翼を大きく一打ち。急降下。
「初めましてでしょーが」
存在Xの土手っ腹にドロップキックが炸裂した。
プキュッ、と可愛らしい音を立て存在Xは吹き飛んだあと、壁にぶつかった。
前から後ろに髪を払い、ニルソニアが一言。
「発言を言撤するわ。全然お母様に似てないって言ったけれど、あのローゼ、いいえ、ローゼの形を借りたナニカに比べたら、まだ似てる」
† † †
[あ~。地味にキレてますね、ニルソニアさん]
[ところで、我らが父。いたずらが過ぎると、娘様より苦情をきてます]
[なので、川で頭を冷やしてきて下さい]
『分かったから、そのロープから手を離そう』




